1月時点では新型コロナウイルス感染者と死者の爆発的な増加で、発生源とみられる中国が世界の関心と批判の的であった。

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 ところがイタリアなど西欧諸国の感染者が中国を凌駕しはじめる2月下旬頃になると、中国は一転して日本や韓国の対応が手ぬるく感染拡大をもたらすと警告し、中国への注目をそらせ始める。

 3月4日には感染症の権威で中国国家衛生健康委員会専門家グループ長の鐘南山氏が「ウイルスの発生源と伝達システムについての研究」を指示し、コロナの発生源は中国とは限らない旨の発言を行う。

 責任転換の布石を打ち始めたと見た米国のマイク・ポンペオ国務長官が「これは武漢ウイルスだ」と発言して武漢が発生源であることを明確にすべきだとした。

 3月10日に武漢市を視察した習近平国家主席は、「ウイルス拡散の勢いは基本的に抑え込んだ」と表明し、「湖北や武漢の状況は好転しており、局面を変えるという目標は達成された」と評価する余裕を見せ始める。

 そして2日後の3月12日には、中国外務省の趙立堅報道官がツイッターで「米軍がコロナウイルスを武漢に持ち込んだかもしれない」と憶測する。

 日ごとに感染者が増える米国が、「中国は新型ウイルスの初期対処に失敗した」と批判すると、習主席は「(新型コロナウイルスの)病原がどこから来て、どこに向かったのか明らかにしなければいけない」と訴える論文を3月16日発行の共産党理論誌「求是」に寄稿(中国国営新華社通信、15日)。

 責任転嫁を明確にし始めた中国側の一連の発言に堪忍袋の緒が切れたドナルド・トランプ大統領は16日(日本時間17日)怒りを込めて「中国ウイルス」とトーンアップする。

中国も「武漢肺炎」と呼んでいた

 新型ウイルスは、1月の発生当初は武漢を震源地にして1000人を超える死者と4万人以上の感染者を生み出したことなどから、中国自身が「武漢肺炎」と呼んでいた。

 感染者が急増した韓国でも当初は武漢肺炎と呼んでいたが、大統領府が「公式名称は新型コロナウイルス感染症だ」と呼びかけると、ネットでは「武漢肺炎を使用し続けるべきだ」という意見が炎上し、保守系メディアも同様に主張して激しい論争になる。

 従来は日本脳炎、香港インフルエンザスペイン風邪、最新では中東呼吸器症候群MERS)、あるいは豚インフルエンザなどのように地名や動物名などを付けて呼称されてきた。

 しかし、「病気の名前が特定の宗教的・民族的コミュニティに対する反感を引き起こし、渡航や貿易などへの不当な障壁を生み、家畜の不要な殺害を招いた」などの批判もあることから、WHO(国際保健機関)は新型ウイルスの名前を付けるに当って〝含んではいけないガイドライン″として、①地理的位置、②人の名前、③動物や食品の名前、④特定の文化や産業の名前の4つを挙げているという。

 こうしたことからであろうが、WHO2月12日、今次の新型ウイルスによる肺炎を「COVID-19」と命名する。

 その過程においては「武漢ウイルス」や「武漢肺炎」のように、従来どうり発生地を入れた方が良いという意見もあったようである。

CDCの記者会見

 今年2月7日に死亡した武漢市中心医院の李文亮医師たちは昨(2019)年11月頃から異変に気づき、海鮮市場の関係者が大部であるが、その他にも感染が広がっていると医師仲間で警告し合っている。

 放置できなくなった武漢市衛生健康委員会は、海鮮市場で謎の肺炎患者が続出しているとして情報収集を呼びかける通達を出す。これがネットで流出し、中国メディアが報道するに至って民衆に広く知らわたる。

