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ハイパワーで重たいエンジンだからこそ

text:John Evans(ジョン・エバンス
translationKENJI Nakajima(中嶋健治)

 
中古車を選ぶ場合、できるだけ多くの情報を売り手から聞き出したい。紹介用の写真からでも、状態を推測できることがある。

【画像】ベンツSLKとSLC、SL 全72枚

筆者が見つけた、2005年式のメルセデス・ベンツSLK 55 AMGを例に挙げてみよう。価格は1万3995ポンド(188万円)で、走行距離は14万4000kmほど。英国では概して長距離を走るから、走行距離は多めだ。

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メルセデスSLK 55 AMG(2代目・英国仕様)

写真は、手入れされた所有者の敷地で撮影されているようだ。きれいに刈り込まれた生け垣に沿って、クルマ用の道が伸びている。おそらく売り手自慢の自宅だろう。

売りに出ているクルマも、オーナーは誇りに思って乗ってきた様子。紹介文には「エンジンオイルは、モービル1かシェルVパワーを選んできました。16本のプラグを最近すべて交換しています」 

「整備記録も完全に残っています。バリオルーフの動作は完璧。ゴム製のシール部分も、柔軟性を保てるケア剤を定期的に塗っています」 と記してある。

トランスミッションのバルブボディ、エンジンマウント、フロント・ウイッシュボーン、シャシー・ブッシュショックアブソーバーが交換済み。指摘する場所はなさそうだ。

SLK 55 AMGは重いクルマで、フロントサスペンションへの負担は大きい。ウイッシュボーンへの負荷も無視できない。エンジンマウントがヘタると、不具合を招く原因となる。ダンパーオイル滲みやリアスプリングの破損は、R171型SLKに共通する弱点。

7速ATは手間いらずなユニットではない。新しいバルブボディに変えても不思議ではない。売り手も良い状態だと書いているが、ちゃんと理解して維持していることが伺える。

思わず虜になるAMG製V8エンジン

メルセデス・ベンツSLK 55 AMGが発売されたのは2004年。5.4Lという大排気量の自然吸気V8エンジンを搭載し、360psを発揮した。パドルシフト付きの7速ATを介して、後輪を駆動する。

AMG専用のボディに18インチアルミホイール、専用サスペンション、4本出しのマフラーなどが標準装備。欲しいオプションは、ハーマン・カードン製のオーディオと、エアスカーフと呼ばれた首元のヒーターだろう。

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メルセデスSLK 55 AMG(2代目・英国仕様)

当時4500ポンド(60万円)で選べた、AMGパフォーマンス・パッケージも嬉しいオプション。コンポジット・ブレーキに引き締まったサスペンション、セパレートリムのアルミホイールがセットになる。スピードリミッターも249km/hから280km/hへと緩くなる。

2年後の2006年、ハードコアなブラック・エディションが登場。399psを誇った。フェンダーは広げられ、調整式のダンパーデュアルモード付きのトランスミッション、ストラットブレース、バケットシートとリアウィングなどを獲得。

カーボンファイバー製の固定式ルーフとなり、45kgの軽量化も果たしている。当時のメルセデス・ベンツは世界中で100台以下の販売を予定しており、いま中古車として出てくる可能性は低い。

だが、英国では2007年式のクルマを見つけた。価格は2万7971ポンド(377万円)で、メルセデス・ベンツでの整備記録が揃い、走行距離はわずか4万1800kmほど。

フェイスリフトを受けたのは、生産終了2年前の2008年。見た目の違いはフロントバンパーで、両端のエアベントの形状が変わり、ヘッドライトの内側がブラックアウトされている。

同時にATの変速がクイックになり、可変ステアリングシステムを獲得。フェイスリフト前の方がフロントブレーキの性能は良いが、部品は高価だ。

同じ頃のポルシェ・ボクスターSの方が、ドライビングはシャープ。だがV8エンジンを目覚めさせれば、思わず虜になるだろう。

不具合を起こしやすいポイント

エンジン

定期的エンジンオイル交換以外の整備記録を見る。点火プラグは16本。交換時期を確認したい。ロッカーカバーの両端にあるブリーザホースが詰まりやすく、アイドリングが不安定になる。ヘッドカバー・ガスケットからのオイル漏れにも注意。

