新型コロナウイルス感染症Covid-19)は欧米を征服して、ロシアにも本格的に侵入し始めた。

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 モスクワを中心にロシアのほとんどの各地で感染者が確定され、感染者は毎日数百人単位で増加している。

 こうしたなか、ロシアメディアではCovid-19による隔離状況、ビジネスへの影響、医療体制などの問題が広く取り上げられている。

 その一つのテーマCovid-19の検査方法である。

 著者は前回の記事(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59919)でロシアにおける日本の技術を応用した検査キットについて触れた。

 今回はロシアのベンチャー企業が開発中の検査キットについて紹介する。

 周知の通り、PCR法を用いたCovid-19の検査は特別な検査機器と検体を分析するためのラボの設置が必要である。

 ロシアでも、PCR検査は指定された国立医療機関で、指定された医師の指示がある場合のみ受診可能である。

 ロシアでは今回のコロナ禍を契機に検査キットの性能を高め、生産量も増やした。現在5社の検査キットが当局で認証されており、3月27日付の国内報道よれば民間医療機関でも検査を受けることができるようになった。

 ロシア有力紙RBCによれば、数日前からモスクワの民間医療機関でも希望者はCovid-19の検査を受診できるようになった。

 筆者は医療センターの入り口に1.5メートルの間隔で並んでいる行列をテレビ報道で見たが、非感染の人もその長い行列に並んでいる間に感染してしまうのではと思うほど長い行列である。

 モスクワはこのところ気温の寒暖の差が大きく、風邪をひく人が多い。自分が普通の風邪の患者なのか、恐ろしいCovid-19に感染しているのか判別がつかず、知らないうちに周りの人に感染しているという状況は避けるべきである。

 例えば妊娠のテストのように医師の指示がなくても薬局でキットを買って自宅で検査ができるテストキットがあればこうした事態は避けられる。

 Covid-19 に関して、こうした簡易検査キットは夢物語だと思われるかもしれない。しかし、実際にそれを実現しようとしているロシアのバイベンチャーがある。

 DRD Biotech社だ。

 DRD Biotech 社(www.drdbiotech.com)は、2014年ロシアの科学者と起業家のチームによってロシアのブリヤート共和国で設立された。

 ブリヤート共和国はロシア極東地方、バイカル湖の南東に位置する。ブリヤート人はモンゴル族であるが、その風貌は日本人に非常に似ている。

 同社は革新的なバイオとITテクノロジーに基づいた迅速(エクスプレス)臨床血液検査の開発と製造を専門にしている。

 2014年末にロシア政府系インキュベーション施設スコルコボの入居企業として認定を受け、脳虚血早期テストを開発、昨年にはロシア国内での製造承認を得て、販売を開始している。

 DRD Biotech社は2016年に日本で開催された国際的なベンチャーコンテスト、「Asia Entrepreneurship Award 2016」で2位になるなど、既にその技術が世界的に認められたバイオベンチャーである。

 そのはかにもオーストリアの「Top10 Pioneers Health 2018」、2019年ササウジアラビアEntrepreneurship World Cup」のトップ100ファイナリストとなった。

 2020年ベルギーの「Seal of Excellence, Horizon 2020」などに参加するなど、ロシアを代表するバイオベンチャーに成長している。

 DRD Biotech社はCovid-19が全世界への急拡散を危惧し、同社が持つすべての専門知識とノウハウを動員、Covid-19簡易テスト開発と製造に取り組んだ。

 この開発に必要な資金はロシア国内からクラウドファンディング経由で募り、約250ルーブル360万円)を集めた。

 筆者はこのCovis-19 簡易検査キット開発プロジェクトの概要と進捗状況を確かめるためにDRD Biotech社のアンジェイ・ジンビエフ(Anzhei Zhimbiev)社長にインタビューを行った。

ビクトリア・シパコフスカヤ(以下「VS」) アンジェイさん、現在、ロシアでは多くの研究機関、会社が新型コロナウイルスの検査キットの開発を手がけ、既に5つのテストシステムが登録済みです。

 御社が開発している検査キットは、これらの検査キットとの違いは何でしょうか?

