北朝鮮(以後、北)では、通常兵器の訓練となると、相変わらず極端な誇張宣伝をする。ポンコツ兵器で脅威を与えるための工夫なのだろう。

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 北軍は4月、軍団から選別された迫撃砲の中隊(18門編成か)あるいはその隷下の区分隊(日米では小隊で6門編成か)による射撃競技を実施した。

 朝鮮中央通信(4月10日)の内容を要約すれば、次のようになる。

「各軍団長の力強い射撃号令が下されると、迫撃砲兵区分隊の鋼鉄砲身が一斉に火を噴き出し、標的は瞬間に火の海と化した。砲弾に目が付いているように標的に命中する」

「各軍団の砲兵中隊は、砲弾60発中60発を正確に標的に命中させた」

 この訓練を金正恩委員長が視察し、各軍団長がそれぞれの砲兵部隊の中隊あるいは小隊レベルに号令を出したというのだ。

 これらの記事と、大きな火を噴く迫撃砲の写真を見ると、大規模な射撃訓練が行われているような錯覚を受ける。

 実は、今回、軍団から選ばれた迫撃砲の中隊・小隊レベルの射撃の様子である写真には、3月に行われた射撃と同様に多くの加工が施されている。以下、具体的に紹介する。

金正恩視察なのに小規模射撃部隊

 日米では、兵士が百数十人規模の中隊・30~40人規模の小隊レベルの砲兵射撃競技会や評価であれば、千数百人規模の連隊あるいは200~300人規模の大隊の長が実施するものである。

 軍団長や師団長が命令・指示するものではない。

 だが、朝鮮中央通信の記事を細かく読むと、北は、軍団(5万人以上の規模の部隊)長が中隊や小隊に命令を出した。これを金正恩委員長が視察までしたと言う。

 これが意味することは、北は最近、軍団長が選んだ中隊や小隊レベルの部隊だけが、実弾射撃ができ、そのためだけの弾薬しかないということではないか。

 小さな部隊だけが射撃していることを隠すために、小部隊の射撃を大部隊が射撃しているように、合成写真で誇張してごまかしていると考えられる。

図 軍団とその隷下部隊組織(要約)

 全部隊の詳細を記述できないので、一つの師団・連隊・大隊などを詳細に図示説明した。赤字系列あるいは青字系列の迫撃砲部隊の射撃なのかは、決定できない。

発射した弾丸が少なすぎる

 射撃している火砲は、口径(砲口の直径)が120mmの迫撃砲(Mortar)だ。

 迫撃砲は、火砲の中では最もシンプルで砲身が短い構造であり、弾道はハイアングルの軌道を描き、射程は最も短い。

 迫撃砲の射撃では、火炎を含んだ爆風によって、弾丸が砲口から押し出されるために、そこから火炎が出る構造になっている。

 火炎は、北の迫撃砲ばかりではなく、自衛隊や米軍の迫撃砲からも出る。ただし、写真の火炎は、大きすぎる(写真1参照)。

 恐怖を与える効果は高いが、実際は、技術上・運用上に大きな問題がある可能性がある。

 火炎が大きすぎること、砲弾が火炎の中にあるのは、技術的には、砲身の内部が摩耗していて、砲弾と砲身内部に隙間が広がり、爆風で砲弾を押し出す前に、火炎が砲口から外に漏れていることが考えられる。

 運用上からみると、射撃すれば、直ちに米韓軍に発見されて反撃を受けるということになる。

 火砲は、戦車などと違い防護力がないので、早期に反撃を受ければ大きな被害を受けてしまう。

写真1 北朝鮮迫撃砲分隊の射撃

コロナ襲撃を受けた北には砲弾もなかった」(3月31日)の原稿でも、発射する弾薬の量が極端に少ないと記述したが、今回の迫撃砲の射撃の場合もそうだ。

「砲兵中隊が60発発射して、60発全弾が命中した」とある。北が射撃訓練で何発発射したと発表したというのは、私の記憶では初めてのことだ。

 全弾命中したとあるが、命中というのは、ある地点に命中したというのではなく、島に当たったということだろう。

 だが、この数字は全く信用できない。

 なぜなら、北は、2010年に延坪島に向けて砲弾を1回目に150発、2回目に20発を発射した。1回目の射撃150発の6割の90発が海に落下した。また、不発弾が20発もあった。

 わずか11~15kmしか離れていな島に対して砲撃したにもかかわらず、60%が海に落下したというのは、精度がかなり悪い。

 170発発射して20発が不発弾というのも、砲弾の管理が悪いか、あるいは製造から年数が経過して古くなり、品質が落ちていたということだ。

 延坪島(ヨンビョンド)よりもはるかに小さい島に対して、本来命中精度が低い迫撃砲を撃って、全弾命中というのは、ごまかしの数字とみてよい。

 写真に写っているのが中隊全力あるいは一部だとすると、迫撃砲の保有数は6~18門だろう。

 6~18門で60発発射(正しいとすれば)という数字は、1門あたり、4~10発しか発射していない。

 金正恩委員長が視察している時に、こんなに少ない数字なのかと驚く。米軍や自衛隊の中隊の通常訓練の射撃では、この10倍以上の弾数を発射する。

 その他の注目点は、弾薬箱の着色だ。

 1回の射撃で、数百発発射すれば、その後、弾薬箱は不要になるので返納後に廃棄される。したがって、わざわざカーキ色に塗るような無駄なことはしない。

 だが、北は、一度使用した弾薬箱をカーキ色に塗り、何度も使い回しをしているようだ。弾薬の中には、火薬が入っており、その火薬は、湿気や埃の影響を受けない処置が必要である。

