安田 顕を主演に迎えた舞台『ボーイズ・イン・ザ・バンド~真夜中のパーティー~』が、2020年夏に上演される。原作は1968年にオフ・ブロードウェイで初演され、1,000回を超えるステージ数を重ねた舞台『The Boys in the Band』。日本国内においても『真夜中のパーティー』の名で1983年より数多く上演されてきた傑作会話劇だ。今作は2019年にトニー賞でリバイバル作品賞を受賞した作品をもとに新たに翻訳した日本版となり、さらに白井 晃の演出・上演台本によって、今の時代に沿った新しい作品として甦ることがすでにアナウンスされている。
ゲイの友人たちによる一夜の誕生日パーティーを舞台にLGBTの人々を取り巻く社会の現実や、それぞれのアイデンティティ、愛憎などを真正面から描いた本作で主演を務める安田 顕ら全9名のキャストと、演出の白井 晃が勢揃いした製作発表会後(2月22日)に、主人公・マイケル 役の安田 顕、パーティーに集まったメンバーの中で唯一のストレートであるアラン 役を演じる大谷亮平にインタビューを敢行。本作の見どころやお互いの印象などを聞いた。
取材・文 / 松浦靖恵 撮影 / 冨田望
◆閉鎖的な社会やストレスを人はどのようにごまかして生きているのか
ーー 製作発表会で、大谷さんは脚本の初稿を読まれたとおっしゃっていましたが、どのような第一印象を持たれましたか?
【 大谷亮平 】 (現時点では)さらっと読んだだけなので、まだじっくりと読み込めてはいないのですが、会話のやりとりやそこここに出てくる単語がとても衝撃的でした。
【 安田 顕 】 僕も脚本(初稿)を読ませていただいたという段階で、まだ客観的に読んでいる状態ですね。(脚本には)同じ文化圏であれば通用するブラックジョークや風刺的な言葉、スラングが散りばめられているので、稽古を進めていけば、スラングなどの内容が把握できてくると思うのですが、まだお稽古が始まっていない段階なので、字面としてそのワードが目に入ってくるから、きっと大谷さんも“衝撃的”という感覚を持たれたのではないかと思います。でも、二度と取り戻せない感覚というのは、一番最初に読んだときの感覚なんです。これからお稽古が始まって、僕らが今感じているこの感覚を、今度は役としてどう落とし込んでアプローチしていくか。白井(晃)さんに演出を付けていただいて見えてくること、わかってくることも多いと思うので楽しみですね。
ーー 現段階で、ご自身が演じられる役をどう捉えていらっしゃいますか?
【 安田 】 マイケルは非常によく喋る(笑)。で、後半にどんどん追い詰められていくので、僕のポジショニングとしては、“引っ張る、任せる、締め括る”だと思いました。要は“まわしていく”役まわりだな、と。自分の生まれ育った環境における倫理観。ゲイであるマイケルを親の世代や周囲の人間がどのように感じているのか。そこから刷り込まれた偏見というものがどういうものなのか。なぜ偏見をぬぐえないのか。つい、彼の発する言葉や大きなテーマに目を奪われがちなんですが、基本は閉鎖的な社会やストレスを人はどのようにごまかして生きているのかだと思っています。マイケルという人間や彼が投げかける言葉を通して、マイケルにしか持っていない人間性や心の葛藤が透けたときに、お客さん自身にも反映できるものになるのかなというイメージを持ちました。
【 大谷 】 生きづらさを抱えた人たちの中にストレートのアランが入っていく──。アランは、生きづらさや葛藤を抱えて生きていかなければいけない世の中の雰囲気をつくった側の代表じゃないですけど、パーティーの中では彼らが感じている生きづらさをつくっている側にいる唯一の人間なので、こういう言い方をすると違うかもしれませんが、“普通”の感覚を持った男でいなければいけないなと。でも、“普通”の感覚っていったいなんなんだろうとも思うんです。あのパーティーの中に入ると、自分(アラン)だけが浮く、アランのほうが普通ではなくなるという見方もできると思うので、いい意味で浮いていたいとは思っています。
【 安田 】 どうアプローチするか、詰めていくかは、お稽古が始まってからですよね。
ーー 演出と上演台本を手がける白井さんは製作発表会で「50年以上前に初上演された作品を、今この時代にやる意味というのを問われる。50年前とLGBTを取り巻く環境等は大きく変わっているとは思うけれど、しかしながら、相変わらず変わらないものもあると思うので、その変わっていない部分、変わったことによって変わってきたことが見えるような作品になれば」とおっしゃっていました。安田さんと大谷さんは今の時代にこの作品を上演する意味をどう考えられていますか?
