世界中に熱狂的なファンを持つ映画監督、クエンティン・タランティーノ。昨年は、約4年ぶり監督第9作となる『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)が公開され、賞レースでも話題となった。そんな本作が、本日からWOWOWBS10 スターチャンネルで特集放送される。この機会に、タランティーノがいかにして、いまのポジションを築いていったのか?過去の作品を振り返りながら、その道程を探ってみたいと思う。

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レンタルビデオ店勤務の映画ヲタクから新進気鋭の映画監督に!

タランティーノといえば、残酷な暴力描写に過去の映画へのマニアックなオマージュなどを盛り込んだ、クセの強い“オタク”気質な作風が特徴。それらの感性は、20代前半のレンタルビデオ店勤務時代に、大量の映画に埋もれながら脚本を書いていたという経験がルーツになったと言われている。西部劇やギャングもの、古典からB級作品まで愛する一方で、日本の映画やアニメ、音楽にも精通しており、千葉真一や深作欣二、「攻殻機動隊」シリーズのファンである話は有名だ。

そんな彼の監督デビュー作が、宝石強盗計画のために集められた6人の男の対立が描かれた『レザボア・ドッグス』(91)。タランティーノが3週間で書き上げたという本作の脚本を気に入った、名優ハーヴェイ・カイテルの強力な後押しを受け、彼の出演とプロデュースを得て映画化が実現した。

登場人物がそろいの黒いスーツにサングラスを着用し、素性を隠すため互いを“色”で呼び合う様子に、絶妙なカッコよさを感じた人も多いはず。さらに、冒頭のレストランでの(本筋とは関係のない)なんともない会話が続く長回しや、ラジオDJのナレーションで主題歌「リトル・グリーン・バッグ」が流れ始めるオープニングなど、その後のタランティーノ作品に通じる要素も盛りだくさんの作品なのだ。

■ 『パルプ・フィクション』でパルムドール獲得!

デビュー作で業界が注目する気鋭監督の一人となったタランティーノ。早くも監督2作目の『パルプ・フィクション』(94)で、弱冠31歳にしてカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを獲得、米アカデミー賞では脚本賞を受賞する。本作は、プロローグエピローグ、3つの短編を組み合わせたギャングの物語によって構成されており、バラバラだった時系列が様々な伏線と共に、最終的に一つにつながっていく巧みな作りが特徴だ。

また、主演には『サタデー・ナイト・フィーバー』(77)や『グリース』(78)でのブレイク以降、低迷気味にあったジョン・トラボルタを起用。これは彼の大ファンだったタランティーノからのオファーで実現し、作品のヒットによってトラボルタ自身も復活を果たすこととなった。『レザボア・ドッグス』と共にカルト的人気作となり、いまでもタランティーノの代表作として多くの映画ファンに愛されている。

世界的な名声も獲得したタランティーノは、次作に『残虐全裸女収容所』(72)や『Coffy コフィ』(73)などで知られる少年時代のアイドル、パム・グリアと、タランティーノ作品の常連、サミュエル・L・ジャクソンをメインキャストに起用した『ジャッキーブラウン』(97)を制作。続けて、チャンバラやカンフー、アジア映画へのオマージュにあふれた「キル・ビル」2部作を手掛けるなど、個性的な作品を発表していく。

ブラッド・ピットがクセの強い米陸軍中尉を演じた『イングロリアス・バスターズ』(09)ではユダヤ系アメリカ人の特殊部隊ナチスの軍人を次々と屠り、レオナルド・ディカプリオが悪役に挑戦した西部劇ジャンゴ 繋がれざる者』(12)では黒人奴隷のガンマンが白人の奴隷主に報復する姿が描かれるなど、歴史の暗い部分に光を当て、虐げられた人々を救おうとするタランティーノ流のメッセージ性の強い作品もつくられている。

その後は、脚本流出というトラブルを乗り越えて、サミュエル・L・ジャクソンカートラッセル、ティム・ロス、マイケル・マドセンなどおなじみの顔がそろった、西部劇×密室サスペンスの監督第8作『ヘイトフル・エイト』(15)が公開。タランティーノは徹底したアナログ主義でも有名で、これらの作品ではCGやスタジオセットは極力用いられず、物語の時代に合った建物などで撮影され、それが独特の生々しい映像世界を生みだすことにもつながっている。

ハリウッドへの愛を詰め込んだ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

独自の路線を突き進むタランティーノが、マカロニ・ウェスタンや『大脱走』(63)などの名作に対する、あふれる映画愛を詰め込んだのが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』だ。レオナルド・ディカプリオブラッド・ピットという二大スターを再びメインキャストに起用し、落ち目の俳優ディック・ダルトン(ディカプリオ)と彼の運転手兼スタントマンであるクリフ・ブース(ピット)が、1969年ハリウッド黄金期を舞台に、苦悩し奔走する物語が展開される。

スティーブ・マックイーンブルース・リーが登場し、活気にあふれたハリウッドの街並みがリアルに再現され、ノスタルジックな雰囲気漂う本作。一方で、ベトナム戦争の影やヒッピー文化、テレビの躍進による映画産業の変化など、時代の移り変わりも克明に映しだしていく。そして、『ローズマリーの赤ちゃん』(68)などで知られるロマン・ポランスキー監督の妻で女優のシャロン・テートを殺害した、チャールズマンソン率いるカルト集団も登場。不気味な雰囲気を醸しつつ、その存在が物語に大きくかかわり、まさかのサプライズと感動を生み出すことにも成功している。

ここまで一気にキャリアを振り返ってみたが、かねてよりタランティーノは、長編映画を10本撮ったら監督は引退すると公言しており、言葉通りなら次回作が最後となる。最新作が待ち遠しいような、寂しいような気にもさせられるが、ここはまず、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』をはじめとする監督作や脚本作品をチェックし、そのクールな世界観を再確認しておきたい。(Movie Walker・文/トライワークス)

ピースするタランティーノとそれを見つめるディカプリオ