新型コロナウイルスの感染拡大で、勤務先が休業や廃業となり、生活に困る人が増えている。

総務省の統計によると、完全失業者数は176万人(前年同月比+2万人)で2カ月連続で増加。都市部の自治体を中心に、生活保護に関する相談や申請をする人が増えているという。

緊急事態宣言5月4日にも延長が発表される見込みで、生活保護の申請件数などがさらに増加しそうだ。

深刻な経済難において、生活保護制度がセーフティネットとして適正に機能するかどうかは極めて重要だ。

しかし、今回は自治体も全体として業務の休止・縮小などを余儀なくされており、マンパワーの確保も容易ではない。また、感染拡大を防ぐ観点から、対面する窓口業務を中心に難しい対応に迫られている。

コロナ禍の現在、生活保護の現場はどうなっているのか。申請などを支援している太田伸二弁護士に聞いた。

生活保護の増加、厚労省は柔軟な運用認める

ーー新型コロナで、自治体生活保護業務はどのようになっているでしょうか

新型コロナによる経済への影響は大きく、福祉事務所への相談件数がかなり増加したと聞いています。

生活保護の申請の際は、資産や収入だけではなく、家族構成やこれまでの生活歴などを詳しく聞き取る面談での調査が行われます。

しかし、新型コロナの感染が拡大している状況において、対面で長時間聞き取りを行うとなれば、福祉事務所クラスターが発生するおそれもありました。

そこで、厚労省は、以下の内容を含む事務連絡を出しました。

生活保護の開始の決定に必要な事項だけは面談で聞き取り、それ以外は後日電話で聴取することでもよい
・稼働能力を活用しているかどうかについては、保護の開始の可否を判断する際に考慮しなくてもよい
・自営で収入が途絶えたが、緊急事態宣言後に増収の見込みがあれば転職の指導をしなくてもよい

この他にも、新型コロナの問題が深刻化してから、生活保護の運用について柔軟な取り扱いを認める事務連絡がいくつか出ています」

「10万円」もらうと保護費は返還?

ーー生活保護受給者は10万円の特別定額給付金についてどうすべきなのでしょうか。「受け取ると保護費の返還を求められるのでは」という懸念の声もあるようです

「1人あたり10万円の特別定額給付金については、当初、『生活保護受給者を対象とすべきではない』との議論もありましたが、生活保護制度を利用している人達にも給付されることになりました。

次に問題となったのは『特別定額給付金が収入として認定されるか』という点でした。生活保護制度では収入があった場合、その分だけ保護費が減額される扱いがなされます。

この点について、貧困問題に取り組む団体等から、保護世帯も感染予防のための出費が生じたり、小学校の休校によって食費が増加したりしていることなどを踏まえ、『収入認定すべきではない』という意見が出されていました。

最終的に、厚労省も『収入認定しない』との事務連絡を出しています。

収入認定をする場合、1件1件の事務処理を行うことになります。その事務負担を、相談・申請が急激に増えている福祉事務所の現場に負わせるのは適切ではなく、『収入認定しない』というのは妥当な結論だと考えます」

住む場所を失う前に生活保護

ーー緊急事態宣言が延長されれば、生活に困窮する人がさらに増えることも考えられます

「今後、新型コロナの問題がより一層深刻化すると、解雇や雇止めを受け、住居を失う方が増えるのではないかと危惧しています。

住居を失ってホームレス状態になった場合、保護申請してアパートなどを借りられるまでの間、ホテルなどで宿泊して待つことができます。

ただ、これまではホームレス状態の方が生活保護の申請に行くと、無料低額宿泊所などの施設に行くよう福祉事務所が強く勧めているという実情がありました。

しかし、感染予防の観点から、多人数が生活する施設に入るよう勧めることには問題があります。

この点について、厚労省は、個室の利用を原則とするという事務連絡を出しました。

ただ、より重要なことは、住宅を失う前に生活保護や住宅確保給付金などの制度を利用し、住まいを維持することです。

生活保護制度については、マイナスイメージや感情を抱く人もいます。しかし、新型コロナの感染が拡大し、仕事をすることが難しい状況があれば、ぜひ命を守るためにためらわずに利用してもらいたいと思います。

なお、5月の連休中の各地の生活困窮者支援団体の活動については、ホームレス支援全国ネットワークのホームページで公開されることになっていますので、参考にしていただきたいと思います」

生活保護「決定のスピード化」が不可欠

ーー生活保護制度について、コロナ禍あらためて浮かび上がった課題は何かありますか

新型コロナの感染が拡大する中で、生活保護制度をより機能させるためには、開始決定をより迅速に行えるような運用の改善が不可欠だと考えます。

もともと生活保護制度は、保護開始時に財産があることが後から分かった場合には、それまでに受けた保護費を返還させるという仕組みになっています。

現在の状況下であれば、通常時のように金融機関への幅広い財産調査を行ってから開始するかどうかを決定するのではなく、申請者の手持ち資料や自己申告を前提にして、数日程度で保護開始の決定ができるようにすべきです。

これは、厚労省がそのような通知を出してもいいのですが、現状でも福祉事務所ごとの判断でできることです。

生活保護セーフティネットとしての極めて重要な役割を負っていること、現場の職員の感染リスク・業務負担を軽減することなどを考えて、ぜひ開始決定のスピード化を図ってもらいたいと思います」

生活保護、相談したいときは…

ーー「生活保護を受けていいのか」、「どのように申請すればいいのか」などで悩んでいる人もいそうです

生活保護の申請については、日弁連が法テラスに委託している事業を利用することで、申請者本人が経済的負担をすることなく弁護士に依頼できる場合が多いので、そちらの利用も検討していただければと思います。

また、生活保護の利用に関して、福祉事務所との間で問題が生じた場合には、生活保護問題に取り組む弁護士や司法書士で作っている各地の生活保護利用支援ネットワークなどに相談をしてください」

【取材協力弁護士
太田 伸二(おおた・しんじ弁護士
2009年弁護士登録(仙台弁護士会所属)。ブラック企業対策仙台弁護団事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、日本労働弁護団全国常任幹事。Twitter:@shin2_ota
事務所名:新里・鈴木法律事務所

コロナ禍の生活保護「決定のスピード化を」…職員のリスク、負担軽減にも