社会インフラのひとつとして運行する鉄道業界で、新型コロナ感染が拡大したらどうなるのでしょうか。接客がメインの駅係員のほか、運転士や保線作業員、列車運行を管理する指令員が勤務できなくなれば、機能不全に陥るでしょう。

エッセンシャルワーカーたる鉄道職員 迫る新型コロナの脅威

政府より緊急事態宣言が発出された後も、新型コロナウイルスの影響はとどまることを知りません。新幹線在来線の乗車人員は大幅に減り、JR北海道の社員一時帰休(企業が操業短縮などする際、従業員を在籍のまま一時的に休業させる制度)問題をはじめ、一部列車の運休を発表する会社もあるなど、鉄道業界にも甚大なダメージを与えています。

鉄道職員への新型コロナウイルス感染も確認されており、2020年2月にはJR相模原駅の係員、4月に入ってからも阪急電鉄西武鉄道でそれぞれ確認されています。

一部の事業者は減便対応も始めていますが、2020年4月17日(金)現在、いまだに多くの鉄道は平常運行をしています。そうしたなか、SNSなどでは「減便することで列車の本数が減れば余計に混雑する」という批判の声も多く見られ、確かに物理的にはそう考えるのが自然かもしれません。ともあれ、「人との接触8割減を目指す」という目標にコミットするためには、現在のような平日の電車利用状況では、恐らく達成は難しいでしょう。

海外では、都市封鎖の状況でも人々の生活のための仕事に従事し、働き続けている人のことを「エッセシャルワーカー」と呼んでいます。日本全国で休業要請が続々と出されるなか、鉄道現場の職員もこのエッセシャルワーカーに分類されます。

すぐに交代がきかない運転士や車掌 ニューヨークでは鉄道利用制限も

感染爆発が発生しているニューヨークでは、MTA(都市交通局)職員の大規模感染が確認され、大きな問題となっています。このため、地下鉄も乗務員不足により運行本数が激減しました。同局ウェブサイトには「エッセシャルワーカーや緊急の医療案件ではない人は、地下鉄・バスを利用しないでください」と掲げられており、いまだ鉄道の通勤利用者が多い日本の都市圏と比べて、数段上の深刻さであることも分かります

では、鉄道の現場における新型コロナウイルスの感染拡大は、実際にどのような影響を与えるのでしょうか。

まず運転士、車掌などの乗務員への感染は、ニューヨークの例を見ても分かるように、ダイレクトに鉄道運行を揺るがすことになります。たとえば運転士になるには「動力車操縦者運転免許」の資格が必要です。しかし免許があってもすぐに運転できるわけではなく、仮に一度運転士を退いたスタッフを呼び戻すとしても、単独で運転させるには、一定期間の訓練を施さなければなりません。

また、車掌についても訓練が必要となり、同様のことがいえます。感染リスクを抑えるため、すでに車内巡回などの車掌業務を中止しているところも多いようです。

駅係員、定期券の払い戻しで接客業務増 指令員の感染も危惧

次に車両、電気、保線などの技術係員です。車両の定期検査は省令によって定められているほか、線路や信号、施設なども、常に安全運行できるよう管理する必要があります。

4月13日(月)、JR大阪環状線の橋桁にショベルカーが接触したという事故がありました。このような非常事態の際にも係員が駆けつけ、復旧対応をする必要があります。もちろん、これらの職種も技術がモノをいうので、即座に代替要員が確保できるわけではないのです。

そして、最も感染を恐れているのは駅係員かもしれません。日々接客する機会が多い窓口での勤務者は、最も感染リスクが高いともいえます。実際に、前述したJR東日本阪急電鉄の感染事例も駅係員でした。緊急事態宣言発出後はテレワークの開始にともない、定期券の払い戻し対応が増加しているともいいます。

また、駅では窓口だけではなく、ポイントなどを操作する権限を持つ「信号扱者」や、車両基地と駅を行き来する「構内運転士」なども、時間帯によっては接客している場合があります。これらの職種も専門的な知識や技能が必要なので、もし罹患すれば、配置交代などの対応に追われるでしょう。

最後に、列車の運行を管理する指令員については、接客は行わないので業務上の感染リスクは少ないものの、万が一指令所内でのクラスターが発生したとなれば、鉄道の指示系統の根幹を揺るがすことになります。そもそも乗務員などと比べて少人数の職場なので、もし濃厚接触者が複数、自宅待機などの事態になれば、減便どころか運行全体が危機的状況となることも予想されます。

水際対策に追われる現場 緊急事態に備えてのダイヤとは

事業継続計画(Business Continuity Plan:BCP)とは、非常事態下においても事業者の基盤となる業務を継続できるように策定される計画のことです。鉄道においても多くの事業者はこの計画のもとに緊急用ダイヤを設定しています。想定としては、乗務員に新型インフルエンザなどの感染症が流行した場合で、その欠勤割合によっては運行を5割減にすることを検討する事業者もあります。

幸いにも国内では、現時点で鉄道現場での大規模感染が見受けられないため、いまのところは通常運行できているともいえます。逆にいえば、ひとたび乗務員に感染拡大すれば、ニューヨークのような事態を招きかねないことも分かります。これは決して対岸の火事ではありません。

現在、駅によっては無人化や窓口閉鎖、乗務員が通勤する運輸区ではマスク配布や消毒液の配置および携行、3密を防ぐ換気などの対策を講じているそうです。また、各職場でも検温を実施して、摂氏37.5度以上の熱があれば出勤停止の措置を取っているところも多いようです。

緊急事態宣言発出後の鉄道利用者数は、減少したともいわれています。しかし、それでも都市圏を中心にまだまだ多く、窓を開けたり排気扇を使ったりするなど取り急ぎの対応をしていますが、現場は日々戦慄しています。

テレワークのできない鉄道員に感染が拡大したとき、いよいよ鉄道運行は危ぶまれることになってしまうのです。

発車を見送る駅係員。写真はイメージ(画像:PAKUTASO)。