恐れていた「1918年スペイン風邪」再来

 恐れていた事態がついにペンタゴン(米国防省)を襲った。

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 原子力空母「セオドア・ルーズベルト」の乗組員416人が新型コロナウイルス(以下新型ウイルス)に感染していること(https://abcnews.go.com/Politics/10-percent-carriers-crew-4800-coronavirus/story?id=70066250)が判明したのだ。

 そのうちの一人はグアムの隔離医療施設の集中治療室(ICU)に入っている。

 米国防省OBの一人は電話口で筆者にこう吐き捨ているように言う。

「1918年の時の同じような悪夢が21世紀の米軍で起こり始めている」

「最大の理由は、ドナルド・トランプ大統領が米国民に半ば強制的に命じている『3C's』*1回避が絶対に守れないのが軍隊だからだ」

「1918年のスペインインフルエンザスペイン風邪)が米本土に最初に上陸したのはカンザス州の米陸軍基地だった」

(参照:https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60073

「そこから感染者の米兵が国内国外に移動したことでウイルスは米本土、欧州に拡散した。軍隊は密閉、密集、密接を地で行くような集団だ」

「特に何千人もの兵隊が24時間、隔離された空母で勤務するとなれば、ウイルスにとってはもってこいの感染拡散スペースになる」

*1=日本で言う「3つの密」は米国では3C's(Closed space where crowds meet and in close proximity)

太平洋「常駐」空母4隻に感染者

 すでに米空母11隻のうち、まず「セオドア・ルーズベルト」で新型ウイルス感染が拡大して制御不能になったのは前述の通りだ。

 この状況を「直訴」したブレットクロージャー艦長(海軍大佐)が「機密漏洩」容疑で解任され、グアムでの講演でこの艦長を「バカ呼ばわり」したことで批判を浴び、トーマス・モドリ―海軍長官代行が辞任に追い込まれた。

 辞任とはいうが事実上の解任だ。

 海軍長官代行解任の本当の理由は「バカ呼ばわり」というよりも、講演のためにわざわざ首都ワシントンからグアムまで超高級ビジネスジェット機(ガルフストリーム)を飛ばしたことのようだ。

 新型ウイルス禍のさなか、国民の血税、24万3000ドルを使ったのだ。

 「組織内の命令系統こそが第一」の軍隊で、江戸時代の佐倉惣五郎ではないが、「お恐れながら」と直訴すること自体、軍隊ではご法度だ。

 艦長の行動には大いに問題がありそうだが、海軍長官代行が公開の場でその艦長を「バカ呼ばわり」するのも大人げない。

 以上はニュースにはなるが、枝葉末端の話だ。

乗組員の8.6%が感染

 ペンタゴンが、そして国益を真剣に考える米国のエリートたちが最も恐れているのは、新型ウイルスの脅威がいよいよ米国の軍事力にも及んできたことだ。

 今回の新型ウイルスが中国や北朝鮮の軍隊にどのような影響を及ぼしているか、知る由もない。

独裁者のカーテン」に覆われて真相を明らかにしないのは今に始まったことではない。

 だが米国は曲がりなりにも民主主義国家。第三国に教える前に米国民には「的確な情報」を公開せねばならない(たとえ真実の核心は隠そうともだ)。

 米国防総省当局者によると、「セオドア・ルーズベルト」に次いで原子力空母の「ロナルド・レーガン」、「カール・ビンソン」、「ニミッツ」でも乗組員が新型ウイルスに感染していたことが判明した。

 空母4隻で感染した乗組員の数は4月10日現在、以下の通りだ。

「セオドア・ルーズベルト」(グアムに停泊)乗組員4800人(航空団を含む、以下同じ)、感染者416人

ロナルド・レーガン」(横須賀港に停泊)乗組員4400人、感染者2人

カール・ビンソン」(ワシントン州ピュージェットサウンドで整備中)乗組員6012人、感染者1人

ニミッツ」(ワシントン州ブレマートン海軍基地に停泊)乗組員6012人、感染者1人

 4隻とも太平洋インド洋に展開しており、2017年11月北朝鮮核実験と長距離弾道ミサイル発射を繰り返した際には、「ロナルド・レーガン」、「セオドア・ルーズベルト」、「ニミッツ」の3隻が日本海に集結している。

 米国が北朝鮮に対し、強い軍事力を示威する時、必ずこの原子力空母群が使われてきた。

 それだけではない。空母4隻が太平洋に常駐している最大の理由は、軍事力増強に驀進する中国、そしてロシアに睨みを利かすためでもある。

北朝鮮に対するよりも中長期的に見ると中ロへの睨みを利かせることの方が重要だ)

 ところが、新型ウイルスが猛威を振っているのは、何も米海軍の空母だけではなかった。感染は陸軍、空軍、海兵隊、州兵(National Guard)にも広がっている。

 ミリタリータイムズによれば、4月8日段階で米軍全体で新型ウイルスに感染している兵士は1975人。

https://www.militarytimes.com/news/your-military/2020/04/08/pentagon-reports-nearly-1000-new-troops-with-coronavirus-in-last-five-days/

 感染した兵士の数は以下の通りだ。

海軍  513人(4月10日段階で新たに判明した216人は含まれていない)
陸軍  470人
空軍  351
海兵隊 140

州兵   249
その他*2 252

*2=その他には沿岸警備隊、米公衆衛生局士官部隊など武装組織が含まれているものと思われる。米武装組織は8つある。

 感染兵士1975人に兵士の家族や軍属を入れると、感染者数は3160人になるという。

米太平洋艦隊司令官:
「空母はクルーズ船と違って武装船だ」

 クラスター(集団感染)化した「セオドア・ルーズベルト」では、感染乗組員を停泊中のグアムに下船させ、市内の医療施設に搬送した。

 感染者の1人は重症で集中治療室(ICU)に入れられている。

https://thehill.com/policy/defense/overnights/492110-overnight-defense-sailor-in-ice-navy-expects-more-outbreaks-rocket-attacks-afghanistan

