かつて日本中を席巻し、その面白さに誰もが魅了され財布から100円玉硬貨を次々と投入させた、ビデオゲームの伝説と呼ぶべき『スペースインベーダー』。少しでも長く遊ぶために発見されたテクニック、日本初となるゲーム攻略本の誕生、ゲームセンターの始祖といえる“インベーダーハウス”の営業展開など、日本のゲーム史において欠かすことができない功績や爪痕を残した侵略者たちは、いまもなおメーカーであるタイトーアイコンとして祀られている。そんな『スペースインベーダー』が1978年に産声をあげてから40年以上が過ぎたいま、続編を含むシリーズ作から選りすぐりのタイトルが勢揃いした『スペースインベーダー インヴィンシブルコレクション』としてNintendo Switch(TM)用ソフトで発売された。40年を超える歳月を経て、彼らはいったいどんな侵略を仕掛けてくるのだろうか? 『スペースインベーダー』の面白さや歴史を収録タイトルから紐解きつつ、現在までの足跡をたどっていく。なお、本作は通常版と特装版の2種類で展開されており、本稿では通常版に収録されたタイトルに準拠しつつ、特装版のみで遊べる限定収録タイトルや豪華特典についても紹介する。



文 / クドータクヤ

◆40年以上に及ぶ侵略の数々!

画面下部のバーを左右に操作してボールを打ち返し、レンガを模して積まれた長方形のオブジェクトを壊す『ブロックくずし』からヒントを得て開発された『スペースインベーダー』。画面上部から「ドッ、ドッ、ドッ、ドッ」と不気味な音を立ててじわじわと攻め入るインベーダーからの攻撃を“避け”、キャノンと呼ばれる自機からショットを“撃ち”、そして“倒す”。ビデオゲーム黎明期の作品ゆえごくシンプルなルールではあるが、被弾のリスクと攻撃のリターンを兼ね備えた基本動作は、シューティングゲームというジャンルの礎を築いた一作。プレイヤーが操作するキャラクターが敵や障害物に当たっただけでミスというゲームが多い時代、敵側も攻撃してくるというスリルのエッセンスによってビデオゲームの面白さや奥深さが広がったことで、40年まえに世の人々をすっかりと虜にしてしまったというわけだ。この機会に改めて『スペースインベーダー』と向き合ったが、インベーダーを次から次へと倒す気持ちよさ、そしてミスで被弾したときの悔しさは表裏一体で、時代を経ても感情を揺さぶる名作だと実感した。
日本全土で加熱したブームは、その尾ひれとしてさまざまな都市伝説を残していく。代表的なのは日本中から100円玉が不足したことや、喫茶店・インベーダーハウスから回収した大量の100円玉によって営業車のタイヤがパンクする事例の多発、腰を痛める集金スタッフが大勢いたことでトラックにパワーゲートが付いたきっかけになった、といったものだ。100円玉が不足したくだりは思わず信じ込んでしまいそうになるが、こうした逸話を含めて『スペースインベーダー』がいまでも伝説として語り継がれている所以だ。
ゲームの面白さを広げたと同時に、誰よりも上手くなるための攻略という概念をプレイヤーに植え付けたのも『スペースインベーダー』からではないだろうか。レバーボタンというデバイスを通じて画面内のキャノンを動かす楽しさだけではなく、インベーダーの動きや飛来するUFOを狙い撃ちするテクニックの重要性は、何度か遊ぶうちに「こうやって遊ぶんだよ」とゲーム側から提示してくれるようでもあった。また、ゲームオーバー寸前のところでインベーダーを待ち構えて一掃する“名古屋撃ち”はプログラムの隙を突いた攻略法だが、優位にプレイするためのバグ探しは後年のゲームでも多くのゲーマーたちが攻略するうえで目をつけていくポイントとなった。ゲームとしての在りかただけではなく、プレイヤーに“どうやって遊ぶか?”を考えさせるところも含め、すべての基礎が詰まっている教科書と呼んでも過言ではないだろう。

さて、この『~インヴィンシブルコレクション』には、白黒モニター版とカラーモニター版の2種類の『スペースインベーダー』が収録されている。ゲームそのものに変化はないが、稼働初期の白黒版は4ケタ、そしてカラー版は5ケタとスコアの桁数が変わっているのが特徴だ。これは最高得点の9990点まで到達するプレイヤーが続出したことによって対応されたのだが、当時どれだけやり込まれていたのかがわかるエピソードであり、白黒からカラーに対応したブラウン管モニターの技術進化も窺い知ることができる。また、『スペースインベーダー』はファミリーコンピュータ以前の家庭用ゲーム機であるAtari 2600にも移植されたほか、“インベーダーゲーム”という一種のジャンルとして多くの類似ソフトや電子ゲームが出ているが、インベーダーたちの襲来音である「ドッ、ドッ、ドッ、ドッ」や、「ピシュン」というキャノンのショット音をほぼ完璧に再現したのは今作が初めてではないだろうか? 基板上につけられた抵抗器でこれらの効果音を出していたため再現しきれていないものも多かったが、今作ではこだわりを持って手がけられているような印象だ。

