2020年4月7日サムスン電子は2020年1~3月期の決算(暫定値)を発表した。

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 注目の営業利益は事前予想を上回る6兆4000億ウォン(1円=11ウォン)だった。

 新型コロナウイルスの流行で韓国株が急落する中、個人投資家は大挙して同社株を買い支えた。株価も上昇に転じたが、4~6月期見通しには暗雲も漂い、個人投資家の動向に注目が集まっている。

売り時はいつか?

「売り時だったのか」

 4月7日午前、ソウル市内のコーヒーショップで会った30代の会社員は、午前9時にすぎに発表になったサムスン電子の決算内容を伝えるニュースをスマホで確認しながらこう自問した。

 同氏も、韓国で盛り上がった「個人株主運動」に乗じて3月半ばに初めて株式投資をした。

 投資額は明かさなかったが、1株4万5000ウォン前後で「数百万ウォン単位」で投資をした。

サムスン電子の株はとても手が出ないと思っていた。年明けには6万ウォンを超えていたが、コロナショックで4万ウォン台前半に下がり、今だと思った」

 韓国メディアは品不足が深刻だったマスク騒動を引き合いに「マスク30枚でサムスン電子株が買えるならと参入した投資家も多い」などとも報じた。

 サムスン電子の株価は、1月20日の6万2800ウォンから3月19日には4万2300ウォンに急落した。2万ウォンも下がった。

 多くの国民が1枚1500ウォンのマスクを入手するのに苦労しており、急に値ごろ感が出てきたのだ。

史上最大の買い越し

 韓国の証券市場は3月に、売りに出た外国人投資家とこれに対抗した個人投資家との間で「大決戦」が繰り広げられた。

 韓国では、個人投資家のことを「ケミ(蟻)」というが、蟻の反逆が市場の最大の話題だった。

 3月1か月で「蟻投資家」は、11兆4901億ウォンを買い越した。10兆ウォン超える個人の買い越しは史上初めてだった。

 外国人投資家や機関投資家の「売り」と個人投資家の「買い」が真っ向から競い合い、1日に平均の売買高も18兆5000億ウォンで過去最大だった。

「蟻」は多様だ。先に紹介した30代の会社員のように、自分の余裕資金で買った場合もあれば、「人生逆転」を夢見て、大勝負に出た個人も少なくない。

 さらに、各種規制強化で不動産投資のうまみがなくなったことを見越して不動産を処分して証券市場に参入した「土地蟻」もいるという。

 筆者の周辺にも、本当に「株」に投資した人たちが多い。大手証券会社では3月に、10万単位で新規口座が増えたという。

 1997年のIMF(国際通貨基金)危機の時も、2008年のリーマンショックの時も優良株は急落した後で急騰した。

「10年に1度のチャンス」を逃すまいという熱気と、新型コロナウイルスの流行で株価が急落し、外国人が売りに出たことで「韓国の代表企業を助けろ」との「愛国運動」が重なったのだ。

 在宅勤務の急拡散で、自宅でせっせと株式投資に励んだ会社員も多かったようだ。

5割はサムスン電子に集中

 こうした個人投資家が殺到したのが、サムスン電子だ。

 韓国メディアによると、3月に個人投資家の買い越し額の50%が同社株に集中したという。

「とにかく、サムスン電子を買えば安心」という心理が働き、異常なほどの集中になった。

 決算発表の前日の4月6日、証券市場で「異常」が起きた。

 これまで買い一本だった個人投資家が、サムスン電子株を売り越したのだ。個人の売り越し額8451億ウォンのうちサムスン電子株が3351億ウォンを占めた。

 さて、どうしてか?

 4月7日の決算発表を前に、証券各社の間で、1~3月期の営業利益見通しを下方修正する動きがあった。

 サムスン電子株は、4月に入っても個人の買い越しが続き、株価は上昇していた。

「早めに売って利益確定を」

 こう考えた個人投資家が、売りに出たとの見方が多い。ただし、韓国紙デスクは、別の見方をする。

「3月に証券市場に入ってきた個人投資家はほとんど素人だ。7日に決算発表があることなど知らない投資家も多い。4月に入ってサムスン電子株が上昇したので、決算発表とは関係なく、売ろうと考えたのかもしれない」

「一方で、外国人投資家や機関投資家が、そろそろ買い時になったとみて動き出した。個人が売って外国人が買うということになったが、一時的な現象ではないか」

 ともあれ、このサムスン電子株。3月19日には4万2300ウォンにまで下落していた。4月6日は一時4万8800ウォンまで上昇していた。

 最安値で買って、最高値で売り抜けていたらわずか3週間足らずの間に15%以上の値上がり益を得た計算にはなる。

 もちろん冷静に利益を確定させた投資家もいたはずだが、ただ、そうはいかないのが株式投資だ。

 多くの投資家は、迷い始めているはずだ。

4~6月期は苦戦?

 今後どうするのか?

 長期保有を決めた株主はよい。そうでない株主が問題だ。

 1~3月期の決算は、半導体事業の善戦が全体の利益を押し上げたという。6兆4000億ウォンという営業利益は、前年同期比で増益だった。引き続き圧倒的な収益力を見せつけた。

 韓国メディアは半導体事業部門で3兆7000億ウォン前後の営業利益を稼いだとみる。

 一方で、スマホや家電事業は、好調とは言えなかったが、新型コロナウイルスの流行の打撃をまださほど受ける前の決算だったとの指摘が多い。

 さて、ではこの先はどうなるのか。

 4月7日、決算発表後のサムスン電子の株価は前日比900ウォン高の4万9600ウォンだった。

 韓国紙デスクは「4~6月期は、全般的に減益が避けられない。今は世界中がコロナ対策に追われているが、経済への影響も、必ず出てくる。欧米が大きなマイナス成長になるのは確実で、影響は小さくないはずだ」という。

サムスン電子株」は暗い話題が多い韓国の経済ニュースの中で数少ない明るい話だった。最初の投資はまずまずだったが、ではこれからどう出るのか?

サムスン電子株価」は、コロナウイルス感染者数の推移とともに、大きな関心事だ。それほど、個人投資熱は高まった。

 万一、サムスン電子の業績が大幅に悪化して株価が急落することにでもなれば、個人投資家にも甚大な影響が出かねない。

 やっぱり韓国は「サムスン頼り」なのだ。

サムスン電子の分期別営業利益(兆ウォン

2019年1月~3月    6.2
   4月~6月    6.6
   7月~9月    7.7
  10月~12月    7.1
2020年1月~3月    6.4

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