総選挙は体制選択の重大な岐路

 韓国では4月15日、国会議員300人を選ぶ総選挙が行われる。

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 昨年11月に任期5年の折り返しを過ぎた文在寅大統領への国民の中間評価となり、革新系与党の「共に民主党」が敗北すれば政権はレームダック(死に体)化し、その野望(後述)を達成できなくなる。

 逆に同党が勝利すれば、文在寅氏はこれまで進めてきた司法改革などを完遂し、いわば「無血革命」により左翼政権による韓国の完全・永久支配体制を完成する可能性がある。

 文在寅氏はかねがね北朝鮮スパイと噂をされている。

 それが事実なら、戦国武将の斎藤道三父子が一介の油売りから身を起こし美濃国を「国盗り」したように、同氏が韓国を完全に「国盗り」し、親北朝鮮・中国の国家に転換してしまえば、それは世界スパイ史上に残る傑出した「偉業」になるだろう。

 その暁には、文在寅氏が目指す親北朝鮮・親中国政策の究極の「形」として、朝鮮戦争以降、今日の韓国の平和と繁栄をもたらした米韓相互防衛条約体制を破棄する可能性もなしとはしないのではないか。

 一方の米国にも、韓国を切り捨てる可能性が醸成されつつある。

 米国は、ジミー・カーター政権以来、在韓米軍を削減してきた経緯がある。加えて、文在寅大統領の登場で、「従北・親中、反日・脱米」の傾向が前朴槿恵政権以上に顕著となり、これには米国も我慢の限界に達しているのではないか。

 また、米国は中国と覇権争いをしているが、このたびの新型コロナウイルス禍で、もしも中国が優位となれば、米国は朝鮮戦争直前にアチソン国務長官が示したアチソンラインに米国の守備ラインを後退させるかもしれない。

 同条約の終了(破棄)については、第6条で「いずれに一方の締約国も、他方の締約国に通告を行つてから1年後にこの条約を終了させることができる」としている。

 米韓関係は、両国関係のみならず日本・中国・ロシアなどを加えた複雑多岐にわたる力学が働いているものの、最終的には米韓両政府の意思決定により決まる。

 米韓のどちらが同条約の終了を通告するのか分からないものの、いずれかが歴史的な決断を下す可能性はある。

 来る韓国の総選挙は、「米韓相互防衛条約の維持」か、新たに「中韓同盟を締結」するか、という「体制選択」の重大な岐路になる可能性がある。

 その結果次第では、韓国民は哀れな末路を辿ることになるかもしれない。そのことは韓国民が重々承知しているはずで、来る総選挙で民意が示されることだろう。

 注目の選挙情勢だが、韓国の当面の最大の課題である新型コロナウイルス対処では文在寅氏が一定の成果を挙げている。

 3月5日テドロスWHO(世界保健機関)事務局長が「韓国の新型コロナ新規感染は減少傾向。心強い兆候だ」と評価した。

 このほか、ユヴァル・ハラリ氏(著書「サピエンス全史」で人類の発展の歴史をひもといたイスラエル歴史学者)も日本経済新聞に寄稿した「コロナ後の世界への警告」の中で、「韓国は新型コロナウイルスを封じ込める取り組みで大きな成果を挙げた」と褒めている。

 このように、文在寅氏が新型コロナウイルス対処で成果を挙げれば、与党「共に民主党」にとって追い風となるだろう。

米韓相互防衛条約破棄後のシナリオ

 以下、「米韓相互防衛条約が破棄されたら」という仮定で、韓国と中国・北朝鮮の関係がどのようになるか、改めて考えてみたい。

●韓国は中国の支配下に入り冊封の時代に逆戻りする

 韓国が米韓相互防衛条約を破棄すれば、それに代わるものとして中韓同盟が締結されるのは自然の流れだろう。

 中韓同盟の眼目は、日本と米国を仮想敵国に据えることである。

 韓国にとって中韓同盟の締結は日清戦争以前の状態、すなわち中国の冊封体制の下に戻ることになる。

 米国という庇護者がいなくなれば必然的に強大な中国の強い影響下に置かれることは不可避であろう。

 中国の影響下に入ればどうなるか。それは中国の皇帝に対して卑屈な朝貢を余儀なくされた歴代朝鮮王朝の仕儀を見れば分かるだろう。

 また、卑近な例では「一国二制度」の名のもとに、1997年、英国から中国へ返還・譲渡(主権移譲)された香港の例を見れば明らかだろう。

 中国共産党による一党独裁政権の怖さは、その「魔手」から逃れるために八方手を尽くしている台湾を見れば頷けるだろう。

●一民族二制度

 韓国が中国の軍門に下れば、中国は当面「一民族二制度」を採用するだろう。

 朝鮮民族の悲願である統一は決して許さないだろう。その理由は2つある。一つは、韓国の経済力では北朝鮮との統一はできないからだ。そのことは、韓国にとっても好都合だろう。

