「心中お察しします」という表現を使ったことはありますか? 「相手の気持ちを察する」という日本の文化から来た特徴的なコミュニケーションの取り方です。

言葉だけではなかなか言い表せない「相手の気持ちに寄り添う」「共感力の高い」大人の言葉遣いについて、具体的なシーンでの使い方やポイントを解説していきます。

■「心中お察しします」という言葉が持つ意味

読み方は「しんちゅうおさっしします」です。「心中」を「しんじゅう」と読むと相愛の男女が合意の上で一緒に死ぬなどの間違った意味になってしまいますので、要注意です。

「心中お察しします」の意味は、簡単に言うと「あなたの心の中で思っていることは分かります」となります。

「心中」は「心の内」「胸中」を意味します。そして「察する」は「推し量る」「相手の真意や意図を汲み取ること」となります。また「同情する」などの意味合いもあります。

実は、「察する」ことは、「察し型の文化」から来た日本人のコミュニケーションの取り方の代表的な表現方法の一つなのです(ちなみに欧米は「表現型」「発信型」、国際化と情報化により、日本人も「察し型」から「表現型」「発信型」が増えてきました)。

■「心中お察しします」の正しい使い方

「相手の立場に立つ」「相手を思いやる」「相手の気持ちに目を向ける」ことは、人と人とが豊かなコミュニケーションを取るときにとても大切なことであると同時に、大変難しいことです。なぜならば、相手と自分は立場も気持ちも違う他人だからです。

したがって、「心中お察しします」という表現ができるということは、相手との立場の違いが分かった上で気持ちをおもんぱかることができる「大人」である証拠といえるのです。

あなたもこの言葉で大人の扉を開いてみませんか。

◇(1)不幸があった人や困難な状況にある人に使う

「心中お察しします」は、お葬式の場など、誰かに不幸があった時に使います。身近な人を亡くしたときなど辛い気持ちをいたわるために「心中お察しします」を使うことができます。

例えば、葬儀で遺族が悲しみのあまり言葉を失っているようなときに、「お気持ちはよく分かります」という意味で「心中お察しします」と伝えます。

◇(2)不幸があったこと、困難な状況にあることを相手から直接聞いたときに使う

また、人の生き死にや不幸・困難な状況に対しての言葉ですので、本人から直接聞いた時に使うようにしましょう。

なぜならば、不確かな状況で使って、万が一間違っていたら、大変失礼な言葉になり、相手を不快にさせてしまうからです。

◇(3)「心中お察し申し上げます」と言うとより丁寧

相手が目上で、あまり人間関係もできていないような場合に、「心中お察しします」を使うと「分かりもしないくせに!」「君に言われたくない!」などと、相手の反発を招きかねません。

相手が目上、年上の場合は、「心中お察し申し上げます」と言えば、へりくだった印象でより丁寧さを伝えることができ、相手の感情を害さないで済みます。

その際には、できるだけ「言葉」に「心」を込めて「行動」するようにすれば、相手に上手に伝えることができます。言葉(コトバ)・心(ココロ)・行動(コウドウ)ということで「3つの“コ”」と覚えておくといいでしょう。

◇例文

「心中お察しします」の同義語を挙げると、「気持ちを汲み取る」「心情を理解する」「気持ちを慮る」「気持ちを鑑みる」などがあります。どの言葉も手放しで喜んでいる人に対して使う言葉や、単に推測や想像をした時に使う言葉ではないことが分かります

☆身近な人間に不幸があったときの「心中お察しします」

・「長年連れ添ったご主人様とのお別れ、お辛いことと心中お察しします」
・「ご家族皆様のご胸中はいかなるものかと心中お察しします」

☆傾きかけている取引先への督促に「心中お察しします」

・「心中お察しします。ご事情はおありだと思いますが、期日までの入金を何卒よろしくお願い致します」

できればこのような状況には遭遇したくないですが、いざという時「大変な事情は分かるけれど、できることはしてほしい」と念を押す場面などに効果的な言葉なので、覚えておくと良い言葉です。

☆自然災害にあって気落ちしている方を気遣うときに「心中お察しします」

・「この度の震災では、甚大な被害に遭われ大変だったことと思います。心中お察し申し上げます。どうぞ今はお身体を回復させることに専念なさってください」

☆関わりの薄い相手に相談されて「心中お察しします」

・「心中お察しします。とても大変だと思いますが……」

このように初対面やお互いの関わりが薄い相手からの相談に対して「心中お察しします」と始めることによって、「上から目線」「偉そうに」といった感情を緩和するクッション言葉としての効果が上がります。大人の会話術として覚えておくと損はないでしょう。

■使うときの注意点

◇(1)祝い事では使わない

不幸があった時に相手を気遣う言葉が本来の使い方ですので、くれぐれも祝い事などでは使わないようにしましょう。

◇(2)相手がそこまで落ち込んでいないときは使わない

相手が「察してくれなくても大丈夫!」「そこまで落ち込んでいませんから」と思っていたとしたら、「心中お察しします」という言葉は、相手に何も響かず浮いてしまいます。

◇(3)また聞きのときは使わない

本来、不幸や困難に陥った時に使う言葉ですので、また聞きの場合など直接相手から聞いていないときには使わないようにしましょう。

◇(4)上司など目上の人に使うときは注意が必要

上司など目上の人に使うようなときは、「君に言われたくない!」「分かりもしないくせに!」などと、相手が違和感や嫌悪感を抱く場合には使わないようにしましょう。そうでない場合は、相手の状況や立場、タイミングをよく考えることが大切です。

■「心中お察しします」と言われたときの返しは?

「心中お察しします」と言葉をかけてもらった場合には、

・「恐れ入ります」
・「痛み入ります」
・「ご丁寧にありがとうございます」
・「お心遣いありがとうございます」

などと返しましょう。

単に「ありがとうございます」と言うより、「ご丁寧に」「お心遣い」といった言葉を添えて返事をすると更に感じ良く伝わるでしょう。

「察する気持ち」を伝えるための3つの“コ”

最近流行語になった「忖度」つまり、他人の気持ちを「推し量る」という意味の言葉は本来日本人が持っている文化から来た「察し型」のコミュニケーションの代表的な特徴です。

我々日本人は相手への思いやりを示す知恵として、もっと「言葉」に「心」を込めて「行動」するという自覚を持って、お互いの「心中を察する」世界に誇れる日本の大人の言葉遣いを心がけたいものです。

(櫻井弘)

※画像はイメージです

「心中お察しします」をまた聞きで使ってはいけない理由