新型コロナウイルスによる小学校などの休校により、子どもの世話のために仕事を休んだフリーランス向けの支援金支給要領で、「風俗営業などの関係者」が支給除外されていることがネットで波紋を呼んでいます。

これはフリーランスの保護者が働けなかった日について、1日当たり4100円の支援金を支給するものです。ネットでは「職業差別ではないか」、「人権上も大問題だ」、「国が営業を認めている仕事じゃないんですか」と撤回を求める声が相次いでいます。

ナイトビジネスに詳しい若林翔弁護士は、今回の支給除外について「他の職種の人たちよりも支援の必要が高い場合も多い。これらの業種を一律に対象外にすべきではなく、反社会的勢力資金洗浄に使われたり、資金源になるようなケースがあれば、個別の法律を適用して対応すべき」と批判します。

●どんな店が不支給対象?

フリーランス向けの「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応支援金」支給要領支給要領をみると、不支給要件の(1)で「風俗営業等関係者」とあり、さらに2つの項目に分けて「風営法」(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)で規定されている店舗について細かく指定があります。

どのような店が不支給対象となっているのか、若林弁護士に聞きました。

ーー(1)の1で指定されているのは、どのような店ですか。

風営法の条文ってわかりづらいですよね。

まず、風営法2条1項1号に規定されている「キヤバレー、待合、料理店、カフエーその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業」です。これは、1号営業店や接待飲食店などと呼ばれています。

「接待」を伴う飲食店がこれにあたり、キャバクラホストクラブが典型的な例です。ガールズバー、スナック、サパーという名称であってもこの1号営業店にあたる場合があります。

待合、料理店、カフェーなども記載されていますが、一般用語とは異なります。例えば、カフェーは、喫茶店ではなく、戦前に多くあった「女給」さんが接待をする飲食店です。待合は芸妓さんがいる京都のお茶屋さんのイメージです。

ーーさらに、風営法2条5項に規定する「性風俗関連特殊営業」の一部が指定されています。

「店舗型性風俗特殊営業」は、店舗型のヘルス、いわゆる箱ヘルです。「無店舗型性風俗特殊営業」は、無店舗型のデリバリーヘルス、いわゆるデリヘルです。「店舗型電話異性紹介営業」は、テレクラです。「無店舗型電話異性紹介営業」は、伝言ダイヤルやツーショットダイヤルです。

上記の事業所において、さらに「接待業務に従事する者」など3つの要件がついていますので、(1)の1では 基本的には、実際に接待行為などをするキャストさんが不支給対象になります。

キャバクラ、ホスト、箱ヘルの派遣業務者も

ーー次に、(1)の2で指定されているのは、どのような業種ですか。

まず、(1)の1で指定された、キャバクラホストクラブ、箱ヘル、デリヘル、テレクラ、ツーショットダイヤルの営業をしている人が不支給対象となります。

さらに、コンパニオン等の派遣業務をおこなう「接客業務受託営業」 も指定されています。この「接客業務受託営業」について、風営法は、以下の4つのパターンを規定しています。

接待飲食等営業(キャバクラホストクラブ) 店舗型性風俗特殊営業(箱ヘル) 特定遊興飲食店営業(踊る方のクラブ) 酒類提供飲食店営業(バー、酒場)

このうちの、最初の二つ、キャバクラホストクラブ、箱ヘルに対するコンパニオン、キャストを派遣する業務をおこなっている者が、不支給の対象だと記載されています。

2文目では、キャバクラホストクラブや、これらの店へのコンパニオン派遣業をおこなっていても、その経営者で雇用調整助成金の支給を受けようとする場合には、不支給の対象外にすると書かれています。

また、キャバクラホストクラブとして1号の許可を得て営業していても、その実態は接待をしていないガールズバー等であれば不支給の対象外になります。

厚生労働省の見解は?

なぜ、このような除外要件が設けられたのでしょうか。

臨時休校による国の支援については、保護者に有給休暇を取得させた事業者に対する助成金も創設されていますが、ここでも「性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業またはこれら営業の一部を受託する営業を行う事業主は受給できない」という規定があります。

こうした要件について、厚生労働省の担当者は「過去に企業向け助成金で反社会的勢力資金洗浄に使われていたようなケースがあり、不支給要件に入っている。個人事業主に対しても、事業主向けの支給金の一類型に該当するとして、同じ要件の中で支援金を伏させていただいた」と説明しました。

今回の支援金の創設にあたって、不支給要件の再検討はしておらず「支援金は早めに出す必要があるという政府の考えのもと、統一的な要件でやらざるを得なかった」と言います。

今後要件を見直すかどうかについては、「今のところ検討していない」と話しました。

また、「職業を除外するものではない」としつつ、「支援金には国の税金が使われる。支援対象の個人事業主が直接反社会的勢力に関係していなくても、風俗等に類型した業種に関わることで、資金源を担っていることも考えられる」と説明しました。

●他の職種の人たちよりも支援の必要が高い場合も多い

今回の不支給要件は、業種を指定して丸ごと不支給対象としています。若林弁護士は「風俗やキャバクラホストクラブなど、ナイトビジネスの現場に関わる者としては、これらの業種を一律に対象外にすべきではない」と批判します。

「風俗等で働く人たちも、他の職種の人たちと同じように、子供の面倒をみるために仕事を休まざるを得ないことがあります。 また、風俗等で働く人たちの中には、そもそも経済的に恵まれない環境下におかれている人もいます。風俗等で働きながら頑張って子育てをされているシングルマザーの人もいます。 むしろ、他の職種の人たちよりも支援の必要が高い場合も多いのではないでしょうか。 さらに、東京都は接待をともなう飲食店が感染原因の一つとなっていることを理由にその自粛を呼びかけています。働けず、支援もなく、自粛ができるのでしょうか。 感染の拡大を防止するという観点からも風俗等で働く人たちにも支援を行き届かせることが必要だと思います」 ●他の職種とを区別することには合理性がない

厚労省は、過去に企業向け助成金で反社会的勢力資金洗浄に使われていたようなケースがあり、不支給要件に入っていると説明しています。

若林弁護士は「確かに、以前は反社会的勢力とのつながりは強かったと思いますが、近年では、反社会的勢力とは一切付き合わないナイトビジネス経営者が非常に多くなってきている」と話します。

「昨年、東京都暴力団排除条例が改正され、みかじめ料等について、支払いをした側も罰則を科されるようになりました。各都道府県暴力団排除条例も改正が進んでおり、ナイトビジネスと反社会的勢力との繋がりは、さらに薄れてきています。 反社会的勢力資金洗浄に使われたり、資金源になったりするケースがあれば、それは個別事案について、改正された暴力団排除条例や、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律など個別の法律を適用して対応すべきです。 そうだとすれば、風俗等のナイトビジネスに関わる人を他の職種とを区別することには合理性がないと考えます。 新型コロナウイルスの蔓延にともなう不測の事態にあるからこそ、本当に必要な人に、必要な支援が行き届くような政策を強く希望します」

【取材協力弁護士】
若林 翔(わかばやし・しょう)弁護士
顧問弁護士として、風俗、キャバクラホストクラブ等、ナイトビジネス経営者の健全化に助力している。また、店鋪のM&A、刑事事件対応、本番強要や盗撮などの客とのトラブル対応、労働問題等の女性キャストや男性従業員とのトラブル対応等、ナイトビジネスに関わる法務に精通している。
Youtube:『弁護士ばやし』チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UC8IFJg5R_KxpRU5MIRcKatA
事務所名:弁護士法人グラディアトル法律事務所
事務所URL:https://fuzoku-komon-law.jp/

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