(花園 祐:中国在住ジャーナリスト)

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 日本全国で猛威を振るうコロナウイルスに対する経済対策のうち、国内外を問わず今最も注目されている政策といえば、「日本国内の全居住者(外国人居住者などを含む)に対する一律10万円の特別定額給付金」のほかないでしょう。筆者が住む中国においても日本の同政策に対する注目度は高く、メディアなどでよく取り上げられています。

 中国における経済対策は今のところ、企業への税金権限や雇用補助金支給、生活困窮者への支援金支給などが主となっています。消費刺激策としては商品券の配布にとどまっており、現金を一律で支給する日本に対して「中国よりも社会主義的じゃないか」という声も聞かれます。

 そこで今回は、中国で行われているコロナウイルスへの経済対策の中身と、現金給付策に対する中国の見方を紹介します。あわせて、今回のコロナウイルスの流行によって見られた両国における政府への依存意識の差について考えてみたいと思います。

中国の主なコロナ関連支援策

 世界に先駆けコロナウイルスが全土で蔓延した中国では、これまですでに様々な経済対策や、生活補償支援策が実施されています。

 法人向けの支援内容は主に税制上での減免です。医療・衛生対策用品や設備の購入や販売に関して、税額を大幅に減免しています。またこうした製品を作るメーカーに対しては設備投資を促すため、新規設備購入代金に対する補助金が直接支給されていました。

 このほか休業中の企業に対しては、従業員の雇用を維持する前提で、一部賃金に対する補助金を支給する自治体もみられました。感染防止目的で営業停止命令が出されていた映画館など娯楽施設運営業者に対しては、日本同様に休業補償金が支給されています。

 個人向け支援に関しては自治体間で金額に差があるものの、疫病流行によって職を失い、生活が困窮した市民への生活補償金を支給する自治体は少なくありません。中には吉林省のように、感染者の治療に携わる医療従事者に対して1日当たり300元(約4500円)の特別手当を支給する自治体もありました。

 一方、現金給付のような消費刺激策については、中国国内の全居住者を対象とした一律給付というのは行われておらず、議論もされていません。現金給付を独自に行っている一部自治体もありますが、その大半は、食品などの購入に用途を限定した商品券を配布する形態が取られています。なお、こうした商品券を電子商品券で支給する自治体に対しては、機械操作に慣れない高齢者への配慮に欠けるとの指摘が出ています。

10万円に中国人留学生「助かる」

 今回、日本が10万円を給付すると発表したことについて、中国では、その金額の大きさに驚くとともに、国内の全居住者へ一律支給するという点に注目が集まりました。中でも日本国内で勤務、または留学している中国人も受け取れるという点について「非常に公平」だとして好意的な評価がみられます。

 現在、日本の大学に留学している中国人の知人に10万円の給付についてどう思うか尋ねたところ、「素直に助かる」との答えが返ってきました。その知人によると、外国人留学生は日本国内でのアルバイトで学費や生活費を賄っており、新型コロナ流行によってアルバイト勤務日数が減らされるなど、金銭的に苦しい立場に置かれている学生が少なくないそうです。それだけに10万円が給付されることによって助かる学生は多いのではないか、と話していました。

「日本だけ支給は不公平」

 一方、中国国内での反応はどうでしょうか。

 メディアの反応としては、現金支給がどれほど消費を引き上げる効果があるのかについて議論がみられます。「非常に効果的」と分析するメディアもあれば、「大半が貯蓄に回る恐れがある」という慎重論もあります。

 そのほか、「2009年のリーマンショック時に支給された1.2万円の定額給付金の時よりも、立案から施行までが早かった」「日本のヤクザは10万円を受け取ろうとしない」といった内容の報道も目につきました。

 筆者の周りの上海在住の中国人にも尋ねたところ、驚きの反応をみせるとともに「うらやましい」という意見が大半でした。中には、「資本主義の日本で現金が支給されるのに、社会主義の中国で支給されないなんて不公平だ」などと、現金を一律支給しようとしない中国政府を厳しく批判し始める者もいました。この知人に限らず、今回の日本の政策をみて「どっちが社会主義国なのかわからない」という意見は、中国在住の日本人からも聞かれます。

自助努力意識で差が

 前述の通り、中国のコロナ関連経済対策は企業向け支援が主で、個人に対する補償や支援は一部に留まっています。また企業に対する支援に関しても、報道の制限もあるでしょうが、日本国内と比べると休業中の補助金支給を求める業界団体などの主張や要請はそれほど多くは見られません。

 筆者がみている限り、今回のウイルスの流行によって打撃を受けた事業者は中国でも少なくないものの、その打撃の補償の埋め合わせに関して政府の支援を当てにしている事業者はあまり多くないように感じられます。

 当てにしていない、というより当てにならないというあきらめのような意識と言い換えた方がいいかもしれません。ただその結果、今回のコロナ関連事態に対しても「頼れるものは自分だけ」のような、自助努力意識では中国の方が日本より優っているように見えます。

 一方、日本国内の報道を見ていると、業界の逸失利益はどれほどか、どれほど補償を受けるべきか、国と自治体のどちらが補償するのか、などといった議論が多いようです。事業主は普段税金を払っているのだから補償を求めること自体は筋違いではないでしょう。しかし、日本と中国のどちらが資本主義で、どちらが社会主義なのかと問われると、少し言葉に詰まる思いを禁じえません。

中国は資本主義と社会主義のいいとこ取り?

 かつて筆者の知人(日本人)は、中国について「資本主義社会主義のいいとこどりな体制をしていてずるい」と評したことがありました。今回のコロナウイルス対策の動きを見ていて改めてその友人の言葉を思い出しました

 中国は政治体制でこそ社会主義を採用しているものの、経済体制においてはもはや日本以上に激しい競争主義が敷かれており、国民の政府に対する依存意識も日本と比べると希薄です。逆に日本は、パチンコ店の休業一つとっても「補償はどうする?」という議論から始まるなど、「想定外の負担は政府が当然補償するもの」という意識が一般的のようです。こうした日本人の政府への依存意識は、21世紀に入ってより強くなっているように思えます。日中両国のコロナ関連経済対策の違いは、こうした政府への依存意識の差がそのまま対策の中身に反映されていると言っていいのではないでしょうか。

 今や日本も中国も、国の掲げる政治体制と国民の意識との間で互いに「ズレ」が生じているのかもしれません。

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