新型コロナウイルスの影響で、観光産業やホテル・旅館業界が深刻な打撃を受ける中、業界全体で危機を乗り越え、コロナ終息後の未来に楽しみを作ろうと奮闘する若きリーダーがいる。今回は、4月上旬のローンチから早くも100以上の宿泊施設が加盟した「未来に泊まれる宿泊券」をはじめ、現状を打破するための斬新なサービスを次々に打ち出し話題を集めているホテルプロデューサーの龍崎翔子さんに、その取り組みや今後の業界について話を伺った。

【写真】24歳で同社代表を務める、ホテルプロデューサーの龍崎翔子さん

24歳の龍崎さんは、「HOTEL SHE,」など全国に5つのホテルを経営するL&Gグローバルビジネスの代表も務める、ミレニアル世代を代表する経営者の一人。フォーブス・ジャパン主催の次世代を担う30歳未満の30人を選出する企画「30 UNDER 30 JAPAN 2019」でコンシューマー・ビジネス部門を受賞するなど、多方面から注目を集めている。そんな龍崎さんが業界の危機に瀕して立ち上げたさまざまなサービスについて、実現に至るまでの経緯やその思いを語ってくれた。

■業界を揺るがす、コロナ・ショック。破産・事業撤退を迫られるホテルも

待ちに待ったゴールデンウィーク。本来ならば、多くの人が旅行や帰省、イベントやコンサートといった、さまざまな“おでかけ”を楽しんでいたはずだ。“街・人・文化を繋げるメディア”という新たな価値を持たせることで、幅広い層から支持を集めてきた同社経営のホテルも、3月下旬までは昨年の売り上げを上回る月もあったほど、利用客数は好調に推移。ところがその後、事態は一気に深刻化したという。

「顕著に影響が出始めたのはロックダウンがささやかれだした3月末からで、桜のシーズンにも関わらず稼働が例年の50%程度となってしまいました。もちろん、営業を続けるという選択肢はなかった訳ではないのですが、状況が好転するとは思えず、従業員とゲストの安全を守るために休業を決意しました」

同社では、4月5日に全施設の休業を発表。緊急事態宣言の発令から約5週間が経過した今、観光業が完全に停滞している影響で、もともとの人気・不人気に関わらずホテル業界全体が厳しい状況に立たされていると龍崎さんは話す。

「資金力のあるホテルは休業をしているところが多く、その余裕がないところは現在も営業を続けざるを得なくなっています。1月・2月頃から廃業するホテルもちらほらありましたが、事態の深刻化を受けて今までかなり人気があったホテルも破産・もしくは事業撤退を決意するところが増えています。また、4月以降に開業予定だったホテルの多くは開業の延期を余儀無くされています」

また、もともと東京オリンピックの開催イヤーであった今年は、インバウンド需要拡大を見込んだ上で事業展開を行っていた観光関連企業やホテルも多い。同社では、オリンピックを意識したプランやサービスは予定していなかったものの、6月に実施予定だった詩人・最果タヒさんとのコラボコンセプトルームの開催延長や、ホテルをまるごと舞台に見立てた“体験型演劇作品”の上演など、残りは開催を待つのみだったプロジェクトすべてが中止もしくは延期となった。

■“未来の予約”でホテルの“今”を支援できる、画期的なプラットフォーム

宿泊客の激減により経営危機に陥る施設も多く、業界全体が苦境にあえいでいる。そんな現状を危惧して同社が始めたのが、いつか泊まりたいホテルや旅館の“未来の予約”をすることで、その施設を支援することができる、「未来に泊まれる宿泊券」の販売サービスだ。

「このままではいつか行きたいと思っていたホテルや、また泊まりたいと思っていた大好きなホテルへ、旅に出られなくなってしまう。そんな悲しい未来を防ぐために、“今”ホテルの宿泊券を購入することで支援できるようなプラットフォームを作りました」と龍崎さん。

