岸谷五朗、寺脇康文が主宰する演劇ユニット「地球ゴージャス」が、ユニットの25周年祝祭公演として上演する「星の大地に降る涙 THE MUSICAL」。地球ゴージャスの公演は岸谷・寺脇以外の出演キャストを固定せず、その公演ごとに各方面から役者をキャスティングしており、本作もドラマや映画などで著しい活躍を見せている新田真剣佑が舞台初主演を務めたことでも大きな注目を集めた。そんな公演の公開ゲネプロのレポートをお届けする。

取材・文 / 松浦靖恵
撮影 / 青木早霞(PROGRESS-M)

◆今まさに私たちが生きている地球上で起こっていること

ダイワハウスSpecial 地球ゴージャス二十五周年祝祭公演「星の大地に降る涙 THE MUSICAL」は、地球ゴージャスの10作目の作品として上演され、再演を望む声が多かった2009年上演の「星の大地に降る涙」を、作・演出を手がける岸谷五朗が“THE MUSICAL”として脚本を書き直し、岸谷と寺脇康文以外のキャストも新たにした新演出版だ。

静かに寄せては返す波音に包まれた場内に、突然、雷鳴が響きわたる。そして、ひとりの青年が小さな島の浜辺に打ち上げられるところから、この物語は始まる。

その島に暮らすタバラ族のステラ(笹本玲奈)は彼を助け、優しく介抱するが、9日間の眠りから目を覚ましたその青年は記憶をなくしていて、自分がどこの誰かもわからない。そこでステラたちは、タバラ族にとって海の神であるシャチが彼を運んできたことから、彼をシャチ(新田真剣佑)と名づけた。

自分は何者なのか。いったいどこからやってきたのか。自分の身体も心もここに存在しているのに、これまでの自分を構築してきたことのすべてが思い出せないシャチは、何もかもが“白紙”になってしまった状態だ。

だが、シャチという名前をもらい、言葉も習慣も違うタバラ族たちと交流するにつれて、真っ白なキャンバス状態だったシャチに少しずつ色が加えられていく。その変化の様子を見ると、人間はどんな人と出会うのか、どんな扱いを受けるのかによって形成されていく生き物なのだとあらためて思えた。

不安や戸惑いを抱えながらも、純粋無垢な感情で人々と触れ合うシャチ。後半に向かうにつれてシャチが抱えた心情の移り変わっていく様や、少しずつ記憶を取り戻していくことで自分が何者なのかを知っていく戸惑いを、新田は細やかな感情表現と佇まいの変化のなかで見事に演じてみせた。
また、高い運動能力を持った彼のキレのある殺陣、鍛え上げられた肉体の美しさ、時折り見せる無邪気な笑顔やキラキラ光る瞳には、思わず見入ってしまった。

タバラ族はたび重なる倭人との戦によって自分たちの故郷である“星の大地”を追われた悲しい過去を持つ民族だ。けれど、戦で愛する人や故郷を奪われた過去があるからこそ、タバラ族は武器を持たず、太陽のような笑顔を持ち、皆で助け合いながら暮らしてきた。ステラがどこの誰かもわからないシャチに最初から優しく接したのは、そんな背景があったからだ。

しかし、タバラ族の勇者・ザージャ(寺脇康文)とカイジ(松本利夫)は、外からきたシャチや、シャチと同時期に浜辺に打ち上げられた正体不明の男・トド(岸谷五朗)を倭人だと豪語し、なかなか受け入れようとしない。ザージャとカイジの心情や態度には、タバラ族を守りたいという正義があるのだ。しかし、頑なに自分の正義を変えようとはしないカイジに対し、一方のザージャはトドと関わり合ううちに彼らに信頼を寄せるようになる。

岸谷と寺脇のコミカルな掛け合いは、地球ゴージャス公演の見どころのひとつ。地球ゴージャス立ち上げ以前から長い付き合いがあるこのふたりにしか醸し出すことができない絶妙な間(ま)、ボケとツッコミの応酬、どこまでがアドリブなのかわからない“やりとり”は、深刻になりがちなテーマを持ったこの物語に、笑いというおだやかな時を与えてくれた。

また、日本ミュージカル界に欠かせない存在の森 公美子はもちろんのこと、湖月わたる(※メリュー役)、愛加あゆ(※アンジュリ役)、島 ゆいか(※シーナ役)、松本利夫(EXILE)らによる合唱、ソロ歌唱シーン、新しい楽曲が盛り込まれた本作は、キャストたちのそれぞれの個性が組み合わさることで生まれる相乗効果、新たな化学変化によって、よりエンターテインメント性を高めたといっていいだろう。

音域がとても広く、伸びやかな歌声を届けた新田は、ソロ歌唱のみならず、笹本とのデュエットでも豊かな歌唱表現を聴かせ、歌においてもその存在感を輝かせていた。

新田は日本に来る前、つまり俳優になる前に、三浦春馬出演の初演「星の大地に降る涙」の映像を観て大きな衝撃を受けたと公言している。三浦からは「自分らしくシャチを演じて欲しい」という言葉をかけてもらったそうだが、幕が開いた瞬間から、彼にしか演じることができないシャチを完全につくり上げ、この物語の主人公であるシャチを両手で優しく包み込み、そのうえで舞台で大きく羽ばたかせているように見えた。以前、今回の舞台について新田にインタビューしたときに「自分が演じる役の一番の理解者は自分だと信じている」と、まっすぐな瞳で語ってくれたが、まさに目の前にいる“シャチ”が、その言葉を完全に証明してくれていた。

倭人とタバラ族は共存できるのか。記憶を取り戻したシャチの運命は果たしてどうなってしまうのか。武器を持たないタバラの人たちに、どんな結末が待っているのか──。

地球ゴージャスはつねに新作を上演してきたユニットだが、今回「星の大地に降る涙」を10年の時を経て再構築し、上演した。どんな世の中になろうとも戦争が繰り返され、人間同士の諍いは決してなくなってはいない。この物語に描かれているのは、架空の国で起こった遠い昔の出来事ではない。今まさに私たちが生きている地球上で起こっていることが、「星の大地に降る涙 THE MUSICAL」の中にあった。本作は、皆が共存できる平和な世界がくることを、心から願わずにはいられない物語だ。

新田真剣佑が魅せるエンターテイナーとしての輝く存在感。「星の大地に降る涙 THE MUSICAL」公開ゲネプロレポートは、WHAT's IN? tokyoへ。
(WHAT's IN? tokyo)

掲載:M-ON! Press