ハンドピースを満足に滅菌・交換しないことが多い日本の歯科と比べ、タイの歯科の衛生は完璧に保たれている

◆たびたび問題になる「歯を削る器具の”使いまわし”」
 日本の歯科は、タイの歯科より段違いに不潔である--書き間違いではない。日本のほうが不潔であり、この点に関しては議論の余地が一切ない。

 「ハンドピースは、歯を削る時に歯科医が握っている、銀色の太いペンみたいな形をした部分です。これは患者さんの口の中に入れるので、血液や唾液が必ず付着します。だから、一人ずつ交換しなくちゃいけないし、国の指導も出ていました」(『やってはいけない歯科治療』岩澤倫彦著・小学館新書pp.178より引用)

 しかし、2014年5月19日読売新聞が「歯削る機器 七割使い回し」と日本歯科医療の闇を告発したほか(参照:「読売新聞」記事のInternet Archive)、その後にも2019年にはPRESIDENT3月18日号で「歯科医の5割が口に入れる器具を使い回す 歯医者告白”絶対受けたくない治療”」7月1日配信のAERAで「歯を削るドリルの「使い回し」が36% 歯科医が明かす裏事情とは?」など、度々問題になっているのが現実なのだ。

◆ なんと日本ではハンドピースを満足に滅菌しない歯科医が多数!
 
 ただ、読売新聞の記事をよく読むとこの「七割」すら疑わしいことがわかる。同記事を引用しよう。

 「2014年1月までに891施設(28%)から回答を得た。(中略)計66%で適切に交換しておらず、指針を逸脱していた」

 つまり、全体「28%」の中で、さらに「34%」のみが「適切に交換」、つまり患者一人一人に対して滅菌処理をした新しいハンドピースを使っていることになる。

 普通に考えて、もしハンドピースを交換しているならこのアンケートに対して自信をもって回答するはずだ。

 つまり、回答しなかった残り72%も、毎回ハンドピースその他を洗浄や消毒だけで、適切な「滅菌処理」した器具に「交換」していない可能性も否めないのだ。(ちなみに、消毒とは、“人体に有害な微生物の感染性をなくすか,数を少なくすること”であり、滅菌とは“すべての微生物を殺滅させるか,完全に除去すること”である。参照:北大病院感染症対策マニュアル

オートクレーブのない歯科には絶対に行ってはならない
 タイの歯科で、ハンドピースその他の機材を滅菌処理したものと交換せずに使うことなどほぼありえないという。

 「オートクレーブ」による滅菌処理を行い、全てを袋に入れ、毎回新しい患者が来るたびに目の前で袋を破って使う。

 「オートクレーブ」とは、一言でいえば「高圧蒸気滅菌」である。圧力釜の中で120度を超える蒸気をあてて滅菌するわけだ。日本の歯科ではハンドピースの滅菌が完全義務化されていないこともあり、オートクレーブが入っていないか、入っていてもクラスNという一番レベルの低いものが多く、内部まで完全滅菌できるクラスBのものは数%しか導入されていないという(ちなみに、中国や韓国、タイも民間医療機関でのクラスBオートクレーブの普及率は日本より高い)。理由は、もはや耳にタコかもしれないが、「保険適用外だから」である。

 「お宅にオートクレーブは導入されていますか?」と聞き、もし答えが「否」なら、その歯科には絶対行ってはいけない。血や唾液が直接介在する以上、HIV感染の可能性は絶対に否定できないのだ。もちろん、日本でも自由診療の歯科などはクラスBのオートクレーブも完備し、極めて清潔に気を使っている歯科もあるので、事前に確認することは必須である。

 HIVはまだ感染力が弱いほうだが、肝炎ウィルスが感染することは十二分にありえる。つい最近、元広島カープ投手の北別府学氏が「成人T細胞白血病」を公表したが、実はこのタイプ白血病も歯科で感染する恐れがある。

◆「完全武装」するタイの歯科医看護師
 だからこそ、タイの場合歯科医看護師も「完全武装」する。

 髪の毛が落ちないように帽子をかぶり、マスクと手袋はもちろん、その上に顔の前にプラスチックのプロテクターをつけることも珍しくない。その上で患者の顔の上にも口だけ開けた布をかけて保護する。

 したがって、2014年に筆者が「大工事」を行った際、二週間バンコクに滞在して見たのは「真っ暗闇」のみだったと言っても過言ではない。朝十時から夜九時までぶっ続けで治療を行い、その間ずっと布をかけられたままだったから当然のことだ。

 数年前、筆者の飲み友達に北欧某国の大使がいた。今は帰国してしまったが、一度「お宅の国の人たちは、歯科治療をどこで行うのか?」と聞いたことがあった。彼はこう答えた。

 「私の国の歯科治療もそれほどひどいものではありませんから、自国で済ませる人が多いです。それでも、大掛かりで費用もかかる場合は、バンコクなら安い直行便がありますからタイでやる人も多いですね」

 欧州においても、タイの歯科が「飛行機に乗ってでも」受けに行く価値があるものだという常識が浸透している証拠である。

◆タイの歯科の無駄のないスケジュール
 先ほど「朝十時から夜九時まで」と書いた。これが、タイなら歯科治療の時間短縮ができる秘密である。
 
 一日目、朝10時に歯科に入る。約一時間かけてX線を撮影し、治療計画の打ち合わせ。
 11時~ クリーニングとホワイトニング
 12時半~14時半 虫歯治療
 14時半~16時半 昼食
 16時半~18時 RCT
18時20時  前歯のベニア型取り
 20時半 (ホワイトニングによる)痛み止めの処方・会計
 21時 病院を出る

 ただ、公平を期して言うと、タイ王国国民全員がこのような治療を受けられるわけではない。筆者が通うのは、外国人専門の自由診療高級歯科である。

 タイ語は一切必要なく、歯科医とは100%英語で意思疎通が可能である。保険は効かないが、この連載で何度も強調する通り日本の歯科医療のガンは「国民皆保険制度」である。もちろん、「自由診療枠」で考えると、タイの歯科治療は決して高くない。そして値段は全てサイトで公表されている。

 そして、上記の治療は全て別々の歯科医が行う。ホワイトニング専門、虫歯専門、RCT専門、ベニア専門、ほかにもインプラント専門やかみ合わせ専門、親知らず抜歯専門もいる。それぞれが専門なのだから、下手であろうはずがない。

 あなたは、「一人の歯科医が三人の患者を同時に治療する不潔な後進国」と、「五人の歯科医がそれぞれ二時間ずつ一人の患者を診てくれる清潔な先進国」の治療と、どちらを選ぶだろうか?

 次回は、欧州のある国の事情を紹介する。

<取材・文/タカ大丸>

【タカ大丸】
 ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日たけしのTVタックル」「たけし超常現象XファイルTBS水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。

ハンドピースを満足に滅菌・交換しないことが多い日本の歯科と比べ、タイの歯科の衛生は完璧に保たれている