客のための「サービス」がクレームに発展してしまったーー。そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。動かなくなった腕時計の修理を頼まれた相談者。最後にサービスとして表面の細かい傷などを磨き上げたところ、クレーム騒ぎとなり困惑しています。

客は「なんで頼んでもいないことをしたのだ!傷には『思い出』があった!」と激昂。「 どうしてくれるんだ」と詰め寄っているようです。

とはいえ、最後に「磨き仕上げ」をするのは、よくあるサービスです。相談者も「サービスの一部であり、一般常識だと思ったのですが、これは契約違反なのでしょうか」と疑問に感じています。法的にはどう考えられるのでしょうか。大木怜於奈弁護士に聞きました。

●損害賠償責任を負う可能性は低い

ーーカスタマーハラスメントのようにも思えますが…法的にはどう考えられますか。

結論として、相談者が損害賠償責任を負う可能性は低いと思います。

まず、腕時計の修理の依頼は、請負契約(民法第632条)にあたります。請負契約は、請 負人がある仕事の完成を約束し、注文者がその仕事の結果に対する報酬の支払いを約束することで成立する契約です。

そして、仕事の目的物に「瑕疵(かし)」、ざっくり言うと欠陥という意味ですが、これがあるときは、注文者は、請負人に対し、瑕疵修補請求や損害賠償請求が可能です(民法第 634条)。

ーーどのような場合に、欠陥と言えるのでしょうか。

「瑕疵」にあたるかは、契約書等に示された品質・性能に関する取り決めが重視されます。そのような取り決めに反している品質・性能であった場合、「瑕疵」があるといえます。

●契約書がなければ「取引上の社会通念」で決まる

ーー契約書等で細かく取り決めがない場合は、どうなりますか。

結論としては、「取引上の社会通念」で決まることとなります。具体例を挙げると、時計屋さんで、ある時計Xの電池の入れ替えの依頼があったとします。この場合、契約書等がなかったとしても、時計Xに合った電池をきちんと入れることが、「取引上の社会通念」だと考えられます。

今回のケースでは、契約書等がありませんでしたので、「取引上の社会通念」をもって判断されます。

「動かなくなった腕時計の修理」を依頼した際に、時計屋が磨き上げのサービスを行う ことは、「取引上の社会通念」に照らせば、通常のサービスの一環といえ、「時計の思い出 の傷を取ってしまったこと」は「瑕疵」にあたらないと判断されます。

よって、今回のケースでは、相談者は、損害賠償責任を負わないと判断される可能性が高いかと存じます。

ーーこれで訴えられたら、お店も困ってしまいますね。予防策はありますか。

答えとしては、契約書等でしっかりと修理等の仕事の内容を取り決めておくことです。

契約書にすべての事項を万全に詰め込むことは極めて困難ですが、専門家である弁護士が作 成した契約書は、トラブルを防止するための条項が漏れなく入れられます。

相談者のように、日々行う業務に関する契約書がないという事業主は、今回のようなトラブルを避けるためにも、ぜひ一度専門家である弁護士に契約書作成について相談することをお勧めします。

【取材協力弁護士】
大木 怜於奈(おおき・れおな)弁護士
弁護士登録前の会社員としての勤務経験を活かし、ビジネス実態に即したリーガルサポートの提供を心掛け、企業法務においては、多様な経営者のパートナーとして、様々なサービスの拡充に努めております。
注力分野としては、労働問題に重点的に取り組み、「企業の人事労務クオリティ向上による従業員に対する真の福利厚生の実現」を目指しています。
事務所名:レオユナイテッド銀座法律事務所
事務所URL:https://leona-ohki-law.jp/

腕時計の修理 綺麗に仕上げたら、客が「傷も思い出!」とブチ切れる