長年の闘病の末であれ、不慮の事故であれ、どんな形であっても死は誰にもいつかは訪れます。そして、亡くなった人を送る葬儀で責任者となるのが「喪主」です。

「喪主をやるのが不安です。自信がありません」という声を聞くことがあります。ワイドショーなどでは、「喪主がやるべきことは何百項目もあります」といっていることがありますが、実際には大げさに言い過ぎです。

 考えてもみてください。一般的に、人が亡くなればお葬式をします。そうした中で、「あの人は喪主の仕事がまともにできなかった」という話を聞いたことがあるでしょうか。

 筆者は葬儀社の立場ですが、喪主を務め切れなかった人を一人も知りません。不慣れでも、よく分からなくても喪主は“務めるもの”で、上手にやる必要は特にないので、心配はいりません。

 分からない部分は、古くは「世話役」がフォローしましたし、現代では葬儀社が喪主に、行う内容や決定してもらうことなどを教えてくれるので、アドバイス通りに進めていけば大丈夫です。

喪主の役割とは何か

 誰かが亡くなれば、誰かが喪主を務めます。亡くなった人に近しい人が務めることが一般的ですが、明確な決まりというのはありません。古くは、跡取りが務めるのが一般的でしたが、現在では配偶者がいれば配偶者が、そうでなければ年齢の順で子どもたちが務めます。

 子どもの男女についてはあまり気にしなくてもいいですが、墓の継承者である長男が務めたり、同居の子どもが務めたり、慣習などに従って決める場合があったりするので、葬儀社にアドバイスを求め、家族で話し合い、柔軟に決定していけばよいでしょう。特に固定されたルールがあるわけではないので、最終的には家族で決めることができます。

 喪主の仕事はたくさんあるように見えますが、基本は「みんなの意見を聞いて取りまとめること」と「出棺のあいさつ」です。

 葬儀をする上で、さまざまなことを決めていかなくてはいけません。その最終的な決定をし、責任を取るのが喪主です。会社でいえば、最高経営責任者(CEO)ということになります。

 つまり、喪主は家族みんなの意見を聞いて調整し、落としどころを考えて、決定する責任を取る立場なので、実はあまり自由ではありません。葬式という大ごとを滞りなく進めていくためには、自身の希望もあるでしょうが、家族みんなの意思を尊重し、妥当な着地点を見つけて決定します。いわば、零細企業、中小企業の社長のようなものです。

 もう一つ、喪主の大きな仕事として、火葬場に出発するときの「出棺時のあいさつ」があります。今どきは葬儀屋さんが例文をくれますし、そこに故人の人柄や亡くなるときの病状の経過を書いて読み上げるのが一般的ですから、ゆっくりと丁寧に、書いたものを読み上げれば大丈夫です。

 まれに、感情が込み上げて読めなくなってしまう人もいますが、そのときは葬儀社の司会がフォローしてくれます。読み切れない場合でも、読み切れないことで気持ちの入ったよいあいさつになるのです。時間にして3分程度なので、原稿を書き、なくさないように上着のポケットに入れておくといいでしょう。

「人前でのあいさつなのに、書面を見て読み上げてもいいの?」と聞かれることがありますが、日本の礼儀作法では、正式なあいさつは書面を読み上げて行うのが行儀のよい作法になっています。

 会社の訓示などでも、たとえ暗記しておくような場面であっても、正式に行う場合には書面を持ち、しっかりと読み上げます。お坊さんも葬式のときには、お経を暗記していても、経本をしっかり広げて読み上げるものです。日本での、正式な間違いのないあいさつというのは「書面を読み上げるもの」ですから、暗記する必要がありません。

 書いた文章に自信がない場合は、担当する葬儀社に文面を見てもらい、言葉遣いに不備がないかどうか確認してもらうこともできます。

喪主は複数人でもいい?

「喪主と『施主』はどう違うの?」という声もあります。

 最近では喪主と施主を兼ねることが多いですが、喪主がCEOだとしたら、施主は最高執行責任者(COO)、つまり支払いの責任を持つ立場の人です。ほとんどの場合、葬儀代金は故人の財産や預貯金、保険金などで支払われるので、特にやることがあるわけではありません。喪主が葬儀のCEOなら、施主はCOOだと思っておけばよいでしょう。

 さて、インターネットのサイトなどを見ると、「喪主は複数人で務めても構いません」と書いてあることが多いですが、喪主は「あるじ」ですから、原則1人です。

「どうしても名前を連ねたい」「兄弟で平等にしたい」という希望があるときは複数人にする場合もありますが、運用で柔軟に受け止めているだけで、原則は1人の方が望ましいです。家族の意見が分かれたとき、最終的に決める人間は1人に絞った方が話をまとめやすいですし、決定に伴う責任の所在が明らかになるからです。

 儀礼ごとにおいては「原則と運用」で動いている側面があるので、原則がある上で、程よく崩して運用した方がうまくいく場合もあります。例えば、「喪主を務めるのは長男が本来だが、同居して面倒を見てくれた次男を喪主として連ねたい」という場合には、運用で“2人喪主”にすることがまれにあります。

 同様に「高齢の配偶者が存命だが、認知症で葬儀には出られない」といった状況のとき、誰が喪主を務めるのかが問題となるでしょう。これも、家族でのケース・バイ・ケースです。そのまま子どもが喪主を務めることもありますし、「せめて名前だけは母を喪主にしてあげたい」という場合は、参列はできなくても喪主は母にして、実務は長男などが「喪主代理」として行うケースもあります。

「次は何を?」と聞きながら進める

 喪主を務めることに対して不安になる原因は、全体像が見えないからではなく、「次にやること」の段取りが見えないからです。

 これは葬儀社としての経験上言えることですが、「何からやっていいか分からない」という不安を口にする喪主さんは結構います。その喪主さんに対して、全てをいっぺんに話しても、把握し切れないこともあります。

 葬儀を無事に行うためには、「世話役」や「葬儀社」が代わりに全体像を把握して、やることの順番を提示すれば安心できます。仮に30個決めることがあったとしても、優先順位が分かっている人に助けてもらいながら決めていけばよいのです。

「葬儀屋さん、次は何をすればいいの?」は便利な言葉です。葬儀社を上手に使い、頼りにしていけば、特に不安なく喪主を務めることができます。

佐藤葬祭社長 佐藤信顕

喪主の役割とは?