中国は、周知のように世界中を震撼させている新型コロナウイルスの発生源となった国で、1月と2月が感染のピークだった。現在は、国を挙げて「復工復産」(工業と産業の復興)に取り組んでいる最中で、習近平政権は、「中国復活」のアピールに余念がない。4月8日には、76日ぶりに武漢の封鎖が解かれ、900万市民が解放された。4月14日の中央電視台(CCTV)の『朝聞天下』(朝のメインニュース番組)では、「武漢のホンダ第二工場も完全に復活した」というニュースを、華々しく特集していた。

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 だが、美談、美談の中国官製ニュースからでは、実態は見えてこない。

中国には実態に即した失業率の統計がない?

 香港に隣接した中国広東省深圳に、「格隆」という民間の投資会社がある。2014年に、証券会社や投資ファンドなどを経た陳守紅氏が創業した。この会社、投資と共に中国及び世界市場の分析を行っていて、このほど「疫病の後、どこからどこへ向かうのか?」と題したレポートを発表した。

 そこには、慄然とする「中国経済の近未来」が描かれていて、中国で話題を呼んでいる。以下、「GDPが必要なのか、それとも就業が必要なのか?」という最初の項目を中心に、その内容を紹介しよう(<>内はレポートの引用)。

<今日に至るまで、多くの人がやはりGDPについて語る。「2つの2倍」(2010年に較べて2020年のGDPと国民収入を2倍にするという中国政府の目標)について語るのだ。心が大きいのだ。

 だが、就業の方を心配しようではないか>

 このレポートに一貫しているのは、就業に対する危機感である。

<中国には厳格な経済学的意味を持った失業率の指標がない。中国にあるのは、参考にする価値もほとんどない登記失業率と調査失業率だけだ。

 それでも、2019年末の都市部の登記失業率は3.62%で、調査失業率は5.2%。最新の2月の調査失業率は6.2%だった。6.2%は過去最高で、3月は間違いなくさらに高い数字になるだろう>

 失業者に関しては、アメリカの失業保険の申請者数が、過去3週間で1600万件を超えたことが世界的な話題を呼んでいる。だが、「就業者数世界一」の中国はそれ以上に、深刻な事態に陥っているということだ。

<中国の就業者の80%以上が中小企業の従業員だ。大企業はすでに主力軍ではなく、大企業の従業員数は4年連続で下降している。今年の1月~2月の統計で見ると、大企業の従業員数は1139万人。2017年~2019年の同時期の平均1368万人と較べて、229万人、16.7%減っている>

 要は、就業者の8割以上が属している中小企業が危機に陥っているため、中国経済は傾いていくということを言いたいわけだ。

大学生は「卒業イコール失業」に

<過去の経験に照らせば、中国のGDPが1%増えるごとに、第11次5カ年計画(2006年~2010年)の頃は、100万人~130万人の雇用を創出してきた。第12次5カ年計画(2011年~2015年)の末期は、170万人だ。

 しかし、GDPが減速した際に、さらに言えばマイナス成長になった場合に、いったい何人の失業者を生むのかについて、経験的なデータがない。なぜなら多年にわたって、中国経済は一直線に右肩上がりだったからだ。

 オークンの法則(GDPの成長と就業率に緩やかな関係があると示した)によれば、GDPが2%下がるごとに、失業率は1%上がる。オークンはアメリカの経験データをもとに算出した。中国の産業構造は、最も労働力を吸収しやすいサービス業の比率が、アメリカほど高くない。そのことを鑑みれば、中国のGDPが下降することによる失業率の上昇は、アメリカよりさらに深刻になることが予想される。アメリカのデータに基づいたとしても、GDPが2%落ちるごとに、300万人以上の失業者を生むことになる>

 つまり、これから中国に、「大失業時代」が到来するということだ。レポートは、さらに具体的な数値を示す。

<それでは、今年の中国のGDPは、どこまで落ちるのか? 仮に、マクロ経済モデルの中間値を取ってみると、2020年のGDPは、何とか0.9%~1%の成長を維持する。だがマイナス成長の可能性を完全に排除するものではない。

 これが意味するのは、たとえオークンのアメリカの経験に沿って考えても、中国には1000万人の新たな失業者が出るということだ。実際には、中国の産業構造に照らせば、この数値は疑いなく、あまりに低く見積もっているが>

 中国の昨年のGDP成長率は6.1%だったと、今年1月に国家統計局が発表している。これが今年は、一気に5%以上、ドスンと落ちるということだ。マイナス成長もあり得るという。そして1000万人を超える失業者・・・。

 さらにレポートは、衝撃的な話が続く。

<これらの数値は、毎年800万人を超える大学生の就業については、まったく考慮していないのだ。昨夏は834万人の大学生が卒業した。

 データは冷淡だが、これが現実だ。「卒業イコール失業」。まるでジョークのような話が、今夏の多くの卒業生の身にのしかかってくるだろう。大枠でこの一語「卒業イコール失業」が言い表している。象牙の塔を出たばかりの若者は、外部の世界で何が起こっているのかまったく分かっていない。それで期待に満ち満ちて社会に出てみたら、自己が置かれる立場との差に、愕然とするのだ。これは非常に心配されることだ。(中略)

 もしも卒業生の半数以上が仕事にありつけなかったら、中間値ではなく悲観的な仮説が現実のものとなったら、どうなるだろう?>

 中国の大学は、秋の9月に始まり、夏の7月に卒業する。卒業生は毎年平均で40万人ずつ増えており、今年の卒業見込み者数は784万人! このうち半数以上が、「卒業イコール失業」になる可能性があるというのだ。日本の卒業生の「内定取り消し」騒動の比ではない巨大地獄だ。

日本にも跳ね返ってくる「中国失速」の影響

 以下、レポートは長々と続くが、省略する。結論としては、中国の中小零細企業の25%以上が倒産することも視野に入れ、今年の経済成長は見限って、来年の復興を目指すことを提言している。今年の中国はもう諦めなさいということだ。

 まもなく、中国の第1四半期(1月~3月)の経済指標が発表される。このレポートは、「GDPはメンツの工程であり、経済は就業、収入である」と一刀両断している。「人民元を刷りまくれば、GDPなど上げられる」とも述べている。つまり、国家統計局が発表するGDPの数値は、経済実態を反映していないというわけだ。

 このように、今年の中国経済は大変なことになるが、日本が得るべき教訓は二つある。一つは、日本経済も同様になると考えておくべきだということ。もう一つは、それに加えて、最大の貿易相手国(2018年の日本の貿易額の21.4%が中国)の巨大不況の影響も、日本に重なってくるということだ。日本経済も待ったなしである。

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