第3週「いばらの道」14回〈4月16日 (木) 放送 演出・吉田照幸〉


「未来の頭取」 裕一の新生活のはじまりは、タイトルバックからはじまった。アヴァンがないのはたぶん初めて。それだけでなく、
川俣編は様相ががらりと変わった。

昭和3年10月、川俣。
裕一が川俣の資産家・権堂家に養子に行った…と思ったら、仕事を覚え一人前になったら養子になるとナレーション(津田健次郎)。まだ完全に養子ではないらしい。

権藤家は気づまりなので、銀行に住み込みで暮らしている裕一。幼少期(石田星空)はあんなに川俣の大好きなおじいちゃん森山周一郎)の家と喜んで出かけていったのに。いまはもうおじいちゃんの圧力がストレスでしかないのだから哀しい。


銀行のメンバーは、独身の支店長・落合吾郎(相島一之)を筆頭に、菊池昌子(堀内敬子)、鈴木廉平(松尾諭)、松坂寛太(望月歩)の4人。
不景気で銀行はヒマなうえ、この4人「底抜けに明るい」人たちで、裕一を何かと構う。「未来の頭取」に取り入ることもなくマイペースでからかいつつ面倒を見る。実家と離れ、鬱々している裕一にとってはホッとしたことだろう。街では、裕一が権藤家の跡取りとしてもらわれて来たという眼で品定めをしてくるから、銀行だけが救い。

「シャル・ウィ・ダンス?」鈴木は「女性とまったくふれあいがないのはよくない」と裕一をダンスホールに誘う。男性主役の朝ドラだから、男性の生理が描かれる。さすがにダイレクトに風俗店に行くみたいなことはない。それでは深夜ドラマになってしまう。朝ドラではダンスホールという洒落たものを出して来た。踊り子たちは大正ロマンの雰囲気で華やか……と言いたいところだが、時代はすでに昭和。そういえばとくになんの説明もなく、年号が大正から昭和に変わっていた。

おしん」や「カーネーション」では貧しい女が男に金で買われる場所が出てきたが、「エール」の女性たちは美しく着飾り、男性にダンスを申し込まれるのを待ってはいるが、最終的には女性が男性を選ぶことになるシステムになっている。
美しい女性たちにもじもじする裕一に、まず、やや地味めな踊り子(椎名琴音)から攻めようと鈴木はアドバイスするが、最も人気の志津(堀田真由)が自ら「シャル・ウィ・ダンス?」と誘って来た。
踊り子に「シャル・ウィ・ダンス?」と言われたら男性は「ウイ」と応えてダンスがはじまるルール。
こうして裕一はすっかり志津に心を奪われ、それまで「死んだフナの眼」(菊池談)をしていたが、生き生きしはじめた。そろばんを抱き、楽器のように軽やかに奏でてみたりする。


落合は「恋で彼を元気づけよう作戦」を思いつき、鈴木に世話するように言う。
「彼みたいな人は 妄想は得意なんですが、いざといったらおじけづき、自分で言い訳をこさえて行動を起こさないかもしれません」と鋭く分析。
「僕に任せてください」と鈴木は重要なミッションに臨むような口調になる。
この人達、よっぽど仕事がヒマなんだろうなあ。

裕一は志津とトントン拍子にうまくいき、毎晩毎晩、通って、外で食事をすることもできるように。これって水商売における店外デートみたいなこと? 
ひとつ心配なのは、毎晩ダンスホールに通うと随分、お金がかかるのではないのだろうか。

交際の境界線とは何か?13回はあんなに悲しい話だったのに、川俣編に入った途端、ノリが全く変わった(一部、福島の実家の暗い場面もあったが)。相島一之と堀内敬子という三谷幸喜作品によく出ている喜劇の達人俳優、近年、主役を支える友人俳優として活躍している松尾諭の3人と、映画「ソロモンの偽証」で注目された若手演技派の望月歩によって、軽やかに場が転がっていく。

おまんじゅうを食べながら「これはまずいよ」「まずいですか」とまんじゅうとは関係ない話題をする場面や、支店長が100回もダンスホールに通っても店の外に踊り子を連れ出すことに成功したことがないと口を滑らせ、菊池が「してんちょー」と叫ぶ場面など、ちょっとしたところがしっかり抑えられている。

終盤、「交際の境界線とは何か?」という話になったとき、カメラ前に、糸のついたカラフルな文字がぶらさがって、テロップになる。シャーン! シャーン! とリズミカルなSEが連なって、インパクトある終わり方になった。
薄暗かった裕一の人生に色がついてきて、作曲家としての豊かさとなっていく予兆を感じる。
裕一が女性を知る場も“ダンスホール”という音楽に関係する場であってよかった。


そういえば、「あまちゃん」も1、2週はおもしろくはあったがまだやや抑えめで、3週めに「ヒロシです」ネタが出てきて視聴者をざわつかせ、笑いが増量されたと、当エキレビ!朝ドラレビューのはじまり「あまちゃんレビュー」には記してある。そしてその「あまちゃん」最初の確変の演出家こそ、「エール」のチーフ演出家・吉田照幸なのであった。「スカーレット」も3週めで大阪荒木荘編でにぎやかになった。
朝ドラは第3週が肝と言っていい。

【参考】まさかの海女失格! ますます面白い「あまちゃん」三週目の「ヒロシです
https://www.excite.co.jp/news/article/E1366559448065/

〈今日の窪田正孝〉小さく引きで映っていたダンスのポージング。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)

(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)


番組情報連続テレビ小説エール」 
NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和

イラスト/おうか