すでに開発を進めていた自社予約プラットフォーム「CHILLIN」の一部機能を活用することで、驚異的なスピードでサイトリリースを実現。自身のTwitterアカウント(@shokoryuzaki)で告知したところ、4000を超える「いいね」と共に、「素敵なサービスですね!」「業界を勇気付けようとするアクション、素晴らしいと思います」といった多くの反響が寄せられた。全国のホテル事業者を巻き込む形で同サービスは広がりを見せ、すでに全国100以上の施設が加盟し、そのうち70以上で「未来に泊まれる宿泊券」が販売されているという。

さらに、4月30日までに同社経営の「HOTEL SHE,」を予約したゲスト専用特典として、「会えない今を、いつか誰かと思い出すためのタイムカプセル」と題したサービスを用意。将来ホテルを利用する時に、あらかじめ預けておいた手紙を部屋の中に用意してくれるという、ドアを開ける瞬間がまるで“タイムカプセル”を連想させるような、ユニークな予約プランにも注目が集まった。

「現在は経済全体が停滞しています。ですが、いつかまた旅に出る日が来るときのために、『このホテルに行きたかった…!』というような応援したい宿がある方は、ぜひ『未来に泊まれる宿泊券』の購入を通じてご支援いただけたら幸いです」

シェルター化に架空のホテル。この時代だからこその、ホテル活用術を模索

“今”ホテルにできることを模索し、時勢を映した取り組みにいち早く着手している同社。上述したサービスのほかにも、家で安全に過ごすことが難しい人とホテルをマッチングさせる「HOTEL SHE/ LTER(ホテルシェルター)」や、“オンラインにしか存在しない架空のホテル”をコンセプトにしたオウンドメディア「HOTEL SOMEWHERE」といった、新たなプロジェクトを次々と世に送り出している。先行きが読めない状況にある中で、ホテルプロデューサーの龍崎さんが大切にしている考えや、業界に必要だと思うものは何なのだろう。

「感染拡大はいつか終息し、また旅行が活発に行われる時代がやって来ると思いますが、その時期に関して楽観的な見方をしないように心がけています。観光業が苦境に立たされている場合には、自分たちが持っている建物や設備・人を活用して新しい事業を始めることを模索し、別の収益源を確保しようという働きかけが重要だと考えています」

現在は、ホテル業界全体で連帯しながら、ホテルを不動産業的・ケアサービス業的に活用する術を探している最中にあるのだという。「ホテルが新しい社会のインフラになればと願っています」と龍崎さんは続けた。

■いつかまたみんなで旅へ。明るい未来を作るために、求められるのは“連帯”

この苦難の時代を乗り切るために、業界のみならず、社会全体に“連帯”が求められている。観光・ホテル業、そして旅行やおでかけが好きだという人々へ向けて、最後にメッセージをもらった。

「いつかまたみんなで旅ができるまで、今はとにかく安全な場所にいましょう。そして、その準備をしましょう。ホテル業界が一丸となって、どうにか生き延びましょう。そして、明るい未来を一緒に作っていければと思います」

日本のホテル業界に新潮流を生むL&Gグローバルビジネスが、「#安心な世界で旅に出ようぜ」をキーワードに発信するさまざまなプロジェクトは、問題解決につながる大きな希望となるに違いない。今を乗り切り、かつてのようにおでかけや旅行を気兼ねなく楽しめる、そんな明るい未来へ向けて。自分にとって大切なモノ・コトを守るために、出来ることから始めてみよう。

龍崎翔子

L&G GLOBAL BUSINESS, Inc.代表/ホテルプロデューサー。

2015年にL&G社を設立。「ソーシャルホテル」をコンセプトに掲げ北海道富良野の「petit-hotel #MELON 」や、2017年9月には大阪・弁天町でアナログカルチャーをモチーフにした「HOTEL SHE, OSAKA」を手がける。2018年5月に北海道・層雲峡で廃業した温泉旅館を再生した「HOTEL KUMOI」をオープン。昨年2019年3月には京都・東九条「HOTEL SHE, KYOTO」をコンセプトを新たにリニューアルオープン。

取材・文 佐藤理沙子

L&Gグローバルビジネスが「未来に泊まれる宿泊券」の販売をスタート