 もう一つはディヴァイド・アンド・ルール(分割統治)政策である。

 韓国と北朝鮮が統一して統一朝鮮国(仮称)が生まれれば、朝鮮民族のコントロールが難しいからだ。

 韓国と北朝鮮を分割統治して、互いに反目させ、それを調停する形でコントロールする方が中国にとっては容易である。

「聞き分けの良い方」を褒めてやり、「中国の意にそわない方」はたしなめる。そのような調教を繰り返し、韓国と北朝鮮の「忠誠競争」を煽るのだ。

 一方、文在寅氏と金正恩氏はそれぞれの思惑で民族統一の悲願を達成しようとすることだろう。そのためには、韓国と北朝鮮が接近・協力して、中国との鬩ぎ合いをする事態も考えられる。

●政治力・軍事力は北朝鮮が優位:究極的は金王朝による南北統一

 政治力・軍事力から見て、北朝鮮が韓国よりも優位に立つだろう。

 北朝鮮朝鮮戦争では中国と一緒に米韓軍主体の在韓国連軍と戦った経緯――「血の友誼(ゆうぎ)」――があるうえに、中国と同じ共産主義国家(実態は違うが)でもあり、その関係は建国以来続いている。

 その意味で北朝鮮の方が、新参者の韓国よりも政治的には「兄貴分」であることに異論はないだろう。韓国政府・韓国民は経済力とは裏腹に、政治的には常に「格下」に甘んじなければならないだろう。

 韓国が「格下」になる理由は軍事面からも言える。

 北朝鮮は既に核ミサイル戦力を保持している。通常戦力(艦艇、戦車、航空機などの非核戦力)は韓国が優れているものの、北朝鮮核ミサイル戦力には敵わない。

 総じていえば、韓国という「弟分」は、北朝鮮という「兄貴分」に頭を押さえられてしまうのは必然だろう。究極的に見れば韓国は金王朝により統一される、とみるべきだろう。

●経済は「金王朝による韓国の富の搾取」の構図

 2015年の国連統計によれば、名目GDP(国内総生産)は北朝鮮が1兆8237億円、韓国が154兆3218億円で、その比は「1対85」となり、韓国の方が圧倒的に上である。

 しかし、上記のような政治上の優劣により、韓国は北朝鮮から搾取されることになるだろう。

 韓国と北朝鮮の経済協力は開城(ケソン)工業団地がそのモデルであろう。北朝鮮が土地と労働力を、韓国が技術と資本を提供する。

 これは、北朝鮮の国益というよりも、金正恩氏による大量の資金稼ぎになる。韓国の富を金王朝が搾取するという構図になるのは必至だろう。

 韓国の富のお陰で北朝鮮人民は飢餓から脱することができ、故金日成主席の悲願だった『(人民が)白米を食べ、肉のスープを飲み、絹の服を着て、瓦屋根の家に住む』が叶うようになる。

 その一方で、皮肉なことに、韓国民は北朝鮮人民に富を奪われ、自分たちは相対的に貧しくなることになる。

 東西ドイツの統一を見れば、韓国と北朝鮮が統一の効果で共存共栄できる体制は相当の時日を経なければならないだろう。

 さらに言えば、韓国が資本主義国家盟主の米国と手を切れば、韓国経済は大激震に見舞われることだろう。

 韓国に進出している米系、日系、台湾系などの外資が一斉に撤退し、韓国株は大暴落、ウォンは急落し、韓国経済は一挙に破綻するのではないだろうか。

●個人の自由・人権の剥奪

 韓国が米国と袂を分かち、中国・北朝鮮サイドに転入することは、金正恩氏にとって手放しで喜べることだけではない。

 北朝鮮人民と韓国民の交流が始まれば、「自由や民主主義」といった金正恩氏から見れば「害毒」に相当するものが流入することになろう。金正恩氏はこれを防ぐことに注力することになる。

