2020年4月10日HSBC投信は「全土封鎖で新型コロナ感染拡大防止に取り組むインド」と題するレポートを伝えた。

 (レポート)『世界中で新型コロナウイルスの感染が急拡大するなか、巨大な人口、密集都市地域、非組織労働力を抱え、公的医療が不十分なインドは、今後数週間、あるいは数ヶ月間、厳しい情勢下に置かれると懸念される。

 インドで確認された感染者数は4月3日現在、2500人以下、死者数は72人となっている。感染例の大多数は国外から持ち込まれ、その他は海外渡航歴がある人との濃厚接触で発生したものであり、これまでのところ市中感染が拡大している証拠はないと言われている。しかし、感染判定検査の数が限られているため、公表されている患者数、死者数はいずれも大幅に過小報告されている可能性があり、感染者数は今後大幅に増加するとの見方もある。

 感染防止策を強化するも、効果は不透明

 インド政府は、諸外国の政府や主要中央銀行が導入した対策を参考にして、国民を新型コロナウイルス感染症から守るとともに、感染防止策の経済への影響を和らげるために様々な対策を打ち出している。当局が感染防止策を次々と講じ始めたのは2月初めで、感染者数が増えはじめた3月上旬には行動抑制策が強化された。さらに3月22日から4月11日までの期間は、すべての国際民間旅客航空便の国内への着陸を禁止した。また、3月24日夜にはモディ首相がテレビ演説で、3月25日から21日間の全土封鎖を突然表明した。インドの総人口を考えると、世界最大規模の外出禁止措置であることは言うまでもない。

 強化された対策

 現在、世界人口の相当数が何らかの形のロックダウン(都市封鎖)の影響を受けているが、モディ政権が発令した封鎖の規模は並外れており、それに伴う経済的コストも膨大だ。それでも政府は、市中感染の拡大を抑え、大規模な公衆衛生の危機を回避するためには全土封鎖が不可欠と判断した。

 全土封鎖により食料品店、薬局、倉庫、通信、電力、銀行、証券取引所を除き、国内経済の大部分は3週間の停止を余儀なくされている。2016年に高額紙幣が廃止された際でも経済活動が止まることはなかった。

 全土封鎖の開始直後、最も打撃を受ける分野や社会的弱者を支援するための総額230億米ドル(国内総生産の0.9%)相当の緊急経済対策が発表された。対策には8億人を対象とする3ヶ月間の食料配給(米または麦)、2億人の女性、5000万人の地方の非農業部門労働者、8700万人の農業従事者、3000万人の高齢者への現金支給(銀行口座への払い込み)、中小企業従業員のうち800万人の低賃金労働者について、退職基金掛金について3ヶ月分を肩代わりすることで雇用を維持することなどが含まれている。予想される国内景気の落ち込みを考えると、こうした弱者支援策だけでは不十分のように見えるが、政府は特定の産業向けの緊急支援対策を適宜打ち出す方針を約束している。

 インド準備銀行(RBI:中央銀行)は全土封鎖開始から2日後の3月27日に政策金利を0.75%引き下げた。この緊急利下げの幅は市場予想を上回る格好となった。RBIは同時に、銀行部門への大規模な流動性の供給、その他の景気下支え策も発表した。これらの緊急対策によって、銀行部門での流動性の需給バランス、金融政策の波及効果、実体経済への資金の流れの改善への期待が高まっている。RBIの金融緩和策は、借り手の救済策としても有効で、存続の可能性がある企業の事業継続を確かなものとするとともに、資金調達やクレジット市場におけるリスクの軽減にもつながると期待されている。RBIは、金融政策目標の達成に必要であれば伝統的および非伝統的な金融政策をさらに打ち出す用意があることも表明した。

 効果は不透明

 マクロ経済面では、世界の他の諸国同様に、インドも今後は成長減速に直せざるを得ない。政府の財政基盤は弱いが、財政出動の規模の大小によって経済の先行き見通しが大きく違ってくることは言をまたない。

 全土封鎖が続くなか、「不要不急」の消費、特にサービス関連消費(とりわけ低所得世帯の消費)が、最も大きな打撃を受ける可能性が高い。国内全体の家計消費支出に占めるサービス支出の割合はこれまでは上昇傾向にあり、コロナ危機に見舞われる直前には総消費支出の50%、国内総生産(GDP)の30%を占めていた。今後は感染拡大による失業や家計の減収を受けて家計の消費マインドが急激に悪化することが予想される。インドの労働市場では「非組織労働者」と呼ばれる、労働法や社会保障制度の適用対象外である「インフォーマル・セクター」で「自営業者」または「日雇い労働者」として働く人たちが圧倒的な割合を占めるが、インドでは全土封鎖が彼らに及ぼす極めて深刻な影響への懸念が高まっている。

 パンデミック(世界的大流行)で起きたサプライチェーンの分断による影響はインドでも顕著だ。さらに、世界的なリセッションリスクが増すなかでの需要の大幅減が懸念される。コロナ危機によって悪化した金融市場環境の二次的な影響も心配である。原油価格の急落(今回の状況ではインドにとっては異例のポジティブな要因)、政府の緊急対策、さらにインドの場合、世界のバリューチェーンへの統合が限定的である事実などいくつかのプラス要因はあるものの、全体として見れば、多大な経済的損失が予想される。』

図表1