凶作の続く北朝鮮の食糧事情は深刻さを増している。ここ数年、前年の収穫が底を付き食べ物がなくなる春窮期の訪れが早くなっており、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、「絶糧世帯」が例年より早く、4〜5月には2〜3割、多ければ半数に達しかねないと伝えている。

そんな中、朝鮮人民軍北朝鮮軍)の補給を担当する後方局が4月から半年間、軍官(将校)に1ヶ月毎に配給する食糧を10日分、つまり3分の1に減らせとの指示を下した。

デイリーNKの朝鮮人民軍内部情報筋は、このような指示が先月30日午前に下されたと伝えた。軍種、兵種、司令部級指揮官など軍官とその家族に配給する食糧は今後半年間、3分の1に減らされる。

これは、新型コロナウイルスによる経済難で緊縮財政に入ったことを示す。情報筋は「戦時物資はできるだけ温存しつつ、『今あるものは減らしてでも生き抜く』と、軍官に警戒心を植え付ける意図もあると説明した。

しかし、突如として配給を減らされてはたまったものではない。

民間人なら、自分の畑で栽培した農作物や、自宅で作った食品などを市場で売って現金を得てなんとか生き抜くことができる。一方で、軍官は市場での商売は禁じられており、食糧は協同農場から軍を通じて配られる配給に依存している。

軍官の家族も商売は禁じられているが、あの手この手で商売をしている。とは言っても、軍人の勤め先は人里離れた山奥にある場合が多く、村の市場に行って商売したところで人口が少ないため、大した収入にはならないのだ。

そんな事情もあってか、軍糧米(軍向けの食糧)を徴収を巡って、農場と軍の間でトラブルが起きることもしばしばあり、兵士が農民に銃を向けて食糧を半ば強奪する事態すら起きている。

軍では既に、国際社会の制裁の影響で配給が減っており、軍官やその家族が民間人よりも貧しい生活をしている様子が伝えられているが、今回のさらなる配給削減に当然のように不満の声があがっている。

だからといってこれといった代案は存在しない。前述の通り、軍官やその家族の商売は禁止されており、国境地帯に配属された者なら密輸に加担することで収入が得られたが、国境封鎖によりそれも容易ではない。下手に手を出せば銃殺されかねない。

「国が全てを保証するから、軍への服務だけに充実であれと言われてきたのに、急にコメの配給を減らすなんて、一体どうしろと言うんだ」(軍官)

商売に手を出せばクビや銃殺になる可能性があり、だからといって何もしなければ家族が餓死しかねない。こんな状況で国や最高指導者への忠誠心が維持できるわけがないというのが、情報筋の説明だ。

彼らをさらに不安がらせているのは「10月以降に配給が本当に元の量に戻るのか」ということだ。「10月10日朝鮮労働党創建日には何かもらえるだろう」という淡い期待を抱く者がいる一方で、「コロナのせいで経済がさらに悪くなり(何ももらえない)」と考える者もいる。

ちなみに、今回の配給減配の対象はあくまでも軍官で、一般兵士の配給は減らされていない。

「育ち盛りの下戦士(二等兵)はきちんと食べさせなければ業務が円滑にこなせなくなると判断したようだ。また、脱営(脱走)などの逸脱行為を防止でき、軍規確立もできるという意見からそうなったようだ」(情報筋)

減らそうにも、もはや減らしようがないからかもしれない。これ以上減らして、中国に越境して中国人を襲いでもしたら、国のメンツが丸つぶれになることを恐れたという事情もあるのだろう。

空軍狙撃兵の降下訓練を指導した金正恩氏(2019年11月18日付け朝鮮中央通信より)