(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家

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まさかこんな経験をすることになるとは

 人間は命を守るために多くの課題と向き合ってきた。戦争、自然災害、飢餓、感染症などである。私は終戦の3年後の1948年に生まれ、以後72年間生きてきた。従って我が国の戦争は体験していない。世界には飢えに苦しむ人びとが8億人以上いると言われている。だが日本に生まれた私は、子供の頃は貧しい食生活ではあったが、飢えということはなかった。

 1995年1月、私の故郷である兵庫県を襲った阪神・淡路大震災時、私は東京に住んでいたが信じられないテレビの映像を見て呆然とした。兵庫県でこのような大地震が発生するなどまったく想定していなかった。2011年3月には、東日本大震災が発生した。あの大津波も想像を絶するものであった。これらの震災によって多くの人びとの命が奪われ、財産が奪われた。東京電力福島第一原発メルトダウン炉心溶融)によって、大量の放射性物質が漏れ出し、いまだに故郷に戻れない人々も数多い。

 どちらも二度と経験したくない大震災であった。ただ日本は自然災害の多い国だから、またあるかもしれない。どうかもうありませんようにと祈る気持ちであった。だが、とんでもない災厄がまたもや日本を、人類を襲ってきた。それが新型コロナウイルスである。まさか生きているうちに、こんな災厄に見舞われるとは想像もしなかった。

 世界の感染者数は120万人を超えた。さらに増え続けることは確実だ。国連のグテーレス事務総長は、3月31日新型コロナウイルスの感染拡大について、「第2次世界大戦以降で最も困難な危機だ」と語ったがその通りである。

 世界でも、日本でも感染の拡大は間違いなくさらに進むだろう。国民にマスク2枚ぐらい送って済む話ではないのだ。

「検査数を増やせば医療崩壊が起こる」は本当か

 不思議でならないのが、日本の検査数の極端な少なさだ。これまで少なくない人が、「検査数を増やせば、感染者が増え、医療崩壊が起こる」と主張してきた。感染症法に基づき、「感染者は原則入院」とされてきたからだ。厚労省や保健所もこの立場に立ってきた。

 しかし、「原則」なのだからもっと柔軟に運用するという決断を早くにすべきだった。厚労省が「軽症者はホテルなどで」という方針を出したのは、4月2日だった。あまりにも遅すぎる。

 そもそも“検査数を増やせば医療崩壊が起こる”という理屈がおかしい。感染者がいるのであれば、早期に発見し、必要な治療とか、隔離をすべきである。これこそが感染拡大を食い止めるために不可欠なことだったのだ。感染者のうち8割程度が軽症というのだから、なおさらそうである。

 韓国では、1日2万件の検査が可能だと言われている。産経新聞4月5日付)によると、韓国では4月4日時点で45万人以上が検査を受けている。感染者は1万人を超えたが、6000人以上がすでに完治している。同国では、公的や民間の研修施設を改装して、「生活治療センター」を設置し、ここで軽症者や症状がない人を受け入れて、隔離した。医療崩壊は起こっていない。

 韓国と比べて日本はどうか。厚労省ホームページによれば、4月5日時点で日本の検査数は4万4000件余だ。韓国の10分の1にも達していない。にもかかわらず医療崩壊の危機にあるのだ。

 東京都厚労省の柔軟運用方針に基づき、軽症者用のホテル1000ベッド以上確保したそうだが、もっと早くこの方針をとっていれば、検査数を増やし、かつ医療現場に無用な負担をかけずに済んだのだ。

 お笑いトリオ森三中の黒沢かずこさんは3月21日昼に発熱症状がみられ、その後回復したものの味覚・嗅覚異常の症状が残ったため、保健所に連絡し、複数の医療機関を受診したという。ところが検査を断られ続けたそうだ。4月1日に受診した医療機関でCT検査を行ったところ肺炎と診断され、PCR検査の結果、3日夜に新型コロナ感染が判明したという。韓国ではあり得ないだろう。最初のボタンの掛け違いが大きかったのだ。

在日アメリカ大使館も日本の対応に不信感

 4月3日、在日米国大使館は、一時的に日本を訪れている米国民に向け、直ちに帰国するよう求める注意情報を出した。

 大使館がウェブサイトに掲載した注意情報は、「日本政府が検査を広範には実施しないと決めたことで、罹患した人の割合を正確に把握するのが困難になっている」と指摘。「今後感染が急速に拡大すれば、日本の医療保険システムがどのように機能するのか、予測するのは難しい」として、持病を持つ人がこれまでのような日本の医療サービスを受けられなくなる恐れがあると警告しているのだ。

 日本の検査数の少なさは世界の常識とかけ離れており、同盟国アメリカにもここまでの不信感を与えているということなのである。

「自宅療養」などもってのほか

 4月1日、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」を発表した。その中に「軽症者には自宅療養以外に施設での宿泊の選択肢も用意すべきである」という一文がある。

 前からこの「自宅療養」という方針に大きな疑念を抱いてきた。あまりにも極端な方針のぶれ方だ。感染症法によって、「感染した人は必ず入院」と言っていたのが、病院のベッドが不足するので「今度は自宅療養」とはどういうことか。プロの医療関係者ですら感染しているにもかかわらず、自宅に戻せば感染拡大を助長するようなものではないか。

 日本財団4月3日新型コロナウイルスの感染拡大による病床不足に対応するため、東京・品川区の「船の科学館」の駐車場に大型テントやコンテナハウスを設置するなどして、軽症者約1200人の滞在施設を整備することを発表した。また同財団は、茨城県つくば市で7月以降、約9000人の滞在施設を整備する方針を発表した。アパホテルも協力を表明している。

 この緊急事態に直面して、民間企業や団体が積極的に協力してくれている。国や自治体はもっと早くこういう要請をすべきだった。

 ノーベル賞学者である京都大学山中伸弥教授が、感染症やウイルスの専門家ではないと断りながら、新型コロナウイルスについて情報発信をされている。この情報発信のなかに、長年にわたりコロナウイルスの研究をしてこられた田口文広先生からの提言が紹介されている。その一部を紹介したい。

COVID-19 での犠牲者は殆どの場合、高齢者や基礎疾患を持つ人である。若い健常者は無症状、軽症化で終わることが多いが、そのような無症状(不顕性)感染者を隔離することがなければ、COVID-19 は限りなく続くように思われる」

「現時点で早急になすべきことは、感染者の特定、隔離である。無症状者や軽症患者は他国で実施されているように、医師の監督下で特定の宿泊施設に収容し、重症患者は指定病院での治療である。国や東京都が打ち出している『外出自粛』では、強制力がなく、感染拡大の阻止は殆ど不可能と思う。私が強調したいのは、COVID-19の感染拡大を抑えるには、感染者の特定、隔離が最も有効で、現段階では唯一の手段である、ということである。都市のロックダウンはかなり長期間(少なくとも潜伏期間以上)行わないと感染防止効果はない。現在、東京都内は、人が集う場所はどこでも感染し得る状態で、基礎疾患を持つ高齢者が安心して過ごすことは出来ない」

 このように田口氏は隔離の重要性を強調されている。自宅療養などもってのほかなのである。

 感染経路が不明な感染者が増え続けているということは、その背後にその何倍、何十倍、いやもっと多くの感染者がいるということを予測すべきだ。甘い対応は命取りになる。

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