前途は極めて暗い。新型コロナウイルスの感染拡大により、日本政府が緊急事態宣言を発令。自粛要請によって多くの業種が対応に追われる中、日本の人気プロスポーツの筆頭と言えるプロ野球も厳しい局面に立たされている。

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 約1カ月遅れで目指すとされていた4月24日の開幕も見送られ、白紙に差し戻された。NPB日本野球機構)の幹部が10日に行われたセ・パ12球団代表者会議の終了直後に念を押しながら強く否定していたものの、これは事実上の無期限延期に他ならない。おそらく世間に危機的な状況であることを印象付けたくない一心から釘を刺しておきたかったのだろう。

「ウイルスとは長期戦」、ならば開幕は極めて困難

 4月末から5月上旬の間で新たな開幕日を決める方針を固めているとはいえ、これまでも二転三転し続けている話し合いの場を振り返ってみても結論が出る可能性はかなり低い。もっとも日本における新型コロナウイルスの蔓延状況を見れば、今後数カ月以内にスタンドに客を集めてプロ野球の試合を行うなど夢物語であることは多くの球界関係者が薄々気付き始めている。

 メディアによっては、早ければ「6月中の開幕」という机上のプランがあたかも現実路線であるかのように報じられているが、実際のところはそこまで固まっているようなレベルの話ではない。球界全体の意見として世論を同調させたいとする一部の球団経営陣が自分たちにとって都合のいいネタをメディアに小出しにしながらリークし、情報操作しているだけのことだ。事実、球界内からは「思い切って取りやめにすべき」「野球をやっている場合ではない」などと今季中止を訴える声は増えつつあって今や無視できない状況となっている。

 奇跡的にウイルスの猛威が衰えて沈静化し、5月6日まで効力を持つ緊急事態宣言が1カ月を待たずして解除となれば、もしかすると開幕の目も多少は出てくるかもしれない。だが、それは誰もが願うこととはいえ、残念ながら希望的観測に過ぎないだろう。世界のリーダーたち、そしてウイルス研究の権威として認知される有識者が「長期戦を覚悟しなければいけない」と口を揃えている以上、その現実を受け入れなければいけない。正直に言うが、プロ野球の今季開幕は普通に考えれば「絶望的」と言わざるを得ないのが現状だ。

 それでも仮にNPBや12球団がコロナ禍にあえぐ世の中のすう勢に目をつぶり、都合のいい御託並べて6月開幕を強行したとしても「壁」が立ちはだかる。試合開催にあたって密閉、密集、密接の「3密」を回避させなければいけない点だ。

観客、選手とも「3密」になりやすい環境

 セ・リーグ球団の営業担当者は頭を抱え込みながら、次のように切実な難題を口にしている。

「いわゆる『3密』を厳守しながら、観客を入れて試合を開催するなんてことは現状から考えてまず不可能。たとえば飛沫感染を防ぐため客と客との間を2メートル間隔にすることを徹底したら、入場料収入はとんでもない額のダウンを強いられる。

 感染リスクがあるため応援もできず、もちろんメガホンを使っての声援なんて絶対にNG。空調設備はしっかりしているといっても、国内に数多くあるドーム球場の密閉空間で試合も行わなければいけない。そんなリスクもある中、制限ばかりかけられたスタンドに一体、誰が応援に来ると思いますか。よっぽど酔狂な人を除いて多くの来場者など望めるわけがないですよ。

 もし奇跡的に6月開幕を強行できたとしても、こういう『3密』の条件をクリアにしなければ試合開催にあたって政府や行政、そして世間の許しは得られません」

 それだけではない。実はプロ野球界において集客の面で最大の懸念材料とされているのは、人々に感染への警戒心が半永久的に植え付けられたままになることだ。

 近年では例を見ないレベルのパンデミックとなり、新型コロナウイルスに対する知識は多くの人たちが今や知るところになった。そう考えれば新型コロナウイルスが世界から撲滅しない限り、まず人々の不安は完全に取り除けないだろう。球界内でも有識者たちから「プロ野球の試合をスタンドで応援すること自体に多くの人たちが感染リスクを覚えるはずだから、まず間違いなく今後の来場者数は激減する」との警鐘が鳴らされており、各球団の経営陣たちを不安に陥れている。

 だったら、とりあえず無観客試合で開幕させればいいのではないかという議論も各球団の間で行われ始めているようだ。入場料収入こそ懐には入れられないが、テレビ中継による放映権料で少しでも実入りを得たい考えから検討材料とされているという。しかしながら、たとえそこまで“譲歩”したとしてもプロ野球の試合開催には高いハードルがあることを忘れてはいけない。

感染ルートになりかねない「ボール」

 そもそもプロ野球ではチームがビジターの試合で遠征する時、集団で公共交通機関を使って移動することになる。全員が同じ宿舎に泊まるのも基本だ。球場では戦略の一環として3密すべてに引っかかりそうなチームミーティングも行わなければならない。やや密閉気味の狭いベンチには多くの選手たちがぎっしりと集まる。どう考えても最大25人のベンチ入りメンバーがそれぞれ2メートルの間隔を常に空け続けるなんてことは不可能だ。

 これに加え、パ・リーグ球団の主力選手は切実な心配要素として「あまりクローズアップされていないが、実は球団側や選手たちの間で一番ヤバいとささやかれているのがボール」と打ち明け、こう続けている。

「試合ではプレーしながら多くの選手たちが同じボールを共用しなければいけない。ワンプレーごとにボールをいちいち消毒するわけにもいかないし、いちいち選手たちがベンチに戻るごとに手を洗ったり、消毒したりすることも試合時間の大幅なロスにつながってしまうから難しいと思います。誰かがウイルスを保菌していたら大変なことになりますよ。リスクも大きいはずだから、とても不安です。

 そういう怖さを感じながら全力のプレーなんてできる自信は正直ないですよ。そういう100%ではないパフォーマンスをファンの人たちに見てもらうことも間違っていると思います。自分ら選手たちがここまでピリピリしているのは、阪神から複数の感染者が出たことも大きな理由としてあることを強調しておきたいですね」

 阪神タイガース藤浪晋太郎投手、伊藤隼太外野手、長坂拳弥捕手が新型コロナウイルスに感染して入院。現在は3選手いずれも退院したものの、このご時世に大人数で女性を交えて行われた「合コン」への参加が感染につながったことで今も批判の矢面に立たされている。あらためて彼らの軽率な行動によってプロ野球界全体が大きな不安に包まれ、世間のイメージダウンも招いてしまったことは罪として非常に重いと言わざるを得ない。

 いずれにせよ、プロ野球は「今季中止」という選択肢も視野に入れ、大きな決断を迫られる時が近づいている。

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