外出制限継続:賛成80%反対19%

 新型コロナウイルス感染拡大を防ごうと全米50州のうち40州以上で外出制限措置がとられてきた米国。その結果、経済は停滞し、失業者は急増。

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 各州各地で保守派団体が操っているとみられる外出制限措置解除を要求する抗議デモが起こっている。

 米国の感染者数は92万6000人、死者数は5万3000人と「世界最多」となっている(4月25日現在)。

 米国民の80%は外出制限措置を支持している。専門家の予測を信じているのか、米国民の51%が「今後さらに最悪の事態がやって来る」と見ている。

 それでも民主党支持者の64%が「来る」と答えているのに対し、共和党支持者は27%(無党派は56%)と対照的だ。

 だが、米国民の危機感は党派別に大きく異なっている。

 外出制限措置の継続を支持する人は全体では80%、不支持は19%。ところが党派別では民主党支持者で賛成が94%に対し、共和党支持者では61%になっている(無党派は84%)。

 ドナルド・トランプ大統領共和党州知事たちの楽観論の背景にはこうした共和党支持者の声が影響しているようだ。

https://www.kff.org/global-health-policy/issue-brief/kff-health-tracking-poll-late-april-2020/

先陣切ったサウスカロライナとジョージア

 共和党支持基盤の南部や中西部各州で共和党知事たちが次々と外出制限を解き、経済活動の一部再開の動きが広がっているのもそのためだ。

 先陣を切ったのはサウスカロライナ州のヘンリー・マクマスター知事(73)だ。

 4月20日、外出制限措置を解除し、デパートや書店、家具店、花屋などの小売店の営業を再開させた。21日からは海岸もオープンした。

(同州での新型ウイルス感染死者数は135人、死者数は人口10万人比で2.6人と極端に少ないことが外出制限措置解除の要因になっているようだ)

 4日後の24日には南部ジョージアメリーランドアラスカオクラホマ各州が経済活動の一部再開に踏み切った。

 各州ともにソーシャル・ディスタンシング社会的距離)などの「3つの密」排除の徹底は引き続き呼びかけている。

 感染死者はジョージア州の810人、メリーランド州の586人を除くと、オクラホマ164人、アラスカ州7人と比較的少数だ。

 それぞれ、理髪・美容院、日焼けサロン、刺青ショップ映画館ボウリング場が再開された。

 4月27日には南部のケンタッキー、ミッシッピー、テネシーやコロラド、ミネソタ、モンタナなど7州が外出制限措置を解除する。

 そして5月1日にはテキサス、オハイオ、ミシガンなど8州が経済活動を一部再開する。

 5月1日トランプ大統領4月16日に出した経済活動再開に向けたガイドラインで明示されている第1段階実施の初日だ。

 在宅勤務を実施してきた企業に従業員の段階的出社を認める一方で、レストラン映画館スポーツジムなどの営業も再開できる。

 学校の授業再開や不要不急の移動ができるのは第2段階以降になる。

アトランタ市長らは制限措置継続

 今注目されているのが感染拡大が続くジョージア州の経済活動一部再開だ。

 州知事は共和党ブライアン・ケンプ氏(57)。2020年の選挙で民主党候補に得票数1.39%差で辛くも勝った。

 州務長官を7年間務め、その間に黒人有権者に不利になる選挙制度改正を断行。また業者との癒着や職権乱用などの容疑がこれまでに取り沙汰されてきた。

 下院監視政府改革委員会は同氏の職権乱用容疑を調査中だ。

 トランプ大統領との関係では、2019年同州選出の上院議員が急遽引退するのを受けて知事特権で後継者を選ぶ際にトランプ氏が推薦する現職下院議員を退け、地元ビジネスウーマンを指名してぎくしゃくしたことがある。

 ケンプ知事の今回の決定についてトランプ氏は「次期尚早」だと反対している。

 トランプ氏は「この時点で再開することに賛成しないが、知事が正しいと思えばやればいい」と下駄を預けている。

 というのもジョージア州では新型ウイルス感染者2万3216人、そのうち死者907人(4月25日現在)が出ており、今後さらに増える可能性が大だからだ。

 それに専門家や同州医師会は医療施設や機器の不足を憂慮しており、この時点での外出制限解除に真っ向から反対している人が少なくない。

 さらに同州内のアトランタ市やメンフィス市(シルビー郡内にある)の市長たちは、知事の決定以後も市は外出制限措置を堅持すると表明している。

背後に保守派団体の影

 ケンプ知事がなぜ、他州に先駆けて経済活動開始に踏み切ったのか。

 地元紙「アトランタジャーナル・コンスティテューション」のベテラン記者K氏は筆者にこう解説している。

「ケンプ氏は不動産業者から州上院議員になり、その後長いこと州務長官を務めてきた。目立ちたがり屋で毀誉褒貶の激しい地方政治家だ」

「今回の新型ウイルス禍が起きた時にも外出制限措置に踏み切ったのは全米でも最後で、『ニューヨークで(新型ウイルス禍で)大変なことになっているからと言って(人口規模の異なる)ジョージア州が同じような措置をとるのは問題だ』と主張してきた」

「支持基盤はアトランタなどの大都市ではなく、エバンジェリカルズ(キリスト教原理主義者)や草の根保守派『ティーパーティ』(茶会)の人たちが住む非都市圏の中小都市、農村地帯だ」

