「ホームビルド機」と呼ばれる自作の組み立て式飛行機は、第2次世界大戦前の1920年頃からすでにありましたが、それらとはひと味違う組み立て式の飛行機をアメリカのグッドイヤーが1950年代に開発しました。

ゴムボートのように膨らませて使う飛行機

タイヤメーカーであるグッドイヤーがかつて、組み立て式の飛行機を作ったことがあります。それは、日本でも見られる分解したり折りたためたりするモーターグライダーなどのような飛行機(超軽量動力機)とは、ひと味違うものでした。

グッドイヤーが開発したのは、まさにタイヤと同じく、空気で膨らませるゴム製の飛行機です。「インフレートプレーン」と呼ばれるもので、直訳すると「膨張式飛行機」となります。

インフレートプレーンの最大の特徴は、折り畳んでコンパクトにできる点です。エンジンとプロペラは機体から外せるようになっており、それらを外した機体は空気を抜くことで、1畳以下の大きさにまとめることができます。この大きさなら、トラックどころかジープクラスの車両の荷台にも載せられるほか、コンテナに詰めてパラシュートで落とすこともできました。

グッドイヤーは1955(昭和30)年に「インフレートプレーン」を企画しますが、アメリカでは1931(昭和6)年、ラバーグライダーの試作実験がすでに行われていたため、そのデータを基にわずか12週間で設計から製造まで行って、1956(昭和31)年2月13日に初飛行へとこぎ着けました。

ところが計画中止 理由は「風船」ゆえ

インフレートプレーン」の機体はゴムとナイロンメッシュの多層構造で、同じ素材のエアマットを用いた耐弾試験では、最大6発の7.62mm機銃弾を受けてもパンクせず空気圧を保持できることを実証しています。なお、機体を膨らませるにはコンプレッサーを用いて約5分といったところでしたが、もちろん人力の空気入れでも可能でした。

サイズは、ひとり乗りのGA-468が、全長5.97m、翼幅6.7mで、出力40馬力の2サイクルガソリンエンジンを1基搭載し、最大速度は約116km/h、20ガロン(約76リットル)の燃料で約630km飛ぶことができました。

またふたり乗りのGA-466も作られ、こちらの方が翼幅は大きく、エンジンも強力なものを搭載していました。

完成した「インフレートプレーン」を、グッドイヤーはまずアメリカ陸軍に売り込みます。しかしテスト飛行中に墜落したことで売り込みは失敗に終わりました。墜落は主翼の下に張られていた動翼(エルロン)制御用の金属ケーブルが滑車から外れ、その影響で主翼が変形したことによるものでしたが、やはりゴム製ということで、強度的に不安視されたのだと考えられます。

そののち、グッドイヤーは海兵隊に売り込んだり、降着装置を車輪から水上スキーのような板(スキッド)に交換してアメリカ海軍に売り込んだりもしましたが、どこにも採用されませんでした。

インフレートプレーン」はテストや売込みのために計12機が製造されるも、結局1973(昭和48)年に計画は打ち切られてしまいます。のちにグッドイヤーは機体のいくつかを、アメリカ各地の航空博物館に寄贈したため、現在では航空科学分野のいち試作品としてその姿を見ることができます。

「インフレートプレーン」の試作機がテスト飛行を終えて着陸するところ(画像:アメリカ国立公文書館/NARA)。