トランスミッション

ATフルードは6万kmごとに交換したい。フルードの量が少なくなると、オーバーヒートを起こし、クラッチが焼き付く。試乗ではすべてのギアに変速し、スムーズで異音がないかも確認する。

サスペンションとブレーキ

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メルセデスSLK 55 AMG(2代目・英国仕様)

ブレーキディスクとパッドはとても高価。交換時期かどうかを確認する。特にフェイスリフト前のSLK 55 AMGには、フロントにブレンボ製の6ポッドキャリパーとフローティング・ディスク、リアに4ポッドキャリパーが奢られている。

エンジンは重く、フロントサスペンション・アームへの負担も大きい。ヘタるとハンドリングに影響を及ぼす。ブッシュ類やショックアブソーバーも同様。

ボディ

サビに注意。一部のクルマは、リアサブフレームが激しく腐食していることがある。

シートの後ろやスペアタイヤの下側に、水が流れ込んだ跡がないか確認する。トランクリッドのシールが変形して水が入ることがある。

電動ルーフがスムーズに動くかも確認する。長期間使用していないと、マクロスイッチがホコリやゴミで詰まり、動作不良になることがある。

インテリア

シートヒーターを確認する。座面に強い力をかけると、ヒーターが切れることがある。良くある不具合で修理費は高め。エアスカーフが付いている場合は、動作確認も忘れずに。

エンジン始動時には、すべての警告灯が一度灯り、始動後に消灯することも見ておく。

専門家の意見を聞いてみる

コリン・ジャクソン P3 AMG社代表

「2台のSLK 55 AMGを所有しています。マッドボールと呼ばれるラリーイベントに参加した記憶が大きいです。イタリアのステルヴィオ峠を、友人が運転するランボルギーニガヤルドと走りました」

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メルセデスSLK 55 AMG(2代目・英国仕様)

「マニュアルモードにして、パドルで変速して走りました。素晴らしい体験でした。2400kmを走った後でも、気持ちは新鮮なままでしたよ。特に好きなのは、排気音。運転もしやすく、乗り心地も快適です」

「いくつかのメンテナンスは必要です。適切に整備していれば、エンジンは丈夫で信頼できます。フロントサスペンションはエンジンの重みで傷みます。ブレーキにも費用がかかります。でも、もう1台欲しいと思っているくらいです」

知っておくべきこと

二酸化炭素の排出量は、288g/km。英国の場合、2006年3月以前に登録されたクルマの自動車税は325ポンド(4万4000円)だが、それ以降になると570ポンド(7万7000円)に高くなる。

いくら払うべき?

8000ポンド(108万円)〜1万999ポンド(149万円)

走行距離の長いクルマが少数。大きな修復を受けているものも。

1万1000ポンド(150万円)〜1万3999ポンド(189万円)

主に2005年式で複数オーナー、走行距離の多いクルマが中心。中には走行距離9万kmほどのクルマも見つかる。整備記録が揃っている場合があるが、メルセデス・ベンツでの整備でないことが多い。

1万4000ポンド(190万円)〜1万6999ポンド(229万円)

状態のかなり良いクルマが出てくる。2005年式の個人売買で、正規ディーラーでの整備記録が揃った9万km台が、1万4995ポンド(202万円)だ。2008年式のクルマでも良いものが見つかる。

1万7000ポンド(230万円)〜2万ポンド(270万円)

メルセデス・ベンツの正規中古車を含める、優良車両がほとんど。

英国で掘り出し物を発見

メルセデスSLK 55 AMG 登録:2005年 走行:8万8500km 価格:1万2995ポンド(175万円)

見栄えの良い、低走行距離のクルマで、内容も良い。整備は正規ディーラーだけでなく、専門店でも受けているが、すべて揃っているわけでもないようだ。安い価格に反映している。ちなみに2008年式の11万2600kmのクルマで、正規ディーラーでの整備記録が残っていると、英国では1万5500ポンド(209万円)くらい。

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メルセデスSLK 55 AMG(2代目・英国仕様)

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