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ラリーへ4輪駆動を持ち込んだクワトロ

text:Chris Chilton(クリスチルトン)
photo:Olgun Kordal(オルガンコーダル)
translationKenji Nakajima(中嶋健治)

 
誕生当初から際立った存在を狙うことは難しいが、カリスマ性を備えたクルマとなるには、初めが肝心だ。

アウディクワトロは、初めての高性能な4輪駆動クーペというわけではなかった。ちなみにクワトロといっても、今のアウディの4輪駆動システムのことを指すわけではない。

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アウディクワトロ 10V/ランチアデルタHFインテグラーレ 8V

4輪駆動にV8エンジンを搭載したジェンセンFFは、クワトロより15年も早く誕生している。だが販売台数は伸びず、1971年に消滅した。

その10年後、アウディは同様のコンセプトを2輪駆動が主流だったラリーステージへ投入。優れた競争力で席巻し、モータースポーツとスポーツカーの成り立ちを変えることになる。

ポルシェ917にも関わったフェルディナント・ピエヒの指示により、オフロード走行に優れた技術として、4輪駆動のラリーカーを考案したアウディ。影響を受けたランチアも、4輪駆動のデルタS4を生み出す。

ドイツアウディが挙げた世界ラリー選手権WRC)での2度のマニュファクチャラーズ・タイトルに対し、イタリアランチアは通算で6度も獲得。ドライバーズ・タイトルは、アウディの2回に対し、3回獲得している。

1980年代から1990年初めに作られた比較されがちな記録だが、アウディクワトロランチアデルタは、ラリーステージで直接競い合ってはいない。巨大なフロントスカートを持つ、ショート・ホイールベースのスポーツ・クワトロが誕生するものの、グループB時代の終焉とともに姿を消してしまう。

グループBからグループAへ

早く生まれたアウディクワトロは、グループB以前の、グループ4の規定に合わせた設計。プジョー205 T16やランチアデルタS4など、初めからグループB規定で生まれたスーパーマシンに苦戦を強いられた。いずれも名前は市販車と共有するものの、ミドシップのラリー専用マシンだ。

ところが競争が激しくなりすぎ、1987年グループBが廃止される。1986年世界ラリー選手権ツール・ド・コルスで、デルタS4をドライブするヘンリ・トイヴォネンがコースアウトし炎上。死亡する事故も、廃止へと導いた理由の1つ。

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アウディクワトロ 10V/ランチアデルタHFインテグラーレ 8V

WRCグループAと呼ばれる新しい規定で再構成されるが、再びレースをリードしたのはランチア。初期のアウディクワトロと同様に、ランチアディーラーで購入できる量産モデルに近いマシンとなっていたのが特徴だ。

それから30年が経った。アウディクワトロランチアインテグラーレは、どちらも強く心に響く。オーナーとなるのに必要な費用も同じくらい。

2台ともパーマネント式の4輪駆動を備え、気象条件を問わない走りを叶えている。だが、4シーズンのデイリークラシック、毎日乗れるクラシックモデルとして、どちらがベストだろうか。

今回は英国西部、ブレコン・ビーコンズで乗り比べる機会を設定した。かつてのRACラリーのルートからも、そう遠くはない場所だ。

赤いハッチバックは、スティーブン・ジェフリーブラッドリーが所有する8バルブのランチアデルタHFインテグラーレ。白いクーペは、ダロン・エドワーズがオーナーの、10バルブのアウディクワトロだ。

アウディ80を匂わせるプロポーション

両車ともに見た目はタフ。膨らんだフェンダーには、大きなホイールが納まる。より引き締まったスタンスを取るのはデルタ。15インチ・ホイールがボディの4隅に収まり、余分なオーバーハングはない。

並べてしまうとアウディの方は長すぎ、ホイールも小さく見える。1978年サルーンアウディ80からメカニカル・レイアウトを受け継いでいることを匂わせるプロポーション。縦置きの5気筒エンジンに前輪駆動がベースとなる。

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アウディクワトロ 10V

まずは40才を迎える白いクワトロから。このUrクワトロは、WR、MB、RRの3世代に分かれている。1980年のWR型に載るのは2144ccの10バルブ直列5気筒。1988年になると2226ccのMB型へとバトンタッチする。

外見からは、エンジンがフロントアクスルからどれだけ前方に出ているのかわからない。賢いセンターデフがトランスミッション後方に取り付けられ、かさばるトランスファーなしに、4輪駆動を実現している。

最高出力は200psと同じだが、MB型には油圧バルブリフターと改良を受けたフュエルインジェクションが採用され、環境には優しい。1989年には、最終型のRRが登場。4バルブヘッドを採用し220psを獲得している。

エドワーズのクワトロは初期のWR型。1986年製で、当初の四角い4灯のヘッドライトではなく、ボディラインと一体の大型レンズを採用したモデルだ。

細身の6J 15インチホイールはロナール製。当時はオプションで7Jのフックス製も選べた。両方で8インチ広げられたフェンダーに合わせてオフセットされている。タイヤサイズ215と珍しく、交換時は同じサイズを探すのが大変だという。

ブーストが掛かった途端に鋭くなる

英国人にとって大きかったのは、1982年アウディクワトロへも右ハンドル車が用意されたことだろう。座り慣れた位置のドライバーズシートは、スタート直後から熱く運転するのにも好適。左ハンドルで評価の振るわなかった内容も、そのまま受け継いでいる。

当時のクワトロの価格はポルシェ911に迫るものだったが、スイッチ類の仕上げは、どう見ても安っぽい。その頃のポルシェダッシュボードも、今ほど洗練されたものではなかったのだが。

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アウディクワトロ 10V

着座位置は低く、驚くほど寝かされたフロントガラス越しに、長いボンネットを見渡す。1983年以降のクワトロには、デジタルメーターが採用されている。初めは緑色に光ったが、モデル後期はオレンジ色になった。

新車当時はとてもハイテクな仕掛けに感じただろう。でも、視認性が良いとはいえない。現代のデジタルモニターを採用したメーターパネルとは違う。

初期の10バルブのクワトロでも、現代の平均的なホットハッチより速い。穏やかな回転時は、5気筒エンジン特有のサウンドは奇妙なほど静か。

アクセルペダルを踏み倒すと、初期のレスポンスは驚くほど威勢がいい。しかしターボブーストが掛かるまでは本領は見せない。

ブーストが掛かった途端、吸気音と排気音が高まり、鋭く加速を始める。ターボのブローオフ・サウンドを鳴らしながら、クワトロは丘を一気に駆け登った。

続きは後編にて。


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