南極に落ちた火星の隕石

火星の隕石から生命の材料を発見 / Pixabay

 火星は人間から探査機やら何やらを一方的に放り投げられるばかりかと思いきや、意外にも地球目がけて放り投げてくることもある。たとえば、1984年に南極のアラン・ヒルズという地域で発見された1.8キロほどの隕石がそれだ。

 隕石は今「アラン・ヒルズ84001」と呼ばれているが、このほどその中から生命の材料が発見されたと、JAXA宇宙科学研究所などのチームが伝えている。

 『Nature Communications』(4月24日付)に掲載された研究によると、隕石の中から見つかったのは、窒素を含む有機化合物だ。これは生命には必須の素材で、まだ火星に海があったとされる時期の岩石から発見されたのは初めてのことであるという。

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In-situ preservation of nitrogen-bearing organics in Noachian Martian carbonates | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-020-15931-4#Abs1

大昔の火星を今に伝えるタイムカプセル

 アラン・ヒルズ84001は、まだ火星が誕生してまもない40億年前のもの。

 当時、火星には巨大な海が存在していたのではないかと考えられているが、隕石はその時代の様子を今に伝えるタイムカプセルのようなものだ。

 その特徴から、どうやらアラン・ヒルズ84001の正体は、1700万年ほど前に火星に凄まじい衝突が起き、それによって吹き飛ばされた地下の岩石であるらしいことが分かっている。

 宇宙に飛ばされた岩石はそのまま長い間、暗闇の中を漂っていたが、1万3000年ほど前に南極に落下した。

アラン・ヒルズ84001

image by:NASA - JSC

窒素――それは生命の基本単位


 発見された含窒素化合物がじつは地球の汚染物である可能性もないではないが、小池みずほ氏らの研究チームは、それが火星由来のものであることは十中八九間違いないとしている。

 以前、NASAキュリオシティによって火星で窒素が検出されたことはあるが、40億年前の火星に含窒素化合物が存在したことを示す確かな証拠が得られたのは初めてのことであるという。

 かつて火星が今よりもずっと生命に優しい星だった可能性を示唆する科学的証拠はどんどん増えているが、今回の発見もそうしたものの1つだ。

 窒素はDNAやRNA、さらにはタンパク質にも含まれており、地球上で暮らす生き物にとって不可欠の素材であるとともに、私たちが呼吸をしている空気の主要な要素でもある。

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ALH84001に含まれる鎖状構造 NASA

火星の隕石から生命の痕跡を発見か


 90年代には、アラン・ヒルズ84001から細菌の化石が発見されたという発表があり、その起源と性質を巡って、白熱した議論が交わされた。

 現時点で、それが本当に原始的な生命の痕跡なのかどうかについて、決着はついていないままだ。

 しかし今回、含窒素化合物が検出されたことで、生命の居住可能性を評価するうえで鍵を握る、火星の窒素サイクルについて貴重な手がかりが得られたことになる。

 仮に初期の地質学的プロセスか、隕石の衝突のどちらかによって、火星に多種多様な有機物が豊富に存在していたのだとすれば、含窒素化合物にはより複雑な形態に進化するチャンスがあったかもしれないと、研究チームは述べている。

 初期の火星の居住可能性について、さらなる研究が待たれるところだ。

References:A Piece of Mars That Fell in Antarctica Contains Ingredient for Life, Scientists Discover - VICE/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52290578.html
 

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