 世界の軍隊では、弾薬は紙製のファイバーケースに入れられ、そして弾薬箱に入れられ、湿気や埃に最新の注意が払われている。

 弾薬箱を何度も使い回せば、火薬が湿気を含み、埃が付着する。このようなことで、北では、不発弾が発生し、命中精度が落ちているように考えられる。

 北軍通常兵器の実情は、砲兵部隊の練度を維持するための発射訓練の弾数は少なく、その弾薬も不良な状態にあるようだ。

迫撃砲の弾丸は本当に命中しているか

 射撃目標となっている島に立ち上る煙は、迫撃砲の弾丸の破裂によるものばかりではない。

 島への弾着の写真において、煙の色と流れ、火の玉をよく見ると、どのような弾丸が爆発・破裂したものなのか、あるいは射撃効果を高めるトリックなのかが分かる。

 写真2の①⑥左の白い煙は発煙弾の煙、②中央手前の薄茶色の煙は、弾丸が地面にぶつかり爆発(着発)した時の煙だ。

 砲弾が着発した時の弾の煙は薄茶色になる(着色された発煙弾を除く)。

 地面で砲弾が爆発すると、数十センチの土が爆風によって吹き飛ばされ、その土が空中に舞い、茶褐色に見えるからだ。

 ③中央奥の火の玉は、右上の高い位置にあるのが、弾丸が空中約10~15m上空で爆発(曳火射撃)した時の火の玉と煙だ。

 この場合、地表面の土が飛散しないことと、砲弾の火薬が燃えて、薄黒い煙が一瞬だけ発生する。

 ④中央左の火炎と黒い煙は、重油などの混合油を燃やしているものだ。

 ⑤右下の数個の火の玉と黒い煙は、④と同じものだ。

 この小島では、風が同じ方向に吹いているはずだが、写真を見ると、それぞれの煙が流れている方向が異なっている。

 ①白い煙は右横に、②中央手前の薄茶色の煙は、地面で破裂したばかりの砂ぼこりの煙だ。③中央右の薄黒い煙は右上に流れ、④中央左の黒い煙は真上に流れ、⑤右側の黒い煙は、右上に流れている。

 風向きが同じなのに煙が流れる方向が異なることはない。方向が異なる理由は、合成写真によるトリックがあるからだろう。

 少なくとも、④の黒い煙は、貼り付けの映像の可能性がある(写真2参照)。

 つまり、この島に立ち上る煙や火の玉のようなものは、砲弾が命中したように見せかけるトリックだということだ。

写真2 島に落下した砲弾の煙と混合油を燃やした煙

 ⑤の多くの火炎と黒い煙はどのようにしてできるのか。重油などの混合油をドラム缶に入れて、遠隔操作で爆発させると、黒い大きな火の玉と黒い煙が発生する。

 自衛隊でも展示射撃の時によく使う方法だ。

 例えば、富士総合火力演習が開始されるとすぐに、「F-2戦闘機が飛来する。通過するときに、爆弾を落下させ対地攻撃が行われたように見せかける。

 数万人の観衆の前に、戦闘機から爆弾を落下させることは、安全管理上絶対にあり得ない。

 2010年以前のやり方は、地上に設置した混合油を遠隔操作で爆破して燃やしていた。観衆には、戦闘機から対地攻撃があったように見える。

 富士総合火力演習は、ショーの意味合いもあり、迫力ある効果を演出するために、やむを得ず行っていることだ。

 近年は、実際の爆薬のみを使用しているので赤い火炎と黒い煙は少ない。

写真3 左:混合油を爆破(2010年以前) 右:爆破薬を爆破した場合(2017年

 実は、約45年も前の話だが、私が所属していた中隊が、岩手演習場で「L-90」高射機関砲の地上射撃を行った際に、砲弾が目標に命中したことが見学している人々に明瞭に分かるように、混合油を入れたドラム缶を目標にして射撃、命中したら混合油が入ったドラム缶が爆発し燃え、黒い煙が大量に発生するようにしたことがある。

 北も同じことを実施しているようだ。ただし、金正恩委員長は、このトリックを知らされていないで、よく命中しているという感想を持ったことだろう。

北朝鮮はJBpressの記事に反応している

 最近、私は気になっていることがある。

 それは、私が朝鮮中央通信の写真に問題点やトリックを指摘すると、その後、可能なものは修正してきているということだ。

 以前、「北がSLBMの発射は、水中からではない。その理由は、ミサイルから水しぶきが落ちていないからだ」と指摘すると、その後の射撃では、水しぶきが落ちている写真を公開した。

 今回は、JBpress3月31日)の記事(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59948)に、「短い時間に多数の弾薬を発射する場合には、弾薬を砲の傍に配置する。だが、弾薬箱・弾薬の数は少ない」と指摘した。

 これに北は反応して、カーキ色に塗られた弾薬箱が概ね5箱置いてある写真を1枚だけ公開した。

 注意して見ると、北の射撃部隊は、弾薬箱をなぜか砲の前に置いてあった(写真1参照)。

 砲兵部隊は、弾薬箱を火砲の前に置くことは絶対にしない。その理由は、弾丸が発射され、砲口を出た瞬間に爆発することが極めてまれにあるからだ。

 弾薬箱が火砲の前にあれば、砲口破裂した場合に、その弾薬箱に引火して、さらに大爆発を誘発してしまうことになる。

 これを防止するために、弾薬は火砲の後方に配備する。

 北が、私の指摘に反応してくれることは嬉しいが、安全管理を無視してまで、アホなことをやることはないだろう。

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2010年11月23日、韓国の延坪島を北朝鮮が砲撃した。このとき不発弾が多く発見され、北朝鮮の砲弾の品質が悪いことが明らかになった(写真:Newscom/アフロ)