【 安田 】 答えになっていないかもしれないんですが、いろいろあるんだとは思います。ただ、僕らがやることは、脚本に書かれた言葉の意味を理解して、それを発して、共につくり上げて、チケット代を払って劇場に足を運んでくださったお客さんに観ていただくことなので。今回の舞台は劇場という空間の中で、9人の人間が集まった“パーティー”が行われている。その空間をお客様に観ていただいたあと、皆さんの中で劇場に入る前の景色と出たあとの景色がなんとなく違って見えたらいいなと思っています。面白く、興味深く観ていただいて、それぞれが何か受け取ってくださったものを考える。そういうエンターテインメントをつくり上げていきたいと思っています。
【 大谷 】 LGBTの人たちに対する想い。そこには偏見もあると思うのですが、多くの人はそれを単純にイメージとして持っているところがあると思うんです。LGBTの方だけでなく、人はひとりひとりに個性があって、ひとりひとりに生きづらさがあって、いろんなところでぶつかって、それぞれ葛藤している。この作品を通してそういったことに触れる機会になればいいですよね。決してシリアスな感じではなく、面白く楽しく、でも、ちょっと考える。時には笑いながら、その世界をちょっとのぞき込むような感覚で観てもらいたいなと思っています。
【 安田 】 役者は何回も何回も声に出して、覚えて、時間をかけて理解して、舞台に立つ。(原作『The Boys in the Band』を)書かれた作家さんが何年も構想して書いたものだとしても、これまでに何回上演されているものであっても、僕らもそうですが、皆さんの読み解く力に大きく左右される作品だとも思います。
ーー 白井さんは「パーティー会場にいる9人のお芝居で見せたいのは、そこにいる人たちの人間関係が大きくうねっていくなかで 外の世界や社会を見せたい」と。また、上演台本は原作から大きく変えるつもりはないけれど、「1968年版の再現ではなく、今ならではの空間にしたい」とおっしゃっていました。現時点でおふたりが白井さんから言われていることはありますか?
【 安田 】 製作発表会でも白井さんはおっしゃっていましたが、「精神性を見せたい」というようなことですね。
ーー そうですね、ゲイたちのオネエ言葉や服装などで女性的なフォルムを見せるのではなく、むしろ精神性を見せたいとおっしゃっていました。
【 大谷 】 僕はまだ白井さんとちゃんとお話ができていないのですが、それぞれの関係性など、初稿には書かれていないこともたくさんあるので、早く知りたいですね。
【 安田 】 (本公演のための)ビジュアル撮影のときに個別の撮影もあって。白井さんは、カメラマンが撮ったカットをモニターでチェックされているのかと思ったら、モニターも見ていらっしゃらないし、僕のほうも見ていないんです。で、「安田さん、ちょっと寂しげに笑いましょうか」「立ち上がったときに腕を組んで、そのまま振り返ってください」と、おっしゃったんです。そこで気づいたんですよね、僕がマイケルの造形を模索しているような感じでそこにいるというのを、白井さんは的確に汲み取っていらしたんじゃないか、と。そのうえでそんな言葉をかけてくださったんだと思いました。
◆安田は“ミステリアス”、大谷は“マッチョ”な印象
ーー 白井さんに導かれながら役を深めていくのはこれからですね。ちなみに、お二方はこれまでに共演もされていますが、お互いにどのような印象を持たれていますか?
【 安田 】 とても魅力的な方だなって。先ほど一緒に撮影をしたときに、被写体としてワンカットワンカットのニュアンスをしっかり変えていらっしゃるんですよ。そういったところを僕はずっと怠けてきたし、自分にはない部分なんですよね(苦笑)。アクター、表現者として素敵だなって思います。
【 大谷 】 安田さんは“ザ・俳優”というイメージですね。役者がものすごくお似合いな方だと思っていて。それこそスキルといいますか。気持ちを入れて役に豹変するということにおいて、天才的なパワーをお持ちだなと思っています。あと、謎に包まれている。
【 安田 】 僕が謎に包まれている!?(笑)
【 大谷 】 ミステリアスなんですよね。ご本人が実はどんな方なのかが見えない。すごく大きなものを秘めているようで、かといって普段はとてもざっくばらんに接してくださるので、ホントにわからないです(笑)。
【 安田 】 今回、稽古や本番、地方公演もあるから、そこで“あれ? この人ってそうでもないな”ってわかるんじゃないかな(笑)。
【 大谷 】 いや、それでも見えてこないんじゃないかと思うんですよね。見せておいて、いや、やっぱり違うぞって(笑)。“どれが本質なんだろう?”っていう興味が、延々と続いていくような気がしています。だからこそ、安田さんはいろいろな役に豹変できる方なんだろうなとも思いますよね。安田さんをわかりたいような、知りたくないような。ずっとミステリアスな感じでいて欲しいです。
【 安田 】 この公演で距離が詰められたらいいですね(笑)。僕が大谷さんに持っているイメージって、マッチョなんですよ。それは見た目だけではなくて、硬派で男っぽいっていうところでの。素敵ないいヒゲもはやしているので(笑)。近寄ったときに、香水ではない色気をそそるような匂い? そういうフェロモンが出ているっていうイメージがあるんですけど。それって合ってます?
