海外でコロナショックの波に巻き込まれた日系企業。今後さらなる影響が予想される製造業では、ポーランドに拠点を置く、とある中小企業がその影響から逃れようと奮闘している。

◆不安な時期に会社の方向性が見えるか

創美ポーランドは大手メーカーへの部品提供などを行なっている

 前回に続き、新型コロナウイルスによる影響や、今後の施策を語ってくれたのは、自動車や家電の大手メーカーに金属パーツを提供している日系企業、創美ポーランド取締役の浅野慶一郎氏だ。

 現段階での被害は最小限に食い止めているという浅野氏だが、コロナ影響下にある異国で、どのような対策を打っているのだろうか?

——危機的状況のなかでも、今はうまく業務をこなせているそうですが、その理由は何なのでしょう。

浅野慶一郎氏(以下、浅野):「完全に人ですね。人間性がどうとかではなく、社内のコミュニケーションや透明性です。私自身も、従業員も、わからないことがあれば、あえて“空気を読まない発言”をして胸の内を共有し合う」

——直接的にコミュニケーションを取ることが難しくなっている現在、平時からそれができているかどうか、差が如実に現れそうですね。

浅野:会社の状況や、上司が何をやっているのかわからないと従業員は不安です。そういった不安は、電波的に広がっていきます。もちろん、全部をオープンにするわけではありませんが、聞かれたことに対しては、答えます。

 会社をひとつの国として考えることはよくあるのですが、国民にどういう声をかければ、かけなければいけないかはしっかり考えます。もちろん、一番大事なのは行動です。例えば、今回の騒動でも、習近平が武漢に行くこと自体がひとつのメッセージになってるな、と勉強になりました」

ネットワーキングが課題に
——一方通行な情報の発信や、具体的なアクションを起こさずにいることは、従業員の不安を増大させるだけでなく、ひいては企業の成績にも影響するということですね。リスクステージ別にシミュレーションする他に、やらなければいけないことはなんだと思いますか?

浅野:「まだ模索しているところですが、課題は非接触のネットワーキングです。私自身、今までは“足で稼いできた”営業マンでしたが、それが絶たれたなかでどうするか。例えば今であれば、呼吸器の部品を作るサプライヤーを探していますという企業もあるはずです。

 我々のような中小規模の若手企業は、ローカルでもグローバルでも、コネクションが弱いネットが発達しているとはいえ、田舎町の小さな企業がどうやって社会と繋がっていくか、それをどうやってやるのがベストなのか。それが短期的にやらなければいけないことだと思います。社内的にできるコストカットなどは、やろうと思えば簡単にできるんです。ただ、それだけでは会社は回らない。どうやって収入を得るかを念頭に置かないと」

——コロナショックの影響下では、真っ先にダメージを受けるのは中小企業ですからね。

浅野:トライ&エラーができなくなったのも痛いですね。体力のある大企業には関係ないでしょうけど。我々はトライ&エラーに対して抵抗感がないのが強みだったのが、現状はエラーを許せない」

◆“連敗街道”に踏み込まないためには
——先ほどおっしゃった「不安」や、「見える・見えない」ということにも繋がってきますね。

浅野:エラーストップしてしまうと、動けない組織になってしまい、衰退してくしかなくなります。会社全体でも、従業員個々でも、『やって結果がありませんでした』に対してみんなが怖がるようになる。新しいことができなくなってくる。それが2年とか続いて、エラーは一切なくしてくださいとなったら、会社が保ちません。会社はそういう空気でやっていると負け癖がついていきます。どこでまたトライ&エラーができるようになるかは、よくよく判断しないと」

——スポーツチームでも、不調のときはミスを減らそうとするあまり、チャレンジできなくなることが多々あります。

浅野:「そうですね。消極的になり、投資もできなくなると、いい選手も獲得できないし、日々の練習にも力が入らない。そうして連敗街道が続いてしまいますアクションを起こした先にモチベーションがついてきます。足元でのビジネス的な数字のインパクトより、今後に向けてどういう流れを作れるかが大事になってくると思います」

◆企業へは補助金よりもビジネスチャンス
——自社内での対策や取り組み以外で、行政などに求めることはありますか?

浅野:「企業としては、補助金よりもビジネスチャンスがほしいです。補助金は一過性のものにすぎません。怪我をしたとき、傷口に薬を塗るような効果ですね。それよりも、自己治癒能力を高められるような施策に期待したいです。魚を持ってくるよりも、釣り場を用意してほしいです」

——具体的には、どういった施策が挙げられますか?

浅野:「我々の業界で言えば、今は医療関係のニーズが高まっているので、それら機器のサプライヤーや製造をしてほしいという要望を、行政でまとめてほしいです。人工呼吸器の図面をもらうには、ここにコンタクトとれ、とか、医療機関からのブレイクダウンを行政主導でほしいです」(*この取材後に、彼ら自身でポーランド政府へコンタクトを取り、人工呼吸器の製造を検討中とのこと)

——すでに他国では、大手自動車メーカーが医療機器の生産にシフトした事例も出ていますね。

浅野:「そういった流れを大手のティアメーカーから、我々のようなティア3まで繋げてほしいです。コロナで特にキツいのは、下請けや中小企業ティア1、2と大きな差があって、コストカットすれば当然ティア3がダメージを受けて、吹き飛んでしまいます。政府としてもマクロミクロ、両方を見てほしいです」

ネガティブな国民性が意外な助けに?
——業種にもよると思いますが、こと製造業の企業に対しては、一律に現金を投じるよりも流れを生むほうが大事だと。

浅野:ミクロなところを助けるには、ビジネスを通してじゃないと難しいと思います。大企業内部留保の現預金に対して課税して、それを実際のビジネスとして回してほしいです。10%の課税でも、大手企業ならば何千億円規模のプロジェクトになりますし、『税金で取られるぐらいなら大型プロジェクトや投資に回そう』となれば、みんなに行き渡ります」

——中小規模の企業と医療機関のマッチング、滞っているキャッシュへ課税することによって流動性を促してほしいということですね。最後に、日系企業の経営者として、ポーランド社会や現地従業員に対して感じたことがあれば教えてください。

浅野:「一番印象的なのは、コロナショックに対するポーランド人の反応ですね。ポーランド人は素がネガティブなんです(笑)。ただ、今回のコロナショックでは、『倒産だー!』となるかと思いきや、コストダウンや引き締めにも協力的で、日常生活でも制限が多いなか、パニックにはなっていません。ワーストケースを予想しながら、地道に、粛々と、割と普通に業務も生活もこなしています」

コロナ影響下で浮き彫りになった過去の歴史
——ポーランドでは、過去に国家が消滅したこともあります(注:ポーランドは4度に渡って国が分割され、消滅している)。そういう歴史も影響しているのかもしれないですね。

浅野:「そうなっても、歴史的に生き残ってきましたからね。ネガティブなんだけど、不屈の精神があるのか……。ネガティブなぶん、有事でも実装が早いんです。スーパーとかでも、すぐにレジ前の列で距離を取るためのテープを貼ったり、プラ製の壁をつけたり。

 社内でも、普段は『明日も雨だろう』とか『どこかに落とし穴がある』とか言うくせに、コロナで空気が重くなると、『止まない雨はない』みたいな(笑)。自分が挫けそうなときに、みんなが頑張ろうとなるんです。そういう風にメンタルを持っていけばいいんだな、と。そういう国民性には倣うところがあると思います」

<取材・文/林泰人>

【林泰人】
ライター編集者日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン

創美ポーランドは大手メーカーへの部品提供などを行なっている