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【前回レビュー】「エール」8話/柴咲コウが歌った「私のお父さん」が暗示するものとは……幸せな音の家族には不穏な影が

連続テレビ小説エール」 
NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時
◯土曜は一週間振り返り

第2週「運命のかぐや姫」9回〈4月9日 (木) 放送 演出・吉田照幸 松園武大〉

お父さんが亡くなられた」
突然も突然な父・安隆(光石研)の訃報。
学芸会の出し物「竹取物語」の稽古中、連絡を受けた熊谷先生(宇野祥平)が教室に戻って来て、音(清水香帆)に伝える。みんなが聞いている前で。教室中に聞かせることもなくないかと思うが、いずれみんな知るのである。

昔、学生の頃、授業中に生徒が呼び出されて出ていくと教室は何事かとざわついて、事情を知ると同情心で教室中がいっぱいになるということはよくあった。
遅かれ早かれ家に不幸のあった子供はしばしみんなの注目を浴びることになる。
肉親の死というのはそれに対する哀しみや苦悩のほかに、周囲の視線にどう対処するかという苦悩が厄介なのである。

お父さん……光石研があまりにも善人に描かれていたのは、この展開のためだったのだろう。キリスト教の教えによるものか、慈愛に満ちて、道徳心に溢れていた。
お母さん・光子(薬師丸ひろ子)とのダンス(8話)など、父との時間がこのうえもなく煌めいて描かれていたから、ふいに亡くなったと言われると、がっくりなる。

川俣の教会で音(清水香帆)がコーラスに参加するとき、父の手をとった音に、「ひとりで行きなさい」と手を離す場面(7話)も、父が娘をひとり立ちさせようとしているような気もしてしまうではないか。

それにしても、光石研。NHK出版のドラマガイドでも2ページ使って紹介されていたのに、もう退場なんて、残念過ぎる。

平田満に迫られる薬師丸ひろ子
お父さんは出張中、子供をかばって電車にはねられたのだという。
ちなみに双浦環(柴咲コウ)が歌っていたアリア「私のお父さん」をつくったプッチーニ自動車事故で亡くなりはしなかったが、大怪我をしたことがある。「私のお父さん」というタイトルが、音の父の死と重なって染みてくる。

あまりに突然で父の死が信じられない関内一家。何かと思い出してはしんみりなる。
父の希望で、海に散骨する光子。
ただただ波の音がする中で、静かに祈る光子と三姉妹


日々の暮らしのなか、お父さんの面影が浮かんで来て、見知らぬ子供を助けた父は、自分たちよりよその子供が大事だったのかという理不尽な思いにかられる音に、母は「(お父さんは)いる。目には見えないけれど、ずっとあなたたちのそばにいる」と「ゲゲゲの女房」みたいなことを言う。

光子は夫の仕事を引き継ぐ決意で、打越金助(平田満)にお願いに行くが、「女子供」には難しいと、契約を見直さないといけないと言い寄って来る。
平田満は善人も似合うが、生臭いおじさんも似合う。語尾の「〜〜だに」のねっとりした言い方といい、といかにもなひひ爺っぷりがむしろ清々しい(「だに」という方言の問題ではなく、言い方の問題ですので。念のため)

「女子供にはわからん」
哀しみのなかで音は学芸会の練習に励む。衣裳のクオリティーの高さを「あさイチ」の大吉が指摘していたが、時代劇を多く手掛けるNHK。衣裳がたやすく手に入るのであろう。

それはともかく相変わらず主役の神埼良子(田中里念)はやる気がない。月に帰る気持ちがわからない。「私なら帝と結婚します」という意見もごもっともな気もしないではないが、先生も生徒もそれを受け止める度量はない。というか、良子のそれは単なる屁理屈だろうし。

「親戚中が見にくる」ことにプレッシャーを感じている良子に「観に来てもらえるだけいいじゃない」と父を亡くした哀しみがこみあげてしまう。

光子は取引先を訪ねるが、みんな冷たい。職人さんも辞めてしまう。頼りになりそうだった職人頭の岩城(吉原光夫)も「女子供にはわからん」「職人は仕事がなきゃ食ってけねえ」と去ってしまい、落胆する音。
「女子供」という言葉が大嫌いと紹介されていた音が、「女子供」だけになってしまい、本当に「女子供」だけでは成り立たないのか試されている。


素敵な父の早逝。女手ひとりで娘三人を守るために働くため、いけすかないおっさんに身を預けないといけなくなりそう……という流れはまんま「とと姉ちゃん」。
「うち大丈夫?」と心配する音に、「かなり…まず…い?」と、にかっと笑う光子でつづくという流れは、「とと姉ちゃん」のヒロイン常子(高畑充希)がお尻を桃に見立てるギャグで暗くなったお茶の間の雰囲気を明るくしようとしたエピソードに近いように思うのと同時に、悲しい展開をできるだけ避けようとする配慮がすっかり朝ドラに定着したことを感じるのであった。

みんなのいる前でお父さんが亡くなったと伝えられたり親戚に見に来てもらえるだけいいじゃないかと主人公の哀しみを強調したりと悲劇を強調しつつ、母親は状況を自覚しつつも無理して笑う。
近年の朝ドラは、悲劇をどう描くか模索し、それぞれの作品が悲劇の描き方によって人間を深く見つめている印象があった。それを「エール」がどう考えているか、判断するのはまだ早急である。しばし見守っていたい。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)

【前回レビュー】「エール」8話/柴咲コウが歌った「私のお父さん」が暗示するものとは……幸せな音の家族には不穏な影が

原作:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌GReeeeN「星影のエール

制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和
イラスト/おうか