米空母セオドア・ルーズベルト大破

 米国の空母「セオドア・ルーズベルト」は中国の対艦弾道ミサイルDF-21(東風-21)に攻撃されたわけでもないのに、制御不能となりグアムのふ頭で停泊したままだ。

JBpressですべての写真や図表を見る

 その原因は、100人以上の乗組員が新型コロナウイルスに感染したからだ。

 これが実際の戦争なら、世界主要紙の見出し「米空母セオドア・ルーズベルト大破!!」と報じられたことだろう。

 クルーズ船のダイヤモンド・プリンセス内で乗員・乗客の新型コロナウイルス感染が広がったように、空母のみならず戦略・攻撃型原潜を含む艦艇は新型コロナウイルスの“攻撃”には弱いようだ。

 新型コロナウイルスの“攻撃”は、今後米陸・海・空軍と海兵隊を蝕むことだろう。

 どれほどの戦力ダウンになるかは予測できないが、マーク・エスパー国防長官は米軍の即応能力低下の「懸念はない」と強調してみせた。だが、誰も本当のことは分からない。

 新型コロナウイルスは、米軍のみならず中国軍をはじめ世界各国の軍も等しく“攻撃”するだろう。自衛隊も例外ではない。

 海賊対処や情報収集任務に当たるP3C哨戒機部隊は、1月下旬から活動しており、4月末にも次の部隊と交代を予定している。

 しかし、ジブチ政府は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、3月末、すべての国際線の発着を停止したため、交代部隊がジブチに入国できず、一時的な活動中止に追い込まれる可能性が出てきた。

 また、アラビア海などで情報収集任務に当たる「たかなみ」はPCR検査キットも搭載しておらず、感染への懸念が高まっている。

 6月上旬に「きりさめ」と交代する予定だが、補給のための寄港時にも下船できず、隊員のストレスもたまっているという。

 河野太郎防衛大臣は、状況が悪化した場合に備え、活動の中断も含めて、複数の対応策を検討していることを明らかにした。

新型コロナ禍は第3次世界大戦だ
第2次世界大戦との違いとは

 新型コロナウイルスの“攻撃”の様相は、まさに第3次世界大戦と呼ぶにふさわしいものだ。以下、第2次世界大戦と対比しつつその特徴を説明したい。

 第2次世界大戦1939年から45年までの約6年間戦われた。ちなみに、第1次世界大戦は4年3カ月である。いずれも、世界中に厭戦気分が沸き起こるのに十分だった。

 新型コロナウイルスの“攻撃”もワクチンも治療法もない中では、人口の60%から70%が感染集団免疫を獲得するまで(4~6年かかると言われている)は継続する可能性がある。全世界が疲弊し、気力が萎えるのに十分な期間だろう。

 第2次世界大戦では、ドイツイタリア・日本を中心とした枢軸国に対し、英国・フランス・中国に加えて途中から参戦したソ連・アメリカ合衆国を加えた連合国(最終的には52カ国)との2陣営に分かれ戦い、連合国が勝利し、枢軸国が敗戦した。

 また、主な戦場はヨーロッパ戦線とアジア・太平洋戦線の2つであった。すなわち、北米大陸と南米大陸、オーストラリアアフリカインド、ソ連の東部などには戦火が及ばなかった。

 このことは、戦後の新秩序を作るうえで大きな作用があった。それは、米国が英国に代わって世界覇権を握ったことである。

 米国は領土も賠償も得なかったが、戦争の中盤(1941年12月)まで参戦していなかったために、連合国に対する物資供給者として、経済的に大きな利益を得た。

 それだけでなく、その国際的な地位においても、欧州特に英国との関係を逆転し、それ以降パクス・アメリカーナ(アメリカによる平和)と呼ばれる世界覇権体制を確立することになる。

 一方、新型コロナウイルスの“攻撃”は「人間が住んでいる地域」はいずれも例外なく戦場となる。

 また、第2次世界大戦においても都市と産業中枢地域への攻撃(主として空爆、広島・長崎への原爆投下を含む)は行われたが、新型コロナウイルスの“攻撃”も同様に人口密度の高い都市と産業中枢地域へ向けられる。

