独自の知性
2.0Lエンジンから197psを発揮するこの前輪駆動モデルは、3代目TTのエントリー仕様であり、ドライビングのスリルではなくこのクルマの存在を知らしめるためのモデルだと言える。
だが、このクルマがTT熟成の過程を明らかにしてくれたことで、トップレンジではなくこの仕様を選んでくれたアウディに感謝することとなった
さまざまなモデルで使用されているフォルクスワーゲングループのMQBプラットフォームを与えられた現行TTは、強力なフロントグリップとボディロールの少なさが特徴であり、強固なボディ剛性と素晴らしい洗練を感じさせる。
後席にもなんとか実用に耐え得るリアシートを手に入れたことで、初代よりも大きく成長したモデルに感じる理由も理解出来る。
だが、初代TTの見事なシフトフィールのマニュアルギアボックスに替えて、このクルマが積むのはデュアルクラッチトランスミッションであり、つねに速く走ろうと思わせるわけではないが、それでも毎日のドライビングでは十分な喜びを感じさせてくれる。
さらに、3代目TTであれば2代目には欠けていた知性を感じることも出来る。
このクルマは初代ほどの強い印象を残そうとしたり、初代と同じような存在になろうとしたことなどは一度もなかったのであり、むしろこのクルマには独自の知性が備わっていると言えるだろう。
知性と感情に訴えるモデル
唯一のデジタルスクリーンをステアリングホイールの背後に置く以外、ダッシュボード上に視線を惑わすようなディスプレーなど一切ない、このクルマの見事なまでに整然としたインテリアデザインの素晴らしさはいまも変わらない。
見事なルックスをした魅力的な1台だ。
そして、このクルマはエントリーモデルこそが、トップレンジよりもつねに理に適った選択だということを思い出させてくれる存在でもある。
このクルマ以上のパフォーマンスを誇るTTのなかにも非常に優れたモデルは存在するが、一方でそうしたモデルこそが、もともとは前輪駆動のこのアウディがどれほど純粋なスポーツカーとかけ離れた存在かということを露呈して来たのだ。
本質的にTTとは、手ごろな価格でそれなりの刺激と魅力を感じさせるホットハッチに近い存在だと言えるだろう。
つまり、TTとは現代のフォード・カプリとでも呼ぶべき存在であり、ドライバーの扱いやすさを優先して生み出されたモデルなのだ。
もし、アウディからEVやさらに先進的なTTの後継モデルが登場したなら、彼らはこのクルマほどの知性と感情に訴える力を持ち得るのかという難題に直面することになるだろう。
番外編1:2代目の苦難
ついにアウディTTの終焉が発表されたいま、ひとつ間違いのない事実は、手に入れるなら初代か3代目モデルだということだろう。
アウディUKのヘリテージコレクションから借り出した2代目TTでのドライブは、いかに偉大な1台の後継モデル作りが難しいかを改めて教えてくれた。
アウディでは2代目TTにあまり乗り気ではなかったのかも知れない。
徹底的に初代のデザインテーマを踏襲しようとしたものの、それに失敗したこのクルマではその見た目同様、パフォーマンスもひまひとつだった。
特にインテリアは平凡な空間であり、ヒーターコントローラーが初代R8と共通だったというのが一番のポイントかも知れない。
決して手を出してはいけない。
番外編2:次はどうなる?
いまのところ直接的なTTの後継モデルに関する計画はないと内部情報筋は話しているが、アウディではひとびとの期待と、TTのようなひとびとの情感に訴えかけるようなモデルの必要性の双方を十分認識している。
昨年3月、アウディで技術開発責任者を務めるハンス-ヨアヒム・ローゼンピーラーに話を聞いた際、彼は「アイコンと呼ばれるようなモデルには未来が残されていますが、それがTTと呼ばれることになるかどうかは分かりません」と話している。
番外編3:英国版 中古アウディTTのおススメ3選
初代TT 1.8T 180クワトロ
最高のコンディションを保っている初代TTを探しているのであれば、数多くの車両をチェックする必要があるだろう。
だが、並行輸入で英国へと上陸した左ハンドル仕様など、リアスポイラーが装着されるようになる前のごく初期の個体をそれなりの価格で見つけ出すことも出来る。
価格は2000ポンド(26万9000円)からであり、初期のスポイラーを持たない左ハンドル仕様のクーペを3000ポンド(40万4000円)で発見している。
初代TT 1.8Tクワトロ・スポーツ
トップモデルとしてVR6のエンジンを搭載したモデルも存在するなか、初代TTでもっとも高い人気を誇るのが、240psを発揮する1.8Lターボエンジンを積んでシャシーにも大幅に手を加えた限定モデルのクワトロ・スポーツだ。
すでに価格上昇が始まっており、個体数もそれほど多くはない。
状態の良い個体は1万ポンド(134万7000円)程度を覚悟する必要があるだろう。
3代目TT RS TFSIクワトロ
数ある俊足TTのなかで5気筒エンジンを積んだRSはすでにカルト的な人気を博しており、ますます希少性が高まるなか、さらに人気のモデルとなることは間違いないだろう。
それでも、驚異的な速さを誇る401psのエンジンを積んだ3代目TT RSの初期モデルであれば、いま3万ポンド(約400万円)台中盤まで価格を下げている。
さらに価格下落が進むかも知れないが、そのペースはより緩やかなものとなるだろう。
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