 しかし、3月予定の全人代に向けた武漢市の人民代表大会を無事に開催したい武漢市党委員会は公安部に李医師を拘束(12月30日)させる。

 一方で年明け早々の1月1日には海鮮市場を閉鎖し、3日にはWHOと米国にウイルスの発生について報告したという。

 2月14日、米国のCDC(疾病対策センター)が記者会見を行い、レッドフィールド所長は「インフルエンザに似た症状が確認された患者に対し、新型コロナウイルス検査を開始する」と発表した。

 結果次第では「米国では今冬インフルエンザが大流行」と報道されていた感染症の実態は、「実は新型コロナが以前から流行していた」と覆るかもしれないと述べる。

 発生源を云々しているのではなく、インフルエンザとして処置していたものが、もしかしたら新型コロナウイルスだったかもしれないという問題提起である。

 武漢発生を疑ったのではなく、インフルエンザとしてきた診断(の軽率?)を疑ったというところである。

 こうしたことを踏まえた中国は、3月4日の鐘南山、12日の報道官、そして習主席の16日の寄稿で、発生源を中国外に求める責任転嫁を明確にしていったのだ。

 中国の報道官は「所長は、米下院の聴聞会において、米国内でインフルエンザが死因とされた死者の一部で、死後の検査で新型コロナウイルスへの感染が確認されたことを認めた。これによりCDCは困った立場に陥った。米国で患者第1号が発生したのは何時なのか。何人が感染したのか。病院の名前は何か。武漢に感染病を持ち込んだのは米陸軍かもしれない。透明性が確保されなければならない。米国はデータを公表しなければならない。米国は、我々に説明をしなければならない」と、中国一流の詰問調でつぶやいたのだ。

 つぶやきの根底にあるとされるのが2019年10月18日から27日の間に、武漢で開催された世界軍人運動会109か国から米軍人は数百人を含む9300人余が集まったことである。

 CDC所長の疑問発言は自由主義社会における情報公開による透明性の証しであるが、中国の報道官は自国が3カ月以上も隠蔽してきた事実を全くはぐらかして、「米軍が・・・」と〝発生源は米国?″を強く匂わせたのである。

 筆者は発生源や対処の経緯にもちろん関心をもっているが、この責任転嫁とも思える一連の発言は、南京で日本軍が大虐殺を行ったと世界に喧伝してきた中国のやり方をまざまざと見せてくれることに関心を持った。

中国が繰り出す情報戦

 米国は米中首脳会談などで中国が約束したことを忘れていない。

 マイク・ペンス副大統領は「ホワイトハウスローズガーデンでの停止の約束にもかかわらず、我が国の知的財産の窃盗を支援し幇助し続けている」「中国製のフェンタニルやその他の合成オピオイドを取り締まると約束したにもかかわらず、これらの致死性の高い薬物は国境を越えて流れ込み、毎月何千人もの米国人の命を奪っている」などと演説し、中国が約束を果たすように求めている。

 中国側からすると、トランプ政権ほど嫌な相手はないであろうし、ましてや再選の暁にはこれまでの首脳会談で約束した(させられた)ことを、確実に要求してくるはずだ。そう思うだけで、背筋が寒くなるに違いない。

 何としてもトランプの再選を阻止したいと、中国が思いめぐらしたとしてもおかしくない。

 責任転嫁大統領再選を阻止する闘いに出たとみてもいいのではないだろうか。その手法が中国得意の情報戦であり宣伝戦である。

 南京大虐殺はそうした成功例の筆頭であったに違いない。物理的には敗れた南京戦を、「大虐殺」という宣伝戦で日本を人道に悖る悪徳国家に仕上げ、世界に喧伝できたからである。

