代替テキスト

《羽田新ルート、本当にうるさい。家にいなくちゃいけない、換気しなくちゃいけないなのに、窓を開けるとうるさい。今飛行機減便しているところだろうに、なぜわざわざこのルートで飛ばすのか》
《家で大人しく自粛してるけどなかなかにうるさくて、気が狂いそう。窓は開けられないし、どこにも行けない。まじでしんどいです。飛行機飛んでない時も耳鳴りがする》

3月29日に運用が始まった羽田空港の新ルート。年間の約4割を占める南風時に、新宿、渋谷、品川、大井町などの東京都心や、川崎市臨海部などの上空を、旅客機が低空飛行することになった。新型コロナウイルスのために自宅に閉じこもっている新ルート下の住民は、ツイッター上で冒頭のような悲鳴をあげている。

特に、羽田空港に近い川崎区殿町地区における騒音の最大値は94デシベル。これはカラオケ店の店内なみで、会話もほとんど成り立たないレベルだという。品川でも最大80デシベルを記録。パチンコの店内なみで、間近で大声を出さない限り、会話ができない騒音だ。

多くの国民に負担を強いて始まった羽田新ルート。“国際便”の増便を目的に、1日3時間程度、毎時最大44回飛ばす予定だったが、じつは現在の飛行頻度はその半分程度に過ぎない。

3月29日から4月4日までの1週間で、前年同月と比べまして、国際旅客便は、羽田空港マイナス81%、成田空港マイナス88%でございます」

4月6日の決算行政監視委員会で、無所属の松原仁衆議院議員の質問に対してこう答えたのは、国土交通省の和田浩一航空局長だ。じつは新型コロナウイルスによる外国人観光客の激減で、国際便の発着も昨年の2割程度まで減少しているのだ。

これには、和田航空局長も「発着容量のみの観点からは、従来より使用されてきた飛行経路で受け入れ可能」と、新ルートが“不急不要”だと認めざるを得なかった。それでは、どんな理由で飛行機を低空飛行させているかというと……。

「来年の(訪日観光客)4,000万人目標に向かって、海外と地方をつなぐ空の玄関口、羽田、成田空港の発着枠を8万回増やします」

昨年1月28日、施政方針演説で安倍晋三首相(65)はこう宣言した。“東京五輪が行われる2020年外国人観光客4,000万人を実現する”というのが、安倍首相が掲げてきた「観光立国」の大きな柱だった。しかし、新型コロナ危機で“4,000万人”の夢が実質的についえた今、目標のための“方針”のみが残された。

まったく必要のなくなった新ルート。「新型コロナウイルスの影響が終息した後の、速やかな増便の実現でありますとか、首都圏における騒音共有の観点等も踏まえ、新しい飛行経路も運用を続けたい」と、和田航空局長は説明するが、終息するのがいつになるのか、誰にも見通しが立っていない。そもそも、「観光立国」のために、国民は多くの犠牲を払わされてきたと語るのは、全国紙政治部記者だ。

「安倍政権が掲げてきたインフレ目標はとん挫し、上昇しているとされてきた賃金についても統計の不正が明らかになるなか、順調に数字を積み上げてきたのが訪日外国人数でした。安倍政権が始まった2012年には約836万人だった訪日外国人は、2019年には約3,188万人になりました。安倍政権の経済政策で、数少ない成功例なんです」

しかし、このことが新型コロナウイルス下での安倍首相の判断を遅らせたのではないか、と指摘する声もある。訪日外国人の約3割は中国からだ。

「まさに中国で新型コロナウイルスの感染が爆発的に広がっていた1月24日安倍首相は中華圏の旧正月である春節を祝うメッセージホームページ上で発表。『春節に際して、そしてまた、オリンピックパラリンピック等の機会を通じて、更に多くの中国の皆様が訪日されることを楽しみにしています』と、さらなる中国からの観光客を呼び込む内容でした。各国が中国からの入国制限に踏み切るなか、日本政府が入国制限を開始したのは2月1日になってから。それも、武漢市のある湖北省に限ったものです。遅きに失したと言わざるを得ません」(前出・政治部記者)

「観光立国」の夢が首相の判断を鈍らせたのか……。そもそも、この観光立国にもカラクリがあると指摘するのは、経済誌記者だ。

「世界経済の成長に伴い、各国の賃金も上がり続けてきました。特に、アジアの成長はすさまじく、中国はこの10年で最低賃金が倍以上になっている。一方、日本は世界経済の成長に取り残され、賃金はいっこうに上昇していません。つまり、相対的に日本は旅行しやすい“安い国”になったことで、外国人観光客が急増したのです。一方、日本人の国内旅行者はこの10年で、5%以上減少しています」

かつて日本経済をけん引してきたのは強い内需だった。訪日外国人によるインバウンド消費は年々増え続けているとはいえ、日本の名目GDPに占める割合は2018年で0.8%程度。日本経済をけん引するほどの役割は果たしてはいない。

「安倍政権下で行われた2度の消費増税などで国内消費が伸び悩むなか、観光業や小売業などの外国人観光客依存は高まり、今回の新型コロナ禍で廃業・倒産が相次いでいます」(前出・経済誌記者)

緊急事態宣言」の発令にともなう、さらなる自粛の徹底で、多くの国民が苦境に立たされているが、政府による補償は限定的なものに留まっている。貧乏になった国民の頭上を空っぽの飛行機が飛ぶ。これが「観光立国」のなれの果てだとしたら、国民は救われない。