新型コロナウイルス感染者の増加が止まらない中、東京五輪の1年間の延期が決まった。そこで注目されたのが五輪選手村跡地にできる総戸数5632戸のマンション、HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)の取り扱いだ。

 計画では供給されるマンションのうち1487戸が賃貸住宅、4145戸が分譲住宅となる。これらの住宅は選手宿舎として使用した部屋を、五輪終了後にはリノベーションして一般住宅として活用するものだ。分譲住宅についてはすでに昨年7月から販売を開始しており、現時点では約900戸程度で売買契約が結ばれている。

すでに分譲してしまった部屋はどうなる?

 実際の入居開始は、中低層棟の17棟2690戸については2023年3月を予定し、五輪終了後に新たに建設される高層棟(地上50階建2棟1455戸)については2024年9月を予定している。

 ところが五輪の延期によっていくつかの問題が生じている。

 五輪終了後に建設される高層棟についてはまだ募集も開始していないので問題はないのだが、すでに一部で分譲してしまった中低層住宅部分について、建物の引渡し、入居開始に支障がでるのではないかという懸念が広がっているのだ。

五輪後に工事を急がせるにも限界がある

 昨年分譲した第一期第一次/第二次で対象となった住戸はSEA VILLAGE(A、B、Dの3棟)とPARK VILLAGE(AからFの6棟)である。売主側では、実は3月下旬から第二期の募集を開始する予定で、SEA VILLAGEの残住戸に加えて新しい街区であるSUN VILLAGEが加えられるはずだった。

 現在までのところ、第二期の募集は6月以降に延期されることが発表されている。

 五輪開催が1年延期されれば、当然五輪終了後のリノベーション工事のスケジュールも1年遅れることとなる。単純に考えれば引渡し、入居開始も1年遅れると考えるのが自然だ。もちろん、工事を急がせる、あるいは現在までに分譲してしまった棟を優先して工事するなどの対策は考えられるが、2街区の棟のそれぞれで一部を分譲してしまっているので、工事は広範囲に及び、限られた期間で終えられるかは予断を許さない状況だ。

住宅ローンは“引き渡し時点の金利”が適用される

 仮に1年延びた場合、既に売買契約を締結した顧客からのクレームが殺到するだろうことは想像がつく。ファミリー用の部屋が中心なので、子供の新入学のタイミングでの入居を考えている顧客も多かっただろうし、現在住んでいる賃貸住宅の契約更新に伴う更新料などの余分な支払いを余儀なくされる顧客も出現するはずだ。

 また、住宅ローンの金利は建物引渡し時点の金利が適用されるので、金利上昇リスクを懸念する顧客も出るだろう。

 五輪終了後のリノベーション工事が引渡しまでの前提条件となっているだけに、五輪開催の遅延は今回の分譲事業に大きな影響を与えてしまっているのだ。おそらく売主側も、こうした事態を全く想定していなかったものと想像される。

解約しても「数百万円の手付金」は返ってこない?

 こうした事態を受けて、顧客から契約そのものをキャンセルできるかという問題が発生するだろう。本件における実際の契約書を見たわけではないので正確なところはわからないが、おそらく売主側の立場にたてば、新型コロナウイルスの発生は天変地異であり、通常契約において、地震や災害などの予測できない災害の発生に関しては引渡しが遅れてもその責務は負わない、とするのが通常の解釈となるだろう。

 天変地異条項におそらく「疫病」という表現はないだろうから、法的に戦う余地は十分にあるだろうが、売主側としては買主がキャンセルするのであれば、それまでに買主が支払った手付金は返還せずに、所謂「手付流し」として解約に応じるというのが通常の対応であると思われる。

 マンション購入の場合、手付金はおおむね購入価格の5%から10%相当になるので数百万円のレベル。買主側がおいそれと納得できる金額とはいえないだろう。

売主側が強気に出られない理由

 だが、売主側もこの事態に対して契約を盾に取り、キャンセルについて強い対応がとれるのかと言えば、難しい側面もある。何しろこのマンションはまだ3000戸以上を売り続けなければならないからだ。

 ここで強気に出られるほど、第一期の販売状況は順調とは言い切れなかった。ただでさえ、今から3年後の引渡しであったものが、4年後に延びるということは、将来の社会や経済に対してある程度楽観しなければ、とても購入の判断がつきにくいこととなる。

 これまでは不動産マーケットの活況を背景に、(不確かながら)まだこの好景気が続くと考えて購入を検討する顧客も一定数いたものと考えられるが、今回の騒ぎによってマーケットのスタンスがかなり悲観的な方向に傾くリスクが高くなったと言わざるを得ない。

 強気の対応がかえって今後の販売にネガティブに働くとすれば、ここは手付金を返還してキャンセルに応じる柔軟な姿勢をみせることも、販売戦略上は必要かもしれない。ただ販売会社は三井不動産レジデンシャルをはじめ計11社もの大所帯。全社の合意をとるのは至難の業であろう。

HARUMI FLAGは「それでも買い」か?

 さてこうした大きな環境変化に襲われたHARUMI FLAGは「それでも買い」といえるのだろうか。

 東京五輪自体、1年延期されたとはいえ、来年7月に確実に開催されるという保証は残念ながらない。状況改善が遅れて2年延期などとなれば、引渡し・入居開始はさらに延びて25年3月などとなり、さすがに今から5年後を見通すことを嫌気する顧客が増えてもおかしくはない。

 建物自体はすでに完成しているので、いくらフルリノベーションするからといっても、実質築5年のマンションを購入することに、多くの人は躊躇しはじめるのではないだろうか。経済状況が一変することで、昨年時点では「相場より割安」などと捉えられていた価格も、微妙なものになる可能性も否定できない。

 分譲総戸数4145戸の巨大戦艦HARUMI FLAG羅針盤はどの方向を示せばよいのか、荒海の航海を覚悟しなければならなそうだ。

(牧野 知弘)

選手村に建てられたマンション ©AFLO