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「寒い時期の撮影で、体はキツいし、お酒は飲めない。主演といっても何もいいことなかった(笑)」

そう語るのは、『一度も撃ってません』(近日公開)で約18年ぶりに映画の主演を務めた石橋蓮司(78)。ハードボイルド気取りの売れない小説家・市川進をときに渋く、ときにコミカルに演じている。サングラスやトレンチコートがこれほど似合う役者はいないと感心しつつも、まるで時代遅れの主人公に思わずクスッと笑ってしまう。

「市川には昭和の男のこだわりみたいなものがあって、時代に合わせて自分自身の路線を変えられない。非常に不器用だと思いますが、それも昭和の人間のよさだと思って面白がってくだされば、と」

さらに、本作は’70年代を生きた人間たちの群像劇とも語る。まだ30代だった当時を振り返った。

「あの時代の若者は、日米安保条約に対する反対運動が盛んな社会情勢にあって、自分の居場所を模索していました。作家や建築家など表現者ともなればなおさら、自分のスタイルを作ろうと必死でしたよ。自分たち役者も、自分が何者であるかを自身の表現で主張しないと相手にしてもらえなかった。そういう意味では、個性が際立つ、セクシーな時代だったと思います」

共演は、市川の50年来の旧友を演じる岸部一徳、桃井かおりなど、石橋の戦友たちが顔をそろえた。

「聞けば、監督に『石橋蓮司最後の主演作だから出てくれ』と頼まれたらしい(笑)。まあ、それは冗談ですけど、もともとは、いまは亡き原田芳雄の家に集まっていたとき、かおりたちと盛り上がって生まれた話。撮影中は“俺ら、まだやってるぞ!”と、芳雄に報告するような気持ちで演じていました」

今作では妻に頭が上がらない市川を演じたが、実生活の妻で女優の緑魔子との力関係を聞くと。

「妻が強いかな、激しい人ですから。自分が不養生で酒やタバコもやるもので、よく叱られます。市川みたいな感じですよ(笑)」

夢は、妻と旗揚げした「劇団第七病棟」の公演を復活させること。

「廃校などを劇場に改築して公演するというスタイルでやってきましたが、今の時代、場所を確保するのがなかなか難しい。場所が借りられて、お客さんが望んでくださるのであれば、もう1回、老体にむちを打ってでもやりたいです」

最後に、つねに第一線で活躍するための秘訣を聞いた。

「飽きないように、自分に言い聞かせること。慣れることなく、何事も面白がるのが一番です」

「女性自身」2020年5月5日号 掲載