「支持者の中には『新型ウイルス禍は神が下した天罰だ』と本当に信じている人も少なくない」

「こうした地域では外出制限措置が出てもそれに従わないし、マスクなどしない人も少なくない」

「ケンプ知事が外出制限解除を決定したもう一つの『要因』は、選挙資金や集票などで支援してくれた保守派団体からのプレッシャーだった」

「同団体は、健康保険改正制度(オバマケア)や銃規制強化に反対してきた勢力で今回は経済活動に支障をきたす州政府の決定には最初から猛反対してきた」

「ケンプ知事は、支持基盤である草の根保守と保守派団体からの圧力には逆らえず、感染が収まるという確たる保証もないままに経済活動の再開に踏み切らざるを得なかったといえる」

再開は大統領選、上下両院選の前哨戦?

 K氏が指摘した保守派団体の代表格は「コンベンション・オブ・ステーツ(Convention of States=全米州代表者会議)」だ。

 同団体の理事長はマーク・メクラー氏。保守派億万長者のコーク一族やトランプ政権のベッツィ・ダボス教育長官などとも太いパイプを持っている。

 同団体はフェイスブックなどに「米国民を束縛から解放せよ」「米国は自由の国だ」といった政治広告を頻繁に載せており、その合言葉は全米各地で繰り広げられている市民がプラカードに書いている。

https://www.washingtonpost.com/politics/inside-the-conservative-networks-backing-anti-quarantine-protests/2020/04/22/da75c81e-83fe-11ea-a3eb-e9fc93160703_story.html

 主要メディアの政治記者W氏は、筆者にこう指摘している。

「保守派団体は、表向きは外出制限措置の解除、経済活動再開を叫んでいるが、標的は、経済活動再開よりも外出制限措置の継続を優先する民主党知事たちだ」

「秋の大統領選でのトランプ再選と上下両院、知事選を視野に入れた前哨戦だ。トランプ大統領は当初から新型ウイルス禍を過小評価してきた。いずれ収まると見ていた」

「このまま感染拡大が続き、経済が完全にマヒしたままでは、再選のための金看板の経済実績は地に落ちる」

「それは再選がないことを意味する。上下両院選、知事選でも共和党は勝てない」

「そうさせないためには感染拡大が少ない州から経済活動を再開させ、ウイルス禍が収まった段階で一気に経済回復を推し進める算段なのだろう」

「何よりも一日も早く経済活動を再開させたいと考えている。保守団体はそうしたトランプ大統領の意向を踏まえて民主党が牛耳っている州の知事を狙い撃ちしているわけだ」

「問題はそれが吉と出るかどうかだ」

ニューヨークなど6州は「東部連合」結成

 米全土を見渡すと、新型ウイルス禍が猛威を振るっている州の知事は民主党員が多数を占めている。

 人口10万人あたり76.2人の死者を出しているニューヨーク州(アンドルー・クオモ知事)、53.5人のニュージャージー州(フィル・マーフィ知事)、39.9人のコネチカット州(ネッド・ラモント知事)、30.2人のルイジアナ州(ジョン・ベル・エドワーズ知事)、3.3人のカリフォルニア州(ギャビン・ニューサム知事)はみな民主党員だ。

https://www.nytimes.com/interactive/2020/04/22/us/coronavirus-death-rates.html

https://www.mercurynews.com/2020/04/24/coronavirus-this-is-where-all-50-states-stand-on-reopening/

 トランプ批判の急先鋒、クオモ知事などはトランプ大統領の経済活動再開のガイドラインについて真っ向から反対。

「今経済活動を再開すれば新型ウイルスの第2波の被害を招く。愚かな行動を起こす時間などない」と牽制している。

 クオモ知事のニューヨーク州はニュージャージー州など6州と「東部連合」を形成し、経済活動再開の時期や条件で統一行動をとることを決めている。

 またニューサム知事のカリフォルニア州は、ワシントン、オレゴンの西部2州と「西部連合」を結成して行動歩調をとることを決めている。

 新型ウイルス禍にどう対処していくか。トランプ共和党民主党はその方法論で真っ向から対立している。

 ジョージア州をはじめとする南部州が経済活動の一部再開に踏み切ったが、カリフォルニア大学ジャーナリズム大学院のJ教授は経済効果についてこう解説する。

ジョージア州の年間国民総生産(GDP)は4611億ドル。他の南部州も似たり寄ったりだ。それに比べると。カリフォルニア州GDPは2兆7510億ドル」

ニューヨーク州のGDPは1兆7320億ドル。2つの州のGDPを合わせると米国のGDPの22%を占める」

「米国経済が立ち直るにはこの2つ州が経済活動を本格的に再開しないことには何も始まらない」

 それにしても自称「戦時大統領」と命名したトランプ大統領

 公式の記者会見の席上、「殺菌剤を注射すればウイルスは倒せる」と言ったり、「(抗マラリア薬の)ヒドロキシクロロキンは効くらしい。ホンジュラスの大統領から聞いた話だ」などと冗談か、戯言か分からないような発言をしたりしている。

 唖然としているのはその場にいた記者たちだけではない。筆者の知人の共和党支持者も開いた口が塞がらない様子だ。

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