店のサイン

東京には、オアシスのような花屋がたくさんあります。
なぜ仕事として花屋を選んだのか、日々どんな思いで草花や客と向き合っているのか。

都内でも注目の花屋を作家・エッセイストの大平一枝さんがたずね歩きます。

(取材・文/大平一枝 撮影/佐々木孝憲

オアシスのような東京の花屋/cotito(コチト)ハナトオカシト

草花に囲まれてお茶を。ありそうでなかった小さな楽園

店内

不動産屋だった店舗をスケルトンの状態で借り、フルリノベ。切り花より、実ものやドライのもの、サボテン、タニクが多い印象

西荻窪の、道路に面したガラス張りの小さな店。
木の扉を開けると、カラフルエディブルフラワー(食べられる花)が埋め込まれたクッキーと、アンティークの椅子とテーブルが。そして壁や床には花や葉もの、実もの、サボテン、ドライの植物が並ぶ。

クッキー

エディブルフラワーを使った人気の手作りクッキー「ハナサブレ」は季節で花が替わる。てんさい糖使用、卵と乳製品不使用の素朴な味がやみつきに

草花を見ながら、お茶と手作りのお菓子を食べられるというコンセプトの花店は、意外とありそうでない。一歩足を踏み入れるとそこは小さな楽園のようで、思わず深呼吸したくなった。

花店勤務を経て前山真吾さんは、カフェで働いていた妻と、「菓子と花屋を、ひとつの空間でやろう」と、2014年に開店した。フルスケルトンで一からつくり、キッチンもあつらえた。
「家みたいな空間にしたかった」と夫が言うとおり、なるほど居心地がいい。目黒や福生でひとつひとつ買い求めた古道具の味わいも、居心地のよさにひと役買っていそうだ。

前山さん

「結局なんだかんだ言っていちばん使うのがこのレースフラワーなんです。きれい系、かわいらしい系、どんな花にも合って、しっかり水揚げをすれば2週間はもつ。だんだん白くなっていく変化も、このなんでもない感じも好きです」と前山さん

そもそも花屋とは華やかな見た目と違い、期限のある生ものを扱う実は厳しい商売だ。寒さ、暑さ、早朝の仕入れや水揚げなど体力もいる。前山さんは言う。「いいことが3分の1。つらいことが3分の2。気合いがないとできません」

それでも続ける原動力は、こんな言葉に表れている。
「お客さんに喜んでもらえる。自分たちの考えた企画に、直接反応してもらえる。そんなときがいちばんうれしいです」
こんな店がある西荻窪はやっぱりいい街だ。

ひまわり

ひまわりのドライフラワー。ドライも1本から飾って楽しめる姿形のものをセレクトしている

アジサイ

「 アンティーク系」とも呼ばれ人気の青のアジサイニュージーランド産。褪せていく色がいい風合いになり、インテリアのひとつとして買っていく人も多いそう

タビビトノキ

タビビトノキのドライ。青い実は自然の色で、希少

シンプルな鉢

「鉢は大事」と前山さん。主張しすぎず、植物を引き立てている。コンクリート製の工業用パーツ(中央四角柱の鉢)などシンプルなものが揃う

ガラス鉢のアレンジ

路面に面した壁を抜いて大きな窓に。素朴でシンプルな花や葉ものがガラスに映える

※情報は「リライフプラスvol.24」掲載時のものです。現在は花屋+焼き菓子販売の店舗、カフェの2店舗で営業中

cotito
adress 東京都杉並区西荻窪5-26-18
open 11:00~18:00(eat in L.O.17:30
11:00~19:00(eat in L.O.18:00)〈土・日曜〉
不定休
telephone*03・6753・2395

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