ほぼ同時期のネット発表でも「差」
ともにネット上で発表された、トヨタの2台のニューモデル、ヤリス・クロスとハリアー。
日本でのニュースバリューに大きな開きがあるように思える。
今年(2020年)4月13日、新型ハリアーが発表(6月発売予定)され、発表時点では未公開の価格予測やレクサスRXとの商品比較など、ネット上ではハリアー関連のニュースが一気に増えた。
ハリアーのボディ寸法は、全長4740mm×全幅1855mm×全高1660mm、ホイールベースが2690mm。2LガソリンエンジンにはFFとダイナミックトルクコントロールの4WD、また2.5LハイブリッドではFFと後輪をモーター駆動するE-Fourを搭載する。
スペックからもわかるように、2018年末からアメリカで、日本では2019年4月から発売されている5代目RAV4と、次世代車体のTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)プラットフォームGA-Kを共有化する。
こうした、事実上のRAV4派生車でありながら、オフロード性能を高めたRAV4に対して、都会派ラグジュアリー系のハリアーに対する市場の関心はとても高い。
背景には、一部アジア向けを除いて「ほぼ日本専用車」という、日本人好みを徹底追及したモデルであることが考えられる。
一方、4月23日発表のヤリス・クロスについては、現時点でハリアーに比べ関連ニュースが少ない印象がある。
なぜか?
相手が日本か? それとも欧州か?
ボディ寸法は、全長4180mm×全幅1765mm×全高1560mm、ホイールベースは2560mm。1.5L直列3気筒ガソリンエンジン車はFFと4WD。
リダクション機構付きハイブリッド車はFFとE-Fourがある。ヤリスとTNGAプラットフォームGA-Bと共用する。
このように、ハリアーもヤリス・クロスも「派生車」なのだが、2モデルは商品性に違いがある。むろん価格帯やターゲットユーザーは違うが、別の意味で違いがある。
その違いとは、主要な仕向け地だ。
前述のように、ハリアーは「ほぼ日本専用車」。一方のヤリス・クロスの主戦場は欧州である。
それを裏付けるのは、お披露目の場所だ。
本来、ヤリス・クロスは、スイス・ジュネーブモーターショー(一般公開2020年3月5日~15日)にデビューする予定だった。
新型コロナウイルス感染の拡大の影響で開幕直前にショーは中止となった。
欧州メーカー各社は、急遽行われたジュネーブショーのバーチャルプレスデーで新車を発表したが、トヨタはヤリス・クロスの詳細発表を1か月以上遅らせたことになる。
発売時期は、日本は2020年秋、欧州では2021年半ばの予定としているが、トヨタとしては欧州市場での販売に対する期待が高いはずだ。
ヤリス・クロス 「クロス」の意味
ヤリス・クロスの「クロス」とは、クロスオーバーを指す。
クロスオーバーに定義はなく、一般ユーザーが持つイメージは「クーペっぽいSUV」だ。
90年代にアメリカで高まったSUVブームの中で、多モデル化の一環としてクロスオーバーモデルが日米欧韓メーカーから続々と出現した。
そうしたアメリカ市場向けクロスオーバーは、ピックアップトラックなどのラダーフレームではなく、セダン乗用車のプラットフォームを共有化した。
一方、欧州系のクロスオーバーは、B/Cセグメントなどの小型車の車高や最低地上高を上げたようなデザインを用いるケースが目立つ。
つまり、欧州のユーザーにとってのクロスオーバーは、大衆向けB/Cセグメントモデルの派生車であることを実感することがブランドへの信頼と安心感が増すのだと思う。
その筆頭が、ミニ・クロスオーバー(欧州名:カントリーマン)。正直なところ、筆者(桃田健史)は2008年のパリモーターショーで実車の見た際、「BMWはここまでMINIブランドを徹底的に変えてしまうのか……。これを市場が本当に受け入れるのか?」と疑念を持った。
だが、2019年に長期間、テスト試乗して改めて、欧州クロスオーバーの価値を実感している。
では、日本でヤリス・クロスは売れるのか?
ニッチ市場も逃さずフルラインナップ
ヤリス・クロスの売れ行きを予測する上で、参考となるのがホンダ・フィットのクロスーバーである「クロスター」の動向だ。
日本での販売開始から約1か月後となる2020年3月16日、ホンダが発表したフィットの受注状況を見ると、5つのグレードの販売割合は、「ホーム」47%、「ベーシック」19%、「クロスター」14%、「ラグジュ」14%、そして「ネス」6%となった。
売れ筋のホームに比べて、クロスターはガソリン車、ハイブリッド車それぞれで約20万円高いことを鑑みると、かなり善戦していると思う。
となると、ヤリス・クロスもヤリス全数の10数%が狙えることが想定されるが、そうなるだろうか?
ヤリス発売から1年遅れという販売時期は影響しないか?
もう1つ気になるのは、ホンダに比べて圧倒的に充実しているトヨタ・ダイハツの小型SUVラインナップの中での、ヤリス・クロスの立ち位置だ。
上に「RAV4」と「C-HR」、下に「ライズ」「ロッキー」、さらに「タフト」という布陣の中で、ヤリス・クロスはニッチな存在に見える。
そうしたニッチ市場も逃がさないのが、トヨタ商法だともいえる。
日本でヤリス・クロス、はたしてどのくらい売れるのだろうか?
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