スペースインベーダー』の登場から1年後に生まれた『スペースインベーダー・パート2』。青少年の非行防止の名目でアミューズメント業界団体による自粛規制が進んだことによるインベーダーブームの終焉、そして他社からリリースされた“ギャラクシー”なシューティングゲームの隆盛により、前作以上のヒットに恵まれることはなかったという。注目すべきは、ゲーム開始時にはインベーダーの襲来を演出したデモの挿入や、ショットを当てると分裂するインベーダーの追加、残りのインベーダーが減ってくると増援を呼ぶなど趣向を凝らした要素が組み込まれているところ。まさしく続編と呼ぶにふさわしい一作だが前作をやり込まれた影響を受けてか、難度はやや高めでスリリングかつテクニカルなものになっている。先述した分裂・増援インベーダーがなかなかの曲者で、ショットを撃ち漏らしているとあっという間に侵略されてしまうこともしばしば……。

それからの『スペースインベーダー』は時代に合わせたアレンジと進化を遂げることになる。1990年にリリースされた『マジェスティック トゥエルブ』はその名のとおり、当時のテレビ番組でもひっきりなしに取り上げられていた宇宙人やUFOといったオカルト要素にあやかって命名されたものだ。ゲームシステムは、飛来するUFOを撃墜するとショット強化やシールドといったアイテムが獲得できるほか、各ステージの終盤には巨大なボスと対峙するなど、縦スクロールシューティングゲームのエッセンスを加えた一作になっている。また、同社の横スクロールシューティングゲーム『ダライアス』のようにステージのゾーン分岐を用意するといった仕掛けもある(※海外版の『Super Space Invaders ’91』はステージ分岐のない一本道)。レビューするにあたり久々にプレイしたが、’90年代のゲームとしては時代遅れ感が否めないものの『スペースインベーダー』を遊んだことがない若年層にとっては、グラフィックやシステムを考慮するとこちらから遊んだほうがとっつきやすいのではないだろうか。

スペースインベーダー』史上もっとも大きな変革と言えるのが、シリーズ生誕30周年記念に誕生した『スペースインベーダーエクストリーム』だ。もともとは携帯ゲーム機用ソフトとして販売されたものだが、この『~インヴィンシブルコレクション』には2018年にリニューアルされたSteam(R)版が収録されている。インベーダーを撃滅するという基本ルールを踏襲しつつ、ノリのいいダンスミュージックとショット音がシンクロする気持ちよさ、爽快感をあと押しする色鮮やかなサイケデリックデザインは真新しい『スペースインベーダー』を体験させてくれるものになっている。特筆すべきは、大量得点でバリバリとスコアを稼ぐことができるフィーバータイムの存在だ。先述した音のシンクロとビジュアル、そこに「ジャックポット!」の掛け声が立て続けに加わることにより、脳内でドーパミンがドバドバと放出され絶頂に近いような快感を得ることができるのだ。過去作だけではなく、ぜひこちらも体験してみてほしい。

本作にはアーケードや家庭用ソフトからの移植だけではなく、同社のブロック崩しアルカノイド』と融合したスマホ用アプリ『アルカノイドvsインベーダー』と、長崎県ハウステンボスや大阪・あべのハルカスなどでのイベントで披露された多人数プレイ形式の『スペースインベーダー ギガマックス 4 SE』が収録されている。タッチ操作が可能なNintendo Switch(TM)の携帯モードでのみ楽しむことができる『アルカノイドvsインベーダー』は、インベーダーが繰り出すビームを『ブロック崩し』の要領で跳ね返し、その弾で敵やブロックを破壊していくルールで『スペースインベーダー』にとっては先祖返りしたようなシステムだ。また、超大型ビジョンが設置されたイベント会場のみでプレイ可能だったものを家庭用に調整した『スペースインベーダー ギガマックス 4 SE』は、家族や友だち同士で集まった際の多人数プレイを前提としたパーティゲームのような仕上がりになっている。

スペースインベーダー』シリーズから計8タイトル(バージョン違いを含む)がラインアップされた本作。どのタイトルも一回始めてしまうと、しばらくそれだけを遊んでしまいそうになるものばかりだ。筆者もレビューするにあたって活用させていただいたのだが、ゲーム中ならどこでもセーブ・ロードできる便利な機能が本作にはついている。これをうまく活用することで、たとえば『スペースインベーダー』の白黒版で憧れの9990点を目指してみたり、『マジェスティック トゥエルブ』のルート分岐時でいろいろなステージを遊ぶなど、短い時間でも余すことなく堪能させてくれる心配りは好印象だ。

◆特装版、開封の儀! ゲーマー必携のグッズてんこもり!

