3月20日、韓国では反日運動が収まる気配を見せないなか、ある日本製品が発売されるということで、3000人以上の人がつめかけ、長蛇の列ができた。

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 その商品とは、任天堂のゲームソフト『あつまれどうぶつの森』である。

 韓国でも社会的距離措置(Social Distancing)により、3月から始まる新学期は4月に見送られ、企業でも在宅勤務に切り替えているところが多い。

 そのため家での過ごす時間が圧倒的に増えた。巣ごもり消費が増えたせいで宅配業者だけが忙しくなったが、これからの経済崩壊を恐れ日用品以外での消費は冷え切っている。

 しかし、『あつまれどうぶつの森』は品切れ状態が続く。

 そのソフトを動かすには定価36万ウォン(約3万1500円)のゲーム機本体が必要だが、中古サイトでは50万ウォンでもいいから売ってほしいと懇願されるほどになっている。

 購入できない人たちは、SNSに投稿されるゲームの内容を見て擬似体験して満足せざるを得ない状態だという。

 世界的なヒット商品なので、韓国だけに当てはまるわけではないが、どうぶつの森がヒットしているわけは、一言でいうと「癒し」である。

 殺伐とした世の中でゆったり流れるサイバー空間での暮らしが、ゲームに参加する人たちに癒しを与えているのだ。

 ゲームは無人島に移住して、どうぶつたちと会話したり、草をむしったり、釣りをするなど、様々な活動をしながら島を飾っていく内容。

 新型コロナウイルスで家に籠りっきりの人たちに癒しを与えるゲーム内容となっている。

 早めにゲーム機を買った人たちはSNSなどに購入認証ショットをアップして購入できていない人たちから羨望の眼差しを受けている。

あつまれどうぶつの森』を楽しめるゲーム機の「NINTENDO SWITCH」は、需要の急増に対応しようにも中国工場での生産が追いつかないため、供給不足となっているのだ。

 任天堂は3月に、「韓国で販売するNINTENDO SWITCH本体とジョイコン(コントローラー)などは中国で生産されているため、新型コロナウイルス感染拡大の影響で出荷が遅れている状況」と告知した。

 ただでさえ人気のゲームなのに加え、新型コロナウイルスの影響で生産が追いつかず、市場での希少性は否が応でも高まっている。

 ネット上では中古品でいいからNINTENDO SWITCHが欲しいという投稿が増えている。

 一方、こうした動きに不満をぶつける韓国人もいる。

「せっかく日本製品の不買運動を続けているのに、このゲームのせいで不買運動の効果が帳消しになってしまう」というのだ。

 では、なぜ任天堂のゲームが、これまで「NO JAPAN」でターゲットにされていた「ユニクロ」や「日本製のビール」のように不買運動につながらず、逆に購入意欲をそそっているのだろうか。 

 一つには、前に書いたように「癒し」を与えてくれるということがある。

 ゲームの中で家を建てたり、その家を建てるために借金をしなければならないことから、一部には「あつまれどうぶつの森」を「労働の森」や「債務の森」と言い換えて揶揄する向きもある。

 しかし、家を建てるために借りたお金の返済は無期限なので、別に時間が過ぎれば解決できるもので、実生活の借金苦とはイメージが重ならず、「とにかく時間がゆったり流れるのがいい」という声が多い。

 2番目の理由としては、いま韓国でも社会的距離を取る措置が勧められているのだが、ゲームの中では仲間たちにいつでも会えるということだ。

 そして、3番目の最も大きな理由は、ゲームは趣味のものなので、代替品がないということだ。

 任天堂のようなコンソールゲームは韓国市場でもマニアが多く、ゲームを知らない人たちがとやかく文句を言える状態にないため、実は、昨年の激烈な不買運動の中でも日本のゲームの売れ行きは伸びていた。

 日本不買運動を進める「NO NO JAPAN」サイトには、ブランド別にそれを代替する製品などを挙げている。

 例えば、ソニーの「プレイステーション」には代替商品として「XBOX」と「スチーム」とあり、KONAMIには「NCソフト」や「ネットマーブル」が書かれていた。

 しかし、「NINTENDO SWITCH」は「代替は難しい」と断り書きがついたうえで「XBOX」と書かれていた。

 似たようなゲームは世界中にいろいろあるものの、任天堂の独創的な世界は代替不可ということのようで、韓国でも不動の人気を誇っている。

 もっとも、こうした人気を苦々しく思っている人たちもいる。

 実際、「NO JAPAN」サイトでは(韓国には『NO JAPAN』サイトと『NO NO JAPAN』サイトの2つがある)には以下のような告知が出ている。

任天堂が販売しているゲーム『あつまれどうぶつの森』完売に関していろいろな雑音が聞こえています。このゲームも日本製なので、日本不買運動に参加するなら購入を自制してください」

 いつになったら、この心的な溝が埋まるのだろうか。いずれ収束するであろう新型コロナウイルス感染症より恐ろしい。

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韓国では日本製品不買運動が根強く続いていて収まる気配を見せない(写真は2019年8月19日撮影、写真:YONHAP NEWS/アフロ)