 さらに、陸・海・空路の輸送が遮断されるのも同じだ。

 新型コロナウイルス事態においては、世界各国は「敗戦国」となる。各国は、多少の差はあるものの、等しく人命や経済・財政などの損害を被ることになる。

 新型コロナウイルス事態終息後は、各国とも、敗戦の被害・疲弊の中から立ち上がらなければならない。

 第2次世界大戦は戦時国際法(ハーグ陸戦法規やジュネーブ条約など)に則って戦われた。同法には条約締結国が順守すべき8つのルールがある。

 その第1が「軍事目標以外への攻撃禁止(降伏者、負傷者、民間人等の攻撃禁止)」である。しかし、新型コロナウイルスは軍・民を無差別に“攻撃”する。また、当然のことだが“攻撃”は対象国家をも選ばない。

 第2次世界大戦時、各国は戦争遂行のために産業・経済への直接的統制を行った。また、兵員増強のために労働者が減り、都市と産業中枢地域への攻撃が行われれば、経済・産業のインフラは決定的なダメージを受けた。

 新型コロナウイルの“攻撃”においても、人々が大量に感染し様々な分野で労働力が大幅に低下する事態は同じだ。

 例えば農業分野においては、新型コロナウイルスの蔓延で人の移動制限により農業のための人手不足が深刻化し慢性的な食糧不足に陥るリスクが浮上している。

 新型コロナウイルス事態が第2次世界大戦時と違うのは産業・経済のインフラが破壊・焼失しないことだ。

 このことは、終息後の復興の様相が違う。このため、各国は、企業をつぶさずに生き残らせる工夫に腐心しているようだ。

 第2次世界大戦の犠牲者は軍人・民間人を合わせて直接死者が2500万人、間接死者が1500万人、負傷者が3400万人、総計7400万人と言われる。

 一方の新型コロナウイルスによる犠牲者はどうだろうか。3月11日ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、「ドイツ国民の60%から70%が新型コロナウイルスに感染する可能性がある」と述べた。

 その根拠は、集団免疫に基づくものと思われる。

 集団免疫とは、ある感染症に対して集団の大部分が免疫を持っている際に生じる間接的な保護効果であり、免疫を持たない人を保護する手段となる。

 この考え方に基づけば、世界人口73億人(2015年)の60%が感染したと仮定すれば約40億人以上が感染することになる。

 そのうち、10~20%が重症化すれば、4億~8億人の入院治療が必要となり、世界的な医療崩壊は免れないだろう。

 また、致死率はいまだ確定されていない段階だが、仮に3%とすれば1.2億人以上の命が失われることになる。これは、第2次世界大戦の総死者数4000万人に対して3倍にあたるものだ。

 今述べた新型コロナウイルスによる犠牲者数は最大値であり、もしも早急にワクチンや薬剤が開発・普及すればその数は抑えられる。

 最後に、戦費を比較してみよう。

 第2次世界大戦の戦費は1兆1500億ドルと言われる。このドルの価値(1945年として)現在の金額に換算すれば、約15倍の17兆ドルと見積もられる。

 これに対する目安として、米国のドナルド・トランプ政権が新型コロナウイルスの感染拡大による景気の悪化を抑えるため成立させた経済対策法は、過去最大となる2兆2000億ドル=237兆円規模である。

 この金額は米GDP(21兆ドル)の約1割に相当する。米国の名目GDPの世界シェア(2017年)が24.3%であることから推計すれば世界の財政出動規模の目安は9兆ドルである。

 この額は、第2次世界大戦の戦費の約半分の規模だ。

 しかし、この経済対策は単に始まりに過ぎず、今後追加されることだろう。

 また、新型コロナウイルス事態が引き金となり、世界恐慌が引き起こされれば、その復興・克服のためには第2次世界大戦の戦費をはるかに上回る規模の財政投入が必要となろう。

新型コロナ禍後の世界秩序

 次に、第2次世界大戦終了後の世界の変わりようをヒントに、前述の第3次世界大戦の特徴を手がかりにして、以下大胆に新型コロナウイルス事態終了後の世界秩序の変化について考えてみたい。

 世界規模で見れば、第2次世界大戦がもたらしたのは、次の5点である。

 いずれも、ヘラクレイトスの「万物は流転する」の言葉の通りで、次なる変化への「一里塚」に過ぎない。

1.連合国側の完全な勝利と枢軸国家(ファシズム国家)の敗北:次の新たな合従連衡。

2.米ソ二大国の強大化と、東西冷戦の開始:ソ連崩壊と冷戦構造崩壊に終わる。

3.中国などのアジア諸民族の自立:米中覇権争いへの萌芽。

4.核兵器の登場:今日の核ミサイル世界の出現と拡散。

5.国際連合の発足:米・英・仏と中・ロ(ソ)の対立で国際連盟と同様に期待外れ。

 新型ウイルス事態終了後の世界秩序の変化(シナリオ)について、大胆に考えてみたい。

シナリオ1:米国の凋落
中国による世界覇権の奪取・確立

 新型コロナウイルスのダメージで米国が凋落した場合は、第2次世界大戦で、英国がパクス・ブリタニカの覇権の座から降りたように、パクス・アメリカーナの覇権の座を降りる可能性がある。

