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 今のところ、火星へひと走りして、お使いを済ませて帰還などということはできない。だが、ときおり火星よりの使者が地球に来訪することはある。

 「NWA 7034」と呼ばれるサハラ砂漠で発見された火星の隕石だ。あるいは、南極で発見され、火星の微生物を含んでいるのではないかと騒がれた悪名高き隕石「アラン・ヒルズ84001」がそれだ。

 『Nature Geoscience』(3月30日付)に掲載されたこれらの隕石の分析によると、火星はその初期に、化学的性質が大きく異なる少なくとも2つの別個の水源から水を手に入れていた可能性が高いのだそうだ。

 また地球や月とは違い、マグマの海に飲み込まれるような状況は一度もなかったらしい。

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隕石の中に残されている”水の化石”

 火星はかつて水が豊かな惑星だったと考えられている。だが、その水がどこからきて、どのくらいの期間地表に存在したのか? こうした火星の水の歴史は謎に包まれている。

 それを解き明かすヒントになるのが、激しい衝突によって砕けて、ときおり地球に飛来する火星の隕石だ。そこには「水素同位体」が閉じ込められている。

 同位体とは、同じ原子番号を持つが、中性子の数が異なる元素のことだ。水素1はその核に陽子を1個だけ持ち、ゆえに「軽水素」と呼ばれる。水素2なら、陽子1つと中性子1つを持ち、「重水素」と呼ばれる。

 これらが含まれる比率を調べることで、水素や水がどのような変遷を辿ってきたのか窺い知ることができる――科学者にとっては、いわば”水の化石”のようなものだ。

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NASA/JPL-Caltech/University of Arizona

地球は軽水素、火星は重水素が多い


 地球の場合、大気も、岩石に含まれる水も、海水も、重水素と軽水素の比率はほぼ1対6420だ。つまり、ほとんどが軽水素によって占められている。

 一方、火星の大気の場合は、太陽風が軽水素を吹き飛ばしてしまうために、ほとんどが重水素で占められている。

 だが火星の隕石となると、地球の大気と火星のそれの比率の全域にまたがっている。火星の隕石はそこかしこに点在するので、一貫した結果を得ることができない。そのため、この分析から水について何らかの結論を導き出すことは難しかった。

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Alexander Antropov from Pixabay

火星には2つの水源があった!?


 そこでアリゾナ大学(アメリカ)のグループは、元々火星の地殻の一部だったことがはっきりしている隕石——すなわち39億年前のアラン・ヒルズ84001と15億年前のNWA 7034の水素同位体比率を、最新の分析技術で調べてみることにした。

 その結果、これらの同位体比率は、地球の岩石と火星の大気の中間くらいであることが判明した。またキュリオシティが分析したもっと新しい岩石の比率とも近かったという。火星の歴史40億年のほとんどの期間で、水素同位体の比率はさほど変化しなかったということだ。

 過去の研究を鑑みれば、まったく意外な結果だったそうだ。大気の比率は変化しているというのに、地殻はほとんど一定のままなのはどういうわけであろうか?

 あまりにも意外な結果だったために過去の文献を再検証してみたところ、火星のマントルが起源の火星隕石の比率は、「シャーゴッタイト」という火山岩に属する2グループと同じであることが分かったという。

 濃縮シャーゴッタイト(enriched shergottite)ではより重水素が多く、劣化シャーゴッタイ(depleted shergottite)では重水素が少ない。そして、この両者の比率を平均すると、アラン・ヒルズ84001とNWA 7034で確認された地殻の比率になる。

 研究グループによれば、このシャーゴッタイトは2つの異なる水素の痕跡なのだという。そしてこのことから、火星に水をもたらした水源は1つだけはなかったと推測できる。

 このことはさらに、地球とは違って、マントルの下に溜まったマグマが地表に吹き出し、全体を飲み込んでしまうような事態は、火星の歴史にはなかっただろうということでもあるらしい。

 隕石からの発見は、火星の水の歴史を垣間見せてくれるだけなく、かつての火星の居住可能性や生物について理解する上でも重要な発見であるそうだ。

References:A Martian Mash Up: Meteorites Tell Story of Mars' Water History | UANews/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52289446.html
 

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