ジンビエフ社長 当社のテストPCR法ではなく、抗体法(イムノクロマト法)に基づいている。

 つまり、コロナウイルスに感染するとウイルスに対して特別な抗体が血清中に誘導されるので、その抗体を検出する検査法です。

 今まで行われた研究によると、感染後3~6日で感染者の血液にIgM抗体、8日目にIgG抗体が現れている。

 我々の検査キットは患者の指から血液を一滴、検査プレートに落とせば、新型コロナウイルスSARS-CoV-2)に対するIgM抗体とIgG抗体の存在を10分で確認できます。

 このテストには特別な検査装置は不要でどこでも実施可能です。検査の精度もこれまでのところ90%以上と期待され、PCR検査の前段階の検査としては十分です。

VS DRDの検査キットは簡単・迅速でどこでもテストできるということは理解しました。では具体的にどこでこの検査キットを入手して、どうやって検査を行うのか教えてください。

ジンビエフ社長 簡単に言うと、この検査キットは妊娠テストと同じようなテストカセットの形式で製造します。

 製品は薬局、医療機関で販売されるので、例えば薬局で検査キットを買い求め、自宅で微量の血液を採取(血糖値測定のように)、このテストカセットにその血液を1滴落とし、10分待ちます。

 判定結果はマーカーとなっている線で分かります。線が2本の場合、判定は陽性、新型コロナウイルスの抗体があるということ。線が1本の場合は判定は陰性、とても簡単です。

VS 抗体法の場合、感染して数日間経たないと血液で特殊な抗体が現れないと聞いていますが、この検査キットはどういう場面で使われるのが一番効率的ですか?

ジンビエフ社長 ウイルスに感染しても多くの場合、症状がないか、あるいは軽い症状なので感染者は自覚がありません。

 しかし、この検査キットでは間違いなくCovid-19の感染状態を確定できるので、健康な感染者ウイルスをまき散らすことを防ぐことができます。

 また、逆に発熱と咳が続く患者についても普通の風邪か、恐ろしい新型コロナウイルスなのか判別できるので、正しい治療・環境を提供できます。

 さらに感染者の状況モニタリングにも役立つと思います。

VS モスクワの民間医療機関が新型コロナウイルスの検査を希望者に有料で提供開始しました。検査料金は確か1900ルーブル(約2700円)でした。DRD Biotech社の検査キットはいくらで提供されますか?

ジンビエフ社長 その5分の1ぐらいだと思います。現時点ではまだ開発中なので、はっきりした値段を言えませんが、感染者数を早期に抑え込むためにもかなり安く買えるようにしたいと思います。

VS いつ頃この検査キットは製品化されますか?

ジェンビエフ社長 後数週間で完成する予定です。今一番問題になっているのは試薬の確保です。

 この試薬は海外(中国、欧米)から輸入しているのですが、現在、国境の通関は麻痺状態です。全力で問題解決にあたっています。

 ロシア当局の医薬品承認はもちろん必要ですが、今は緊急事態なので当局も全速で承認手続きを行うと思います。

VS 検査キットはどこで製造する予定ですか?

ジンビエフ社長 開発はスコルコボにある自社ラボで行なっています。自社ラボは診断テスト用最新装置が備え付けられており、ISO13485とGLP基準を満たしています。

 製造も自社の製造装置で行う予定。現在の生産設備では年間150万個の検査キットを製造できます。注文がもっと大量に来れば製造を外部に委託することも考えられます。

VS 検査キットに対する問い合わせの状況はいかがですか?

ジンビエフ社長 国内の薬局、クリニックチェーンから問い合わせが数多く来ています。これらの注文に対応できるように生産プランを考えています。

VS 海外への販売も検討していますか?

ジンビエフ社長 もちろん歓迎します。我々が検査キットそのものを提供するか、検査キットのコンポーネントを製造して、現地で組立て・供給という方法を考えています。

VS この検査キット開発に御社はクラウドファンディングで資金を調達したとのことですが、資金は十分集まりましたか?

ジェンビエフ社長 そうですね、現在弊社が保有する資金は異なるプロジェクトのために調達したものなので、そのプロジェクト以外に使えないという条件に拘束されています。

 Covid-19プロジェクトは緊急に資金調達が必要だったので、クラウドファンディングサイトで呼びかけて、1週間ほどで目標よりも多くの資金が集まりました。コロナウイルスに対する関心は高いですね。

VS 日本への販売も可能ですか?。

ジェンビエフ社長 もちろんです。2016年の秋に日本で開催された「Asia Entrepreneurship Award」で2等賞を受賞してから日本の企業とずっとコンタクトを続けています。

 要請があればすぐに当社の検査キットを日本に持って行きます。

VS 有難うございました。早く検査キットが販売されることを期待します。

 インタビューを終えて、同社の抗体検査キットがロシアで広く普及し、感染者抑制につながることを筆者は強く期待した。ロシア国内で確たる実績を伴えば、日本への導入も実現するのではないだろうか。

 あまり知られていないが、1950年代後半~60年代前半に生まれた日本人は、ロシア(当時はソ連)から緊急輸入された1000万人分のポリオ(小児麻痺)ワクチンで感染を免れた事例がある。

 60年後にロシアバイオ技術が再び日本の役に立つことを期待したい。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  日本の技術でロシアの感染者数が“急増”

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DRD社のCOVID-19検査キット。右側の楕円形の小さな穴の部分に血液を落とすと10分後に左側の四角い窓の部分にマーカーのラインが現れる(DRD社HPより)