 当初、医療施設がなかなか見つからず、最初は手間取った。さらに感染兵士が増えることを想定してグアムの米軍施設に急遽医療テントなどを設置する計画だ。

 ジョン・アクイリーノ太平洋艦隊司令官は、3月31日、記者団にこう述べている。

「(横浜に停泊した)クルーズ船のように乗客を船内に閉じ込めて検査する手法は危険であることを学んだ。それが感染拡大につながることが分かった」

「従って感染した乗組員をまず外に出し、隔離する。その後、他の乗組員を順次下船させ、検査テストで陰性と判明したものは直ちに乗船さて、任務に復帰させる」

「空母はクルーズ船は違う。空母は武装船だ。航空機その他兵器を乗せている。常時戦闘態勢に入っている」

米軍嘉手納基地でも
欧州帰りのパイロット2人が感染

 米国内、海外に展開している米軍兵士全体でどのくらい新型ウイルスに感染しているのか、基地別の感染者数は公表されていない。

 在日米軍の兵士たちの感染状況について、河野太郎防衛相は4月3日記者会見で、米国防総省が基地別の感染者数などを非公表とする方針を受けて、「日本がそれに反するような発表は差し控えたい」と述べている。

 ところが同基地の第18航空団司令官のジェエル・カーリー准将は3月28日フェイスブックでこう発表している。

「嘉手納基地で米兵に2人目の感染者が出た。この2人は欧州から同基地に戻った空軍飛行士だ」

「現在この2人は基地内の病院の隔離病棟で治療を受けている。感染が基地内に拡大しないように万全の体制をとっている」

https://www.stripes.com/news/pacific/two-okinawa-based-us-airmen-test-positive-for-coronavirus-18th-wing-commander-says-1.624035

 感染者米海軍の空母乗組員だけでなく、陸軍、空軍、海兵隊、州兵からも出てきている。

 こうした状況を踏まえて、米国防総省は3月31日、以下のような抜本的な対応策を明らかにしている。

一、当面、海外に展開している米軍兵士の移動を凍結する。
一、当面、いかなる軍事演習計画もキャンセルする。
一、当面、新兵全員が同じ新兵訓練所に配置することを禁ずる。

https://www.politico.com/news/2020/03/31/navy-aid-sailors-positive-coronavirus-157678

中ロがアラスカ、南シナ海で軍事活動

仮想敵国」である中国とロシアが「張り子のトラ」化する「世界最強の軍隊」の動向を注視しないわけがない。

 ロシアアラスカ周辺の米軍潜水艦の活動を監視する動きに出ている。

 3月9日には長距離海上哨戒・対潜哨戒機「TU-142(ソポレフ142)」2機、また4月8日には「IL-38」哨戒機2機がアラスカの米領空付近に飛来している。

 米空軍の「F-22戦闘機が緊急発進している。同機には空中給油輸送機「KC135ストラトタンカー)」と早期警戒管制機(セントリー)が同行している。

 一方、中国の動きはどうか。

 米国務省のモーガンオータガス報道官は6日、以下のような異例のステートメントを発表している。

「われわれは中国海警局の船が西沙諸島パラセル諸島)周辺海域で乗組員8人を乗せたベトナム船籍の漁船を妨害し、衝突して沈没させたという報道に重大な関心を持っている」

「この事件は、中国が長期にわたり、南シナ海で不法な海洋権益を主張し、東南アジア諸国に不利益を与えている企ての新たな動きである」

「新型ウイルス発生以後、中国は南シナ海の南沙諸島周辺の人工島の軍事施設に新たに『調査ステーション』を建設し、特殊軍用機を着陸させたと発表、また民兵を配備したとも発表している」

「国際社会がパンデミックと戦う中で中国が引き続きこうした動きを支援することに力を注ぎ、外国の混乱や弱みを利用して南シナ海での違法な領有権の主張を強めないように強く求める」

https://www.state.gov/prcs-reported-sinking-of-a-vietnamese-fishing-vessel-in-the-south-china-sea/

 米軍はこれまで「航行の自由作戦」と称して南シナ海での中国の軍事行動を牽制するために駆逐艦などを出動させてきた。

 米軍の海外での移動を停止した米国にとっては、米国務省報道官がステートメントを出す以外、中国に警告する手立てはなくなってしまったかに見える。

 新たな感染者が止まり、発生地とされる武漢の封鎖を解除した(世界はまだ本当に大丈夫かと疑心暗鬼だが)中国が米国の足元を見て、今後露骨な軍事威嚇活動に出る可能性は大だ。

 トランプ大統領はともかくとして、米軍事力マヒが現実味を帯びてきた中で、米政府のエリート外交官や軍人は中ロの動きに神経を尖らしている。

 日米同盟にも大きな影響力が出てきそうだ。それよりも自衛隊内の感染状況はどうなっているのだろうか。

バックナンバー

「米政府高官、コロナ禍でまさかの日本叩き」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60073

「米大統領選を変貌させる新型ウイルスの爆発力」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60011

トランプ大統領、新型ウイルスで中国の軍門に下る」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59972

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  米政府高官、コロナ禍でまさかの日本叩き

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