【 大谷 】 合っている部分もありますね(笑)。自分では硬派ではないと思いますけど、基本的には軽くてチャラい感じがあまり好きではないといいますか。プライベートでもつねに自分はこうありたいという憧れを持っていて、そこに近づきたいと思う像があるので、近づく楽しみ、まわりからこう見られたいというのを自分は楽しんでいますね。
【 安田 】 周囲が持つイメージって大事だとは思うけれど、僕、全然違う役をやっても、「情けない旦那さん役をやってますけど、はまり役ですね」、「この前の刑事役は怖かったですけど、はまり役ですね」って、全部が“はまり役”ってよく言われるんですよ(苦笑)。
ーー 演じる役によって持たれる印象が変わることを、安田さんはどう思われているのですか?
【 安田 】 ありがたいことではあると思うので、“本当は違うんだけどな”というのはないですね。“そういう一面も私です”、“こういう一面も私です”とは思う。ただ、人間はその一面だけじゃないんだよなとは思っていますけど。
【 大谷 】 安田さんは役以外のところでは飄々とされていることが多いですけど、それはものすごいエネルギーや何かに対しての反感みたいなものを隠していらっしゃるのかなって……。
【 安田 】 いやいや、普段は酒飲んで、音楽を聞いてるだけなんだけどね(苦笑)。
【 大谷 】 じゃあ、お酒を飲んでいるときに、安田さんの本質が垣間見られるかもしれないですね。
【 安田 】 そうだね。けど、酔っぱらってビルの踊り場で寝ていたとか、そういう感じになってしまうけど(笑)。でも、本当の自分ってなんなんだろうね?
【 大谷 】 僕自身は、役を通してこういう人なんだろうなって思われているイメージを楽しんでます。違うイメージを持たれていても、逆にそうありたいなと思うこともたくさんあるので。
【 安田 】 普段の大谷さんと勝手に持たれているイメージで非常に近しいのは、他者に対して嘘をつかない生き方をしているということなんじゃないかな。イメージとご本人にそんなにギャップがない。
【 大谷 】 そうですか? ありがとうございます。役柄によって自分を変えなくてはいけないという考え方をお持ちの方もいらっしゃるかもしれないですけどね。
【 安田 】 たぶん変わらないんですよ。どうしたって、演じているのは自分だし、どんな役をやったって、その人がにじみ出るんですから。
◆この舞台は“途中”。観たあと、劇場の外に出たあとが大事
ーー 最後に本公演の見どころをお願いします。
【 安田 】 なかなか観ることのできない舞台であることは間違いないと思います。今、脂の乗っている役者たちの、匂い立つ、男だらけの密室パーティーが観られるなんて、なかなかないぞ、と(笑)。
【 大谷 】 (笑)。お客さんは、パーティーに集まった9人の関係性や、それぞれのアイデンティティに、“これはいったいどういうことなんだろう?”と思いながら、安田さんをはじめとする9人の会話に引っ張られ、少しずつ追いつきながら、エンディングに向かっていくと思うんです。そのなかで、皆さんが9人を通していったい何を思うのか──。僕も楽しみですし、楽しんでいただきたいなと思います。
【 安田 】 『ボーイズ・イン・ザ・バンド』が持っている作品性って、ひとりひとりの心の奥底に流れているものってなんなのかというのを、お客さんに提示する作品のような気がします。だから、この会話劇は観たあと、劇場の外に出たあとが大事なんですよね。この舞台は“途中”なんです。人間の奥底にある社会に対する気持ち、我々の心の隅にあるものって何かなっていうことを、なんとなくでもいいので、一緒に考えていただければと思っています。この夏、この9人のパーティーをぜひ覗いてやってください。
安田 顕と大谷亮平がこの作品から届けたいメッセージとは? LGBTの人々の現実に向き合う舞台『ボーイズ・イン・ザ・バンド~真夜中のパーティー~』は、WHAT's IN? tokyoへ。
(WHAT's IN? tokyo)
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