日本には様々な建物があれど、「なぜか小屋を偏愛してしまう」というカメラマン・遠藤宏さん。旅先で「妙に引き寄せられてしまった」という小屋との出会いをレポートしてくれました。
もはや人面小屋!? 泣きべそ顔とお年寄りの姿をした小屋に出会う想像のはるか斜め上をいくガテン系な小屋を探して
私は畑や田んぼ、漁港などに佇む小屋に魅せられて日本各地を訪ねている小屋好きカメラマンです。
小屋といっても農家や漁師が物をしまったり作業したりするするためのもので、言ってみればガテン系。飾り気やおしゃれとは一切無縁のぶっきらぼうなものばかりです。
でも、格好なんて気にしないからこそでしょうか、私の想像のはるか斜め上をいくような小屋がたくさんあります。
かわいかったり、かっこよかったり、威厳があったりと、思わず写真に撮りたくなる、そんな小屋との出会いを期待しながら、今日も車を走らせています。それはまるで獲物を探してさすらうハンターと似ています。
小屋ハンター、ちょっとカッコいいぞ。うん。いやすみません、調子に乗り過ぎました。今日も地味に小屋の妄想を広げていきましょうか。
歯磨きをサボった?家族とはぐれた?泣きべそ顔
出会った瞬間に人間の顔にしか見えない小屋に遭遇することが稀にあります。この小屋もそのひとつ。
どうしたらこんな風になるのかわかりませんが、泣きべそ顔にしか見えません。
大好きなお菓子を食べて歯磨きをサボった子どものよう。「ううー、お母さん。歯が痛いよー」状態。
「なによ、虫歯!? あらあら、歯を磨かないからよ! 歯医者さん行くわよ」
「イヤだー、あの先生、怖い〜。削られるの痛い。うえーん」
「なに言ってんの! 自業自得じゃない。連れてったら『お母さん、
そんな会話が、お母さん(お母さんも小屋です)
転がっているドラム缶はチョコレート !? いくら何でもこりゃ、食べ過ぎです。お母さん、即刻歯医者さんへ行った方がよさそうですね。
いやそれとも…違う妄想が広がります。
この泣き顔は迷子になった子どもなのかもしれません。お出掛け先で家族とはぐれてなんとも心細そうで、うるうるの涙目です。
心の中は不安でいっぱい。ちょっとでもタガを緩めてしまったらドッと涙が出て泣いてしまいそうなのを、なんとかこらえている。
そんな風にも見えてきます。
どちらにしても、泣くな泣くなと慰めてあげたくなる、胸キュン顔です。
老小屋!?と呼びたくなる。お歳を召した小屋
さて、こちらは随分とお歳を召した小屋です。
前かがみになって休憩中でしょうか。いや、疲れてうたた寝をしているのかもしれません。
私にはどことなくヘミングウェイの「老人と海」に登場する老漁師を彷彿とさせます。
漁師は簡素な小屋に住んでいます。ベッドはスプリングの上に新聞紙を敷き詰めただけの粗末なもの。老人はそこに横になりながら、若い頃に海上から見た砂浜を歩くアフリカのライオンの夢を見るのです。
私に気付いて、老小屋が目を覚ましました。
起こしてしまい、申し訳ありません。
「いやいや、いいんじゃ。儂(わし)もだいぶ長いこと働いてきて、もう昔みたいには動けない。ゆっくりしていたところだ」
「儂を建てた相棒の爺さんも同じだけ歳をとった。思ったように動けなくなったのはお互い様でな。農作業の合間、この手作りのベンチに座って、儂に寄りかかって一息つくのが、昔も今も爺さんにも儂にも幸せな時間なんじゃ。最近は作業をしている時間と座っている時間が同じじゃないかというて笑いあったわ」
「雪が溶けたら春がやってくる。暖かくなれば土から湯気が立ち、緑に覆われる。このあたりの風景は美しいぞ。また来なさい。その時にはこのベンチに座って景色を眺めていきなさい」
「さて、儂はもうひと休みだ。春になったら、また精一杯働かなきゃいかんからね」
そういうと、また目を閉じてゆっくりと寝息を立て始めました。一体どんな夢を見ているのでしょう。
もしこの小屋の声を聞けるのなら、生い立ちや過ごしてきた時間、眺めてきた目の前の景色の話を聞いてみたい。そんな風な妄想を抱いてしまう顔立ちの小屋です。
車を運転していると突然目の前にこんな小屋が現れてくれます。小屋探しは止められそうもありません。
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