体温のような気温が計測される日もあり、もはや猛暑日という言葉も日常的に使われるようになってきた今日この頃。そんなうだるような暑さが続く今の時期に、うってつけの温泉があるのをご存じだろうか。「この暑いのに温泉?」と思うかもしれないが、今回紹介するのは冷たい温泉、「冷泉」。それも、冷たさがけっこう本気な冷泉だ。

それが、大分県の「寒の地獄温泉」。名前からして期待感が高まるが、実際その名に違わぬ実力の持ち主。まず気になる水温だが、13~14度。冬の海水温が15度程度という話もあるので、冬の海より冷たいところに浸かることになる。ちなみにこの冷泉は混浴で、男女ともに水着を着用して入る。ここで参考としてひとつの情報なのだが、海水温について調べているうちに行き着いたサーフィンサイトによると、冬のサーフィンは水温15度~20度が目安で、「20度あればウェットスーツを着ていればそこそこ快適にサーフィンできます」とのこと。それより5度も低いところに水着1枚で入るのだ。まさに寒の地獄。

そして寒の地獄温泉のサイトには、入浴法に関する説明文が掲載されているのだが、それがこの冷泉の過酷さをさらに明らかにしている。

「最初の1~2分間は大変冷たく皮膚に刺激を感じますが、これは含有薬分の関係ですから3分くらい経ちますと刺激を感じなくなります。それからは各自の体力と忍耐で入浴時間はまちまちですが、ある程度時間が経ちますと中で震えが始まりますので、その時浴槽から上がり、身体を拭かないで別室の暖房室(ストーブ)で充分あぶりこみ暖をとってください」

……肌に刺激、そして震えである。入浴に際して「体力と忍耐」とかいう言葉が出てくるところも異色だ。そして体が震えるまで浸かったらすぐさま別室のストーブのもとへ向かうという、往年のテレビ番組のワンコーナー「熱湯コマーシャル」の逆バージョンのような入浴法。何もかも風変りだが、サイトによると「これは医学的にも大変効果のある療養法だといわれている」そうだ。

しかし、そんなに冷たい水に長時間、ただ浸かっているのは辛い。そんな人たちを励ますべく、冷泉のわきには「冷泉行進曲」なる歌の歌詞が掲げられている。恐らくこれを歌いながら入って気を紛らわせろ、ということなのだろう。次にその歌詞を掲載した。


一、なほして来るぞと勇ましく 誓って家を出たからは 根治(こんじ)させずに帰らりょか 冷たい水の面見る度に 瞼に浮かぶ母の顔

二、石も木片もみな凍る 果てなき寒さかみこらえ 進む日の本男の子じゃと 両の腕をなでながら あとのふるえを誰か知る

三、玉の肌えも手も足も 暫しこごえ夢うつつ 声なき父上に なほして帰れと励まされ さめて睨むは線香の火

四、思えば今日の浴場で 寒さこらえてニッコリと 笑っていんだ病友が 一本半だレコードと 残した声が忘らりょか

五、寒い地獄はかねてから 冷い覚悟で来たものを 鳴いてくれるな草の虫 病気平癒のためならば 何のこれしき冷たかろ

冷たい水に耐えるための歌なのだが、瞼に母の顔が浮かんだり、父の声に励まされたりと何だか話が大きなことになっている。そして何より、5番まであるので全部歌うとなかなかの時間になる。歌い切った頃には恐らく体も震え始め、ストーブに駆け込むのにちょうどいいタイミングになっているはずだ。

ちなみにこの冷泉は水虫などの皮膚病への効能があるほか、神経痛やリューマチ、胃腸病、糖尿病、婦人病疾患などへの効果が期待されるという。ちゃんと暖かい温泉もあるので、体が冷え切ったらこちらでしっかり温まることもできる。混浴なので、友達や恋人と我慢大会感覚で入ってみるのも楽しいかもしれない。

さすがにここまで寒いのは辛いという方には、温泉よりは少しぬるめの「ぬる湯」がおススメだ。ぬる湯の温度はだいたい30~35度前後なので、これならリラックスして長湯できそうだ。ぬる湯は関東にも多く、山梨県の下部温泉や群馬県の川古温泉、長野県の角間温泉などがある。夏休みにちょっと足をのばして浸かってみるのもいいかもしれない。ぬる湯を特集しているサイトもあるので、ここから好みの温度の湯を探して、癒されてみてはどうだろう。

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暑い夏におすすめ! ぬる湯に入れる宿(ゆこゆこネット調べ)

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