 中国国内では、習近平主席の指導力に疑問さえ投げかけられ、権力闘争が始まっているという見方も絶えない。

 憲法改正で終身皇帝への道は開けたが、「一帯一路」を掲げて世界の、中でも米国の反感を呼び起こしたからである。

 習近平主席にとっては、いかにして、どこで局面を転換させるか、が大きな課題であったに違いない。そこに起ったのがコロナウイルス問題である。

 中国が〝禍を転じて福となす″策を回らしても奇異ではない。武漢で世界軍人運動会が行われたことやCDC所長の発言などが「渡りに船」であったのは言うまでもない。

 一度言い出したからには絶対に下がらない、それこそが共産党の無謬性であり、共産党指導部の信頼を勝ち得る方法でもある。

「嘘を1000回繰り返せば〝真理″になる」という「ゲッペルスの定律」を中国ほど巧く使う国はない。全体主義国家では国民は無言こそが身の安全につながることを承知しているからである。

全体主義国家に特異な「ポチョムキン村」

 中国で発禁になった書籍に、河清漣氏の『現代化の落とし穴―噴火口上の中国』がある。

 その中の一節に、「一部の中国研究者とりわけ華人学者は、中国を称賛すれば政府から好感をもたれ、中国に入って調査ができるし、関係部門から資料を入手できることを発見した。(中略)外国の学者がこれらの資料にもとづいて研究すれば、それが現実とどれだけギャップがあろうと、中国政府はこれを採用し、(後略)」とある。

 河氏は「中国政府の習わしとなっている統計数字の捏造」についても語っているが、「自らの利益を第一に考える学者」にとっては、捏造などにこだわってはおれないし、捏造数字を利用して政府が期待する結果を導き出すだけであろう。

 1970年代初めの中国は、どの新聞社の日本人記者も受け入れていなかった。

 そこに、日本が中国にいかなる被害を与えたかを被害者の立場で検証しルポするとした朝日新聞社が、中国に記者を送ることに成功する。そして相手が準備した現場を取材して回り、ルポは後に単行本『中国の旅』となる。

 これは河氏が指摘した「中国研究者とりわけ華人学者」や「外国の学者」を「新聞記者」に入れ替えれば、ルポの内容がどのようなものになるか理解できよう。

 被害者の立場で検証するとしたからには、中国が見せてくれる現場や説明に疑問など差し挟むことはできない。

「現実とどれだけギャップがあろうと」という状況が実際に日本側では生じるが、中国側の言い分ということですべてはスルーできたのだ。

 ロシアのエカテリーナⅡ世の寵愛を受けていたポチョムキンは、後にクリミア統治の責任者として赴任する。

 間もなくして視察を受けることになったポチョムキンは、貧しい実態や不利となる実態を隠すために視察者が通る周辺などに急ごしらえで見せかけだけの施設などをつくる。

 このように外見だけを良く見せかける物理的工作は後に「ポチョムキン村」と呼ばれる。資料や統計の誤魔化し、さらには「地上の楽園」と囃し立てた宣伝など比喩的なものも一種のポチョムキン村である。

『中国の旅』に出てくる殺害方法や現場状況が「全く中国的」で「全然日本的」でなくても、「日本人の仕業」とされたことからも類推できるように、記者がポチョムキン村を見せられたことはかなりの程度で言えるのではないだろうか。

 そもそも、蒋介石もその後の毛沢東日本軍による中国人虐殺、ましてや南京で30万人に上る市民を虐殺したなどとは一言も言っていない。

習主席氏の勇み足で馬脚を現す

南京事件が起きていたとされる日(1937年12月13日)から数日後のニュヨークタイムズは、南京防衛軍の兵士約2万人が処刑されたものと思われると伝え、また約1週間後のロンドンタイムズは「大がかりな略奪、強姦される女性、市民の殺害、住居から追い立てられる中国人、戦争捕虜の大量処刑、連行される壮健な男たち」などとより具体的に報道する。

 しかし、国際聯盟の支那代表・顧維鈞は翌年2月、外国紙を引用して「あまりにも多くの事件が中立国の目撃者によって報告され、外国の新聞で報道されているので、ここでいちいち証拠をあげるには及ばないでしょう。(中略) 南京で日本兵によって虐殺された中国人市民の数は2万人と見積られ、その一方で、若い少女を含む何千人もの女性が辱めを受けました」との演説を行う。