ここまでは通常版に収録されているタイトルのレビューと紹介を行ったが、ここからは特装版に封入されている豪華特典と、こちらにしか収録されていない限定タイトルについてそれぞれ紹介しよう。特装版はまだ入手できる状況(4月14日時点)だ。まず特典だが、下記のものが特装BOXに封入されている。

スペースインベーダー インヴィンシブルボードゲーム
・公式資料集
・復刻インストラクションカード(5枚)
・巾着(タイトー集金袋風)

スペースインベーダー』をモチーフにしたボードゲームの『スペースインベーダー インヴィンシブルボードゲーム』は、本作のために用意されたオリジナルアイテムだ。対象人数は3~5人でプレイ時間は60分という、じつに気合の入った作りになっている。公式資料集は、『スペースインベーダー』開発者・西角友宏氏をはじめ、インベーダーブームの真っ只中を経験したロケーション経営者やアーケードゲーム基板の管理・保存・修理を行う業者など、多方面にわたって敢行されたインタビューが掲載。西角氏へのインタビュー記事はこれまでにさまざまな媒体で確認してきたが決定版とも思える充実の内容で、後世に伝えるための資料価値が非常に高い一冊となっている。また、趣味で基板をコレクションしなければ手に入れることがまずないインストラクションカード(遊びかたを記したルールシートで、筺体に掲示されているもの)の復刻版タイトーの旧ロゴが輝かしく見える集金袋風巾着など、マニアであれば思わず欲しくなってしまう魅力的なアイテムばかりだ。気になっている方は、迷わず購入してほしい。

次に、特装版にしか収録されていない限定タイトルを紹介しよう。まずひとつが、1994年アーケードゲームとしてリリースされた『スペースインベーダーDX』。オリジナルの『スペースインベーダー』や対戦モード、そして『バブルボブル』や『ダライアス』、『奇々怪界』といった同社ゲームのキャラクターが多数登場するパロディモードを搭載している。ちなみに『~インヴィンシブルコレクション』に収録されているタイトル中、書き割りで表現した惑星の背景が特徴的なアップライト版を遊べるのはこの『~DX』のみというのもポイントとして挙げておきたいところだ。

スペースインベーダー』の開発者である西角氏が、同ゲームのハードウェアを使って手がけたゲームの『ルナレスキュー』と、今回で初移植となる『スペースサイクロン』もラインアップされている。月面にいる宇宙飛行士たちを救助するのが目的の『ルナレスキュー』は、救助船を操作して流星を避けながら月面へ降下する着陸パートと、UFOと戦いながら母船へ戻るシューティングパートの二部構成となっている。避ける・撃つのリスクとリターンが織りなすスリリングさは『スペースインベーダー』に引けを取らず、ミスするたびに「もう一回、もう一回!」と繰り返しでプレイしてしまう中毒性が秘められている。

ロケット砲を操作し波動砲を発射しながら進撃してくるベーム(昆虫サイボーグ)、稲妻のようなサイクロン砲を放つ敵ロケット、ときおり飛来するUFOを撃破していく『スペースサイクロン』は、稼働台数の少なさから“幻のゲーム”と呼ばれている一作だ。特徴的なのは音声サンプリングを使用した“喋るビデオゲーム”の初期作品のひとつとして数えられており、タイトーでも初のボイス収録ゲームとなっている。「ヨイショ、ヨイショ」、「発射ヨーイ」と軽快に喋る声に耳を傾けてほしい。

近年では日本のビデオゲームを“文化”として残す動きや試みが盛んになり、開発者や関係者からの証言や資料が一般に公開される例や、ほぼ完全ともいえる移植が家庭用ゲーム機に行われている。こうした流れのなかでリリースされた本作は一種のモニュメントであり、撤退したと思いきやふたたび我々のもとへ侵略してくるインベーダーの40年を超える歴史を遊ぶことができる貴重なアーカイブといえるだろう。本作が出ていなければ、ここまでがっちりと『スペースインベーダー』に取り組む機会はなかったかもしれないと思っている。ただひとつ、これだけ充実したラインアップゆえ『スペースインベーダー』の遺伝子をしっかりと継承しているが、スコアを稼ぐための“チャレンジングステージ”や自機ショットの強化アイテムなどを追加した正統続編の『リターン・オブ・ザ・インベーダー』が本作に収められていないのは非常に惜しい。これから何らかの機会でお目にかかれることを期待したい。
充実の本作を契機に、はたしてインベーダーたちはこれからどんな形でゲーム業界を襲ってくるのだろうか。その到来と行く末が楽しみだ。

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侵略はまだ終わらない『スペースインベーダー IC』40年超の軌跡は、WHAT's IN? tokyoへ。
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掲載:M-ON! Press