(平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授

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 4月最初の土曜日、花見のドライブに行ってきた。新型コロナ騒ぎも、何のそのである。

 桜が八分咲きの週末が晴天に恵まれた。おとなしく家にいたいと思う人など、どれだけいるだろうか。もともとじっとしていられない我が家は、少し早めに家を出て、午後の4時には家に戻ってきたが、帰路についたときには反対車線が大渋滞だった。

 韓国の桜は日本のソメイヨシノとよく似ている品種のため、ほぼ同時に咲く連翹(レンギョウ)の鮮やかな黄色と対照をなす。それが韓国の春の彩で、例年それを求めて猫も杓子も花見に出かける。

桜のトンネルを散策せずに、車内から花見

 だが、今年の花見はちょっと違っていた。ソウル市内の桜の名所では、花見客で例年溢れかえるために、閉鎖されているところもある。私の家から4キロほどのところにもそうした名所があって、つい先日、百済時代の古墳に関する取材のついでにそこを通ったのだが、やはり閉鎖されていた。つまりソウル市内での花見は期待できない。

 今日の花見のドライブでも、その影響が感じられた。ソウルから東へ車で1時間圏内というところ。日本植民地時代に作られたダム湖を越え、北漢江が300メートルほどの川幅で、山あいの広い谷間を悠々と流れている。その東側の斜面を通る道路は、延々と桜並木になっている。春のこの時期、この道を車で飛ばす者などいない。が、今年は驚くほどにのろのろ運転だった。なるほど、車も例年よりも多いではないか。ソウルで見られないのなら、ここで見ようという魂胆なのだ。

 それに、普段なら道路に車を止めて、桜並木や、あるいは北漢江の川岸に出て散歩をする人が多いのだが、今年はそうではない。なるべく人と接することのないように、車内からの眺めを楽しんでいるらしい。

 当然ながら、韓国政府は不要不急の外出は控えるようにとお達しを出している。とはいえ、ソウル市内は住宅密集地だし、散歩するにしてもカフェコンビニに立ち寄ってしまいたくなるし、郊外の大型ショッピングモールも人が集まるという不安感がある。それだったら週末は家族で近場に出かけて、束の間だが外の空気を吸う方がよほどよかろう。そういう人が増えているというのが、ソウルに住んでいての実感だ。

気を緩めつつある韓国社会

 ソウル市内でも出歩く人は一時期よりも増えている。感染者が増加し始めた2月半ばから1カ月ちょっとが過ぎて、人々の意識に変化がみられる。それまで外出は控えてきたが、精神的に苦痛になってきているのだろう。その影響が、花見ドライブでの車の量にも顕著に現れている。ともかく、この頃の韓国では、それなりに制約はあるものの、気軽に出歩ける風潮になってきているようだ。

 これまで韓国では、感染者をかなりの割合で追跡できていた。3月下旬頃までの感染の90%近くは大邱と慶尚北道でのもので、新興宗教の教会での集団感染が周辺に広まったものだった。それに、感染者が出た場合、居住地区や動線が細かく公開される。プライバシーの問題も囁かれてはいるものの、感染者が2週間以内に訪ねたスポットを知らせるアプリもあって、多くの人が活用している。こうしたことがあって、韓国では比較的安心して外出することができるのだ。

 とはいえ、桜が咲くようになってから、ちょっと気になることがある。スーパーなどで買い物をしていると、マスクをせずに大声で喋りながら食料品を求める人がちらほら出てきたことだ。つい先日昼食を食べた店では、中年の男女5人のグループが、食事をしながら大声で話に花を咲かせていた。久々の光景だ。普段なら気にならないが、現状では完全なマナー違反である。また、夜になると、飲み屋で集まっているグループも増えつつある。トイレで手を洗わずに出て行く男性も、相変わらずちらほら見かける。

 果たして、それでいいのだろうか。ふと、首を傾げてしまう。

 こうした巷の一部の人々の気の緩みと逆行して、韓国では幼稚園から大学に至るまで、すでに実施されているオンライン講義の期間が延長されている。すでに一部の大学では、今学期が終わる6月末までは、基本的にオンライン講義で済ませることが決まっている。ということは、韓国での新型コロナ騒ぎは、ピークが過ぎただけで、完全収束には時間が必要だということだ。

 新型コロナを克服する際に一番難しいことは、ピークを過ぎてからなのだろう。大邱を中心とする感染は、確かにピークを超えた。でもそれは、もう二度と爆発的な感染が起こらないということを意味しているわけではない。そんななか、韓国社会は新型コロナに対して気を緩めつつあるように見える。新型コロナの克服は長期戦だから、どこかで緊張をほぐさねばならない。だが、それで気が緩んでしまうのは、元の木阿弥になってしまう。

政府よりも社会の意識が克服のキーに

 数週間前から、ソウルを中心とする首都圏での感染が増えてきた。その多くは海外からの帰国者であるのだが、ときどき集団感染が報じられている。ということは、首都圏新型コロナの感染が広がる可能性がそれなりにあるということになる。その一方で、ソウルの巷は、「ケンチャナヨ大丈夫だよ)」という空気が充ちてきた。

 私は韓国人ケンチャナヨは、信用しないことにしている。「根拠はないけど、なんとかなるよ」くらいの意味だからである。

 そんな雰囲気のなか、これからどうやって新型コロナを最終的に克服していくのか。これまで徹底的な対策に取り組んで、成果を出しつつある国は、中国を除けば韓国だけであろう。ただ、ここに至っては、政府よりも社会の意識が克服のキーになるのだと思う。感染制圧に対する韓国社会の姿勢が、真に問われている。

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マスクを着用して韓国・ソウルの桜並木の近くで自撮りする親子(資料写真、2020年4月3日、写真:ロイター/アフロ)