 そのためには、「弟分」の韓国政府にも北朝鮮人民に対するのと同様の「市民抑圧政策」をとってもらわなければならない。

 韓国民は自由と民主主義を抑圧されることを覚悟しなければならない。

●親米・親日派の徹底弾圧・財産剥奪・北朝鮮流の身分制度の誕生

 文在寅氏は就任以来「親日清算」を実施している。

 もしも、米韓同盟が破棄されれば、それに加え「親米清算」も行われるだろう。こうなれば、韓国の保守派は根こそぎ弾圧される覚悟を持たなければならないだろう。

「清算」の中身は、身分上の差別や財産の剥奪が含まれよう。それゆえ、もしも米韓同盟破棄が現実のものとなれば、韓国内の保守派(親日・親米派)は、国外に亡命・逃走せざるを得ないだろう。

 この状態が深化すれば、韓国にも身分制度=両班(ヤンバン)制度の変形ができるかもしれない。

 北朝鮮では身分制度があり、「核心階層」、「動揺階層」、「敵対階層」に分類されているという。

「核心階層」は支配する側の人たちで、金王朝の「王」に対する忠誠心が一番高いクラス。北朝鮮の首都平壌に住み、多くの恩恵を受けている。

「動揺階層」は、政府や軍からの監視対象となり、核心階層の人に比べて裕福な生活は送れないものの、一応普通に暮らせる身分である。

「敵対階層」は、北朝鮮にとって体制に反抗する可能性が最も高い危険人物という認識を持たれている。

「朱に交われば赤くなる」の例えのように、韓国が北朝鮮と交流を深めれば、上記のように韓国内でもそれに倣う身分制度ができるかもしれない。

●反日は南北共通の内政・外交上の“特効薬”

 2018年、李栄薫氏ら6人が『反日種族主義』という本を出版し、日本を絶対悪とする韓国人の「反日種族主義」に警鐘を鳴らした。

 韓国が米国と袂を分かつようになっても、反日は韓国と北朝鮮共通の内政・外交上の“特効薬”であることには変わりないだろう。

 韓国と北朝鮮の間で利害が反する際には巧妙に反日の“花火”を打ち上げ、対立を回避する策を取るだろう。

 韓国にとって、反日オペレーションの際には北朝鮮核ミサイルも役に立つ。

 両国は一体となって反日政策を展開することだろう。当然、中国はそれを日本揺さぶりの具として利用するはずだ。

唯一の逆転策は韓国軍によるクーデター

 総選挙で勝利した文在寅氏が“ルビコン川を渡る”のを引き留めることができるのは唯一韓国軍によるクーデターであろう。

 韓国の今日の富と民主主義をもたらしたのは、皮肉にも朴正熙陸軍少将(当時)と全斗煥陸軍少将(当時)が軍事クーデターで強力な政権を確立したからではないか。

 韓国軍人の中に「我々が今起たなければ、この国は北朝鮮と中国の傀儡国家なる」という危機感を持つ将校が現れるかもしれない。

 もちろん韓国軍の動向は、韓国の国家情報院(KCIA)と米国のCIA・DIA(国防情報局)はもとより、中国の情報機関(中国共産党中央統一戦線工作部、国家安全部、中国人民解放軍総参謀部第二部)と北朝鮮の情報機関(朝鮮人民軍偵察総局と朝鮮労働党統一戦線部)が密かに監視しているはずだ。

 発覚すれば、文在寅氏に内通するかもしれない。

 文在寅氏により韓国軍や情報機関は骨抜きになった感があり、韓国軍によるクーデターはあまり期待できないかもしれない。

日本にとって最悪のシナリオ

 韓国によるGSOMIA破棄や徴用工問題などは、米韓同盟破棄に比べればそのインパクトは小さい。

 米韓同盟が破棄されれば、在韓米軍は撤退し、日本はユーラシア大陸正面にバッファーゾーンを失うことになる。

 日米同盟を基軸とする日本は、文字通り“最前線”に立たされることになる。憲法9条の下にある今の日本にその気概があるかどうか、心もとない。

 韓国は在韓米軍を受け入れたように、在韓中国軍を受け入れるかもしれない。

 そうなれば、日本は、従来の北海道に迫るロシア軍の脅威と南西諸島伝いに北上する中国軍の脅威の三正面に対処せざるを得ない。まさに最悪の状況となる。

 このような意味から、我々は今次韓国の総選挙を注視すべきだろう。

 日本政府・外務省には、中国やロシアのように、韓国の総選挙に水面下で工作するような意図や能力を持っていない。

 韓国総選挙の奇蹟をひたすら祈るだけなのかもしれない。

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