 ここでは「中立国の目撃者」と言っているが、蔣介石の国民党や政府の宣伝処に雇用された宣教師などで、全く中立的ではないし、事件から2カ月余で「兵士約2万人の処刑」が「市民2万人の虐殺と女性数千人の凌辱」に代わっている。

 支那軍捕虜が移送中に反乱したために、捕虜数万人が処刑され、市民が事変に紛れて死傷したが、大々的で計画的な違法殺害、すなわち「南京大虐殺」はなかった。これが歴史の事実である。

 ところが、当時の蔣介石政権は、戦況の劣勢をカバーするために急遽「宣伝処」を設け、病院患者などを被虐殺者に仕立てる宣伝戦を米欧で行い、東京裁判でも針小棒大に「虐殺」として被害を言い立てた。

 その後はほとんど問題視されなかったが、30余年後突如出てきたのが『中国の旅』での日本軍の暴虐である。

 これを好機に中国が歴史戦を仕かけ、鄧小平、江沢民、そして胡錦濤という歴代国家主席が有効に活用してきた。

 ところが、習近平氏が思わぬところで馬脚を現してしまった。

 2015年の訪英で国賓として迎えられた習近平国家主席がエリザベス女王主催の晩餐会で、英国人ジャーナリスト日本軍による南京での殺害現場を撮影したために捕まり、殺されそうになったところを赤軍兵士が救出したという話を披露した。

 英中の友情物語としてこれほど相応しいものはなかったであろうが、そのジャーナリストは中国に入国はするが、事件当時の南京には行っておらず、中国軍兵士による救出は映画製作のために脚色されたことが判明した。

 その直後に改装された南京大虐殺記念館からは、「南京大虐殺の史実を世界に周知させた」として顕彰され、『中国の旅』の著者本多勝一記者の顔写真や著書、そして中国取材に使用したペンやノート類などの資料、並びに全世界に衝撃を与えた中国系アメリカ女性のアイリスチャン執筆の『ザ・レイプ・オブ・ナンキン』や関連資料などが撤去された。

 こうして、「大虐殺」に関連した写真は3000点から2000点に、物品類は3000点から1000点に削減され、「史実の新たな証拠を集めた」と評して習近平主席の写真と慰安婦コーナーが新設されたのだ。

おわりに

 コロナウイルスの発生源論争は期せずして「南京大虐殺」物語の生成過程、そして蟻の一穴でもろくも崩壊することを思い知らせた。しかし、性懲りもなくこれまで同様に批判し続けるであろう。

 日本は相手を性善とみて行動することが多く、相手に非があることでも日本の意を汲んで対処してくれるであろう、あるいは時が忘れさせるであろうと考え、あえて言挙げしようとしない。

 ましてや首脳会談前の米朝首脳が激しく罵り合ったようなことは論外である。

 しかし、性善説に基づく忖度や願望は国際社会では通用しない。現上皇陛下が「私の中国訪問は良かったのだろうか」と、同行した外務省アジア局長に数年後、ご下問されたという(高山正之・福島香織対談、『WiLL2020年2月号所収)。

 これほど大きな間違いはなく、訪中をセットした日本側の政治家や財界人らは、戦前であれば間違いなく自ら命を絶ったに違いない。

 天安門事件で窮地に立っていた中国が、日本を利用し、また天皇を利用したことは、当時の中国外相が「政治的に効果があった」と記録に残している一事で明瞭だ。

 トランプ大統領の登場以来、中国はまた窮地に立っている。

 中国の日本接近(コロナ問題が一段落した後に再び持ち上がる国賓としての来日と天皇拝謁など)は、窮地脱出の日本利用の画策であることは火を見るより明らかである。

 コロナウイルスの「病原がどこから来て、どこに向かったのか明らかにしなければならない」との習近平主席の言及は、当面を宣伝戦で乗り切ろうとするあがきであり、その後に続く覇権競争への深謀遠慮でもあろう。

 日本は軽々しく踊らされてはならない。

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