 そうなれば、②で述べるように、中国がこれに代わって覇権の座(パクス・シニカ「中国による平和」)に就く可能性がある。

 この場合、世界秩序はまさに「ガラガラポン」の状態で、大きな変化を遂げるだろう。

 中国は台湾と香港を完全に併合するであろう。朝鮮半島においては、北朝鮮と韓国を中国が併合するかもしれない。併合しない場合は、北朝鮮による韓国統一をなさしめるだろう。

 日本にとってこの事態は大激震と呼ばれるほどのショックで、日米安保条約が破棄され、いわゆる戦後レジームは完全に解消され、米国から“独立”することになる。

 日本は、中国との共存を余儀なくされ、場合によっては日米安保条約に相当する条約を締結し、在日中国軍の受け入れを迫られるかもしれない。

シナリオ2:
中国共産党政権崩壊と分裂国家誕生

 上記の①とは真逆に、中国が没落し、中国共産党政権が崩壊し複数の国家に分裂するというシナリオだ。

 この場合、米国の天下であるパクス・アメリカーナは永続することになる。

 日本、台湾、ベトナムなどの国々は、中国の脅威から解放される。中国の後ろ盾で命を繋いできた金王朝が崩壊し、韓国に統一されるのは時間の問題だろう。香港やマカオも中国のくびきから脱することができる。

シナリオ3:
アジア中心の世界秩序の形成

 新型コロナウイルスとの「主戦場」になっている米国、中国、欧州のすべてが凋落し、日本、インド、台湾などのアジア諸国が勃興し、米国と中国抜きのアジア中心の世界秩序が形成される。

シナリオ4:
欧州の没落とロシアの台頭

 欧州が没落しEUが破綻すれば、ロシアによる欧州と中東への浸食が始まるだろう。

 その場合は中国との利害が折り合う間は、中ロ共同作戦が行われるであろう。この場合、NATO(北大西洋条約機構)は崩壊する。

 また、EUが破綻すれば欧州の安定は損なわれ、第1次大戦・第2次世界大戦時と同様に、欧州から紛争が発生するかもしれない。

シナリオ5:国際連合の大改革・廃止
もしくは新たな国際機構の設立

 新型コロナウイルス事態で、国際紛争よりも蓋然性の高いパンデミック自然災害対処への必要性を理解した世界各国は、国際連合の大改革・廃止もしくは新たな国際機構の設立を考えるだろう。

 国際連合の大改革を行う場合は、国際連合を機能不全にしてきた戦勝国支配体制とそれらの国による安全保障理事会における拒否権の廃止が必須の条件だろう。

 既存の国際連合の改革を行うよりも、新たな国際機構の設立というオプションもある。

 どちらにしても、世界各国は国連もしくは新たな国際組織が、パンデミック自然災害対処を即応性をもって十分に行えるようにその機構・機能を強化する必要がある。

 そのためには、国連軍に相当する常設の①医療・災害対処機構・部隊の常設、②パンデミック対処のためのワクチン・薬剤の研究開発機関の設立、③そのための財源の確保などが不可欠だろう。

むすび

 米国のコロナ炎上で、日本は庇護国を失い、孤立無援となった。この事態をどう受け止めるべきか。

 筆者は、政府・政治家・官僚の体たらくには失望を禁じ得ないものの、「日本はようやく“独立独歩”でコロナ戦争ができる。めでたし、めでたし。日本国民ならコロナ戦争に勝てる!」と、少々強がりかもしれないが、そう思っている。

 米国抜きのコロナ戦争を通じ、戦後のマッカーサー統治以来失った「自分自身・家族・社会・国は自分で守る」という気概を国民が取り戻す好機になることを期待したい。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  韓国総選挙、文在寅氏勝利で始まる凋落への道

[関連記事]

パンデミックが頻発し始めたのはなぜか

4週連続ミサイル発射、北朝鮮の意図

米空母セオドア・ルーズベルト(米海軍のホームページより)