
被災地でボランティア活動をしたいが、現地に向かう方法がわからない。そうした人たちのために、ボランティア団体や旅行代理店は各地でボランティアツアーを組んだり、ボランティアバスを出し乗客を募ったりしている。2011年5月28日には、被災地・宮城県南三陸町を訪れ現地のイベントでボランティア活動を行うバスツアーが実施された。ニコニコニュースでは実際にこのツアーに応募し、他の参加者らと行動を共にした。
ツアーは旅行会社・近畿日本ツーリストが企画したもので、土曜夜23時に東京駅近くの駐車場からバスで発ち、そのまま車中泊をする。日曜早朝には津波で市街地の大部分を流された宮城県南三陸町に到着し、地元のイベント「福興市」で数時間のボランティア活動に従事。その夜には再びバスで移動し、月曜朝には東京に着くというスケジュールだ。旅館やホテルといった宿泊施設を利用しないことから、「0泊3日」の旅となる。
バスはいわゆる観光バスで、長距離バスのようなリクライニングシートやトイレはない。また、用意される食事は日曜朝に車内で配られ、その場で食べる弁当1食のみ。その他の食事は参加者が自費で負担した。参加者は約7割が女性。40~50代の年配者が中心だった。
埼玉県から来たという50代の主婦は、最期まで避難を呼びかけるアナウンスを続けた町職員・遠藤未希さんの報道を見て南三陸町を訪れたくなったという。「未希さんは娘と字が同じで年齢も1歳違い。何かしなければと思った」。そんなときインターネットでこのツアーを知り、参加を決めた。また、東京都の公務員男性(45)は「5月の連休には都のボランティアとして気仙沼市に行き、家屋に流れ込んだ泥を片づけた。だが再び長期の休みをとるのは難しいので、このツアーを選んだ」と話す。男性は、東京に戻る月曜日にはそのまま職場へ出勤するという。
このツアーのコース名には「ボランティア」の文字が含まれているが、実際にツアー参加者が行ったのは瓦礫の片づけや炊き出しなどではなく、地元のイベント「福興市」の会場で仮設トイレ掃除や募金の呼びかけ、ゴミ拾いをするという比較的軽微なものだ。神奈川県のシステムエンジニアの男性(38)は「ボランティアとはいってもどこまで協力できるかわからないので、簡単なことから体験できるのはありがたい」と、会場内のガイド役に精を出していた。まさに、ボランティア初心者に向けられたツアーであるといえる。
なかには、こうしたツアーで被災地を訪れることにとまどいを抱く参加者もいた。三重県から新幹線で東京駅まで移動し、そこからツアーに参加したという栄養士の女性(50)は「観光バスで被災地に入っていいのだろうか。被災者の感情を逆なでするのでは」と、不安な様子だった。
だが、こうした声に対し、自ら防災対策庁舎の屋上で津波に耐え抜いたことでも知られる佐藤仁・南三陸町長(写真左)は、「それでもかまわない。町の状況を見てもらえるのであれば」と話す。また「福興市」の実行委員長を務める山内正文さん(写真右)は「正直、ツアーの話を聞いたときには受けるかどうか悩んだ。しかし、町を見てもらえばTVや新聞だけではわからない被災地の姿を知ってもらえると考えた」とし、「ツアー参加者には知人や近所の人たちに自分が見聞きしたものを伝えてほしい」と語った。
(土井大輔)
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