振付家/コンテンポラリーダンサー中村蓉が、2020年4月25日(土)14:00~ソロ活動 10 周年記念ソロダンス公演ジゼルを特別バージョンで都内某所からライブ無料配信する。

中村は早稲田大学モダンダンスクラブでコンテンポラリーダンスを始め、2009 年より小野寺修二、近藤良平、室伏鴻の振付作品に出演しアシスタントを務めた。2010 年 より創作を始め「踊る身体を媒介に、音楽・言葉・物語・小道具・関係性、すべてを総動員してひとつの世界を創り上げる」(プレスリリースより)舞台が注目を集める気鋭だ。

中村蓉(撮影:前澤秀登)

中村蓉(撮影:前澤秀登)

これまでに第1回セッションベスト賞および横浜ダンスコレクションEX 2013審査員賞・シビウ国際演劇祭賞を受賞した『別れの詩』、長編ソロ『顔』などに加え、近年は向田邦子のシナリオが原案の『阿修羅のごとく』やデュオから群舞に発展させた『理の行方』を発表。その作風を一様には括れないが、親しみやすいなかにも奥行きを兼ね備えた創作に定評がある。全国各地でのワークショップにも積極的で、「歌謡曲スイッチ」と題した、歌詞に出てくる登場人物になり切って踊るプログラムが好評を博すなど、幅広い観客層にダンスの魅力を届けている。

中村蓉(撮影:Kazuaki Kojima/FUN-PRO)

中村蓉(撮影:Kazuaki Kojima/FUN-PRO)

またルーマニアのシビウ国際演劇祭、英国のナショナル・シアター・ウェールズで滞在制作を行い、東アジア文化都市クロージングイベント式典(韓国の光州・横浜)や六本木アートナイトのDance Truck Projectに招聘され、ベトナムや韓国でも公演した。さらに新国立劇場×ナショナルシアターウェールズ『効率学のススメ』、劇団サスペンデッズ公演、二期会ニューウェーブオペラジュリオ・チェーザレ』、ドイツ・ヴュルツブルクのマインフランケン劇場のオペラ『ニクソン・イン・チャイナ』の振付を担当するなど活躍。2021年5月には二期会ニューウェーブオペラ『セルセ』の演出を務める。

中村蓉『阿修羅のごとく』YoNakamura "Asura no gotoku"福生市民会館

5年ぶりのソロ長編『ジゼル』は4 月 24日(金)~26 日(日)に神奈川県立青少年センタースタジオ HIKARI で上演予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大防止・緊急事態宣言による会場休館により公演中止となった。そのため特別バージョンでのライブ配信となるが、中村は新たな形での発信に意欲を燃やしている。ロマンティック・バレエの名作『ジゼル』に想を得た作品の発表に際し、昨年11月、神楽坂セッションハウスで『ジゼル短編』を試作して準備を進めてきた。村娘ジゼルはアルブレヒトを愛していたが裏切られて息絶え、ウィリー(死霊)となる――。ジゼルの愛と死の真実を、中村がどのように捉え、踊り、演じるのか目が離せない。

中村のコメントは以下の通り。

<『ジゼル』上演にあたって>
ジゼルはなぜ恋人を助けたのか」疑問でした。愛している、から?昨年 11 月に上演したソロ『ジゼル短篇』の稽古では“私の中のジゼル” がなかなかアルブレヒトを助ける気になってくれず困った時もありました。古典バレエジゼル』の数々の名演を観ると、理由など思う隙なく、二幕のパドドゥ、どうにかアルブレヒトの命が助かるように、共に踊る感触を忘れぬように、美しく引き伸ばされた踊りと音楽に涙 が出ます。生死を超越したダンスを前に「助けた理由なんてどうでもいい!」と、疑問を吹っ飛ばしてただただ感動していたいのですが、 “私の中のジゼル” “私にとってのダンス”はそれを許してくれませんでした。ヒントを運んでくれたのは英国女流作家ヴァージニアウルフでした。アルブレヒトを助けられるのは“踊りが大好きな”ジゼルだけ。生かすも殺すも踊り。ウルフを生かし殺したのは小説だったかもしれない。
フィクションとノンフィクションを行き来するうちに私は『ジゼル』という物語のすぐそばまでやって来ました。
ジゼルには、助ける理由と葛藤があり過ぎて、彼女の中でビックバンが起きたんだ、と思います。
そして今は、アルブレヒトの虚無感とその先の「生」を我が事のように感じます。
この新作『ジゼル』を観てくださるお客様には「理由なんてどうでもいい!でも自分のそばにもジゼルがいるかもしれない」と感じていただけるような踊りをご披露したいと思っております。
ソロを踊り始めて10 年が経ちました。11 年目のこの公演、是非ご覧いただけましたら幸いです。 
 

<ライブ配信決定にあたって
お客様と同じ空間で作品を上演し、共有することが舞台芸術の醍醐味であり本来の在り方だ、という気持ちは今もあります。
ですが、この今まで経験したことのない事態の中で、新しい表現方法に挑戦すること、ただ穏やかな日々が戻ってくるのを待つのではない知恵を絞った「しぶとさ」も、演劇ダンス舞台芸術の魅力の一つだと思っております。その「しぶとさ」で人々が演じ踊り続けてきたとしたら、私は2020年現代の知恵でしぶとく、どんな形でも上演を目指そうと思っております。
今生まれた踊りは、今のために在る、気がしています。
晴れて思いっきり外へ出られるようになったら「まずはあのダンスを、舞台を、劇場で目の前で観よう!」と、配信をご覧いただく方々に思っていただける作品や踊りを創るべく、一層努力いたします。
25日、あらゆる知恵を総動員したダンス映像を、ぜひお楽しみくださいませ


文=高橋森彦 

中村蓉(撮影:江野耕治)