(藤井 雄作:群馬大学 大学院理工学府 教授)

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 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の予防法(ワクチン)、治療法の開発を待つ中で、医療崩壊阻止のため、世界中がロックダウン断続状態に陥り、世界恐慌以上の経済悪化が懸念されている。

 私たちは、ロックダウンにより、社会に対して莫大なダメージを与えつつも、医療崩壊を阻止しつつ、「“対策”を取る時間稼ぎをしている」という、明確な認識を持つ必要がある。医療崩壊さえしなければ、現在の日本の現状が示すように、小さな死亡率で済む可能性が高いと考えられる。

「慶応大学病院でCOVID-19診断以外の患者をPCR検査したところ、6%が陽性(検査日4月13~19日)」という記事(4月22日)があった。少し乱暴だが、6%を日本の人口に当てはめると760万人のPCR陽性者がいることになる(感染後でPCR陰性になっている人も含めると、感染者累計数は さらに多くなるだろう)。ただし、感染者(760万人)と比べると、PCR陽性の国内死亡者は238人(4月19日)と小さな割合である(PCR検査がほとんどできていない状況で、感染拡大が進んでいた可能性がある。そして、その場合、ほとんどの感染者が、無症状、軽症であったことになる)。医療崩壊を防ぎ、現在の医療レベルをキープできれば、このまま感染拡大が続いても、この小さな割合をキープできる可能性が考えられる。

 だが同時に、「ロックダウンを耐え切り、新規感染者数が減少すれば、元の生活に戻れる」というのは、ウイルスと(その宿主たる)多数の未感染者が残っている間は、「幻想」であるということも明確に認識しなければならない。

「新規感染者数の削減」「医療崩壊の阻止」を主たる目的としてロックダウンをしている限りは、結局は「十分な数の人々が感染&治癒を経て免疫を獲得」するまでは、以下のようなサイクルを延々と繰り返することになる。

「ロックダウン」→「新規感染者数減少・医療崩壊回避」→「ロックダウン解除」→「多くの未感染者が残っているため、再び、感染爆発・医療崩壊危機」→「再び、ロックダウン」

 このように、集団免疫獲得まではロックダウン断続状態から脱却できそうもない。そうである以上、「集団免疫の早急獲得」を明確な目的として掲げた方が、社会に対するダメージを小さくできる可能性が高いと考えられる。

ロックダウン断続状態からの脱却シナリオ

 現在、日本をはじめとして世界各地で、武漢ウイルス感染対策として、ロックダウン断続状態が生じている。ロックダウン断続状態から脱却するには、次の【A】~【D】の4つのシナリオが考えられる(なお、季節・気候による自然収束は、暑い気候の地域でも感染拡大が発生していることから、期待できない)。

【A】国民の大部分が感染&免疫獲得済となり、集団免疫が獲得される

 国民の大部分が感染&治癒済となり、免疫を獲得することで、集団免疫が獲得される。

【B】「予防法(ワクチン)」が開発され、予防接種により、集団免疫が獲得される

「予防法(ワクチン)」が開発されれば、インフルエンザと同様に、非感染者の大部分が予防接種をすることにより、集団免疫が獲得される。

【C】「効果的な治療薬」が開発される

「効果的な治療薬」が開発され、使用可能となり、感染者を簡単に治癒することができるようになれば、感染拡大を恐れる必要は無くなる。

【D】「簡単・確実な検査法」が開発される

 当たり前のことだが、体温計や血圧計のような「簡単・確実な検査法・検査器」があれば、感染者を速やかに検知し、隔離・治療すれば良い。他の人(=非感染者)は外出自粛も、ロックダウンも全く不要になる。「簡単・確実な検査法」が無いばかりに、誰が感染しているか全くわからない暗闇の中に社会全体が置かれることになり、全員一律の対応しか取れないことになっている。

 上記の脱却シナリオのうち、「【B】予防法(ワクチン)」「【C】治療薬」「【D】簡単確実な検査法」のいずれかが開発されれば、問題は解決する。しかし、いずれも、すぐに開発される目途は立っていない(最短でも1年以上はかかるという予想もされている)。そうなると、「【A】集団免疫獲得」が唯一の現実的な解決策となる。

 本稿では、ロックダウン断続状態からの早期脱却の方策として、「感染拡大の慎重なコントロールによる、集団免疫の早期獲得」を明確な目標として掲げることを提案したい。

 具体的には、以下で示す明確な6つの指針のもとに、あらゆる防御策、予防策を併用しつつ、十分な現状把握の上で、積極的な攻撃を行うことである。

用語の説明

 6つの指針を解説する前に、本稿で使う用語について誤解や認識のズレを招かないよう筆者による定義を示しておく。

◎ロックダウン
 ここで言う「ロックダウン」は、「感染対策として、何らかの外出規制、営業規制、行動規制が、政府から要請・命令される状態」と定義する。現在の日本は、弱いロックダウン下にある。

◎ロックダウン断続状態
 新規感染発生が抑制され、一方で、社会的負担にも耐えかね、ロックダウンを緩和・解除するも、多くの非感染者が温存されていたため、再び、感染爆発の危惧が高まり、ロックダウンを再開する。このことが繰り返されている状態。

◎医療崩壊
 ここで言う「医療崩壊」は、「患者数の急増により、通常であれば提供することができる医療サービスの質を大幅に落とさざるを得ない状態」と定義する。「病床が足りず、入院できない。」、「酸素吸入器が足りずに、酸素吸入できない。」などが、これに相当する。

◎集団免疫
 ある感染症に対して、集団の大部分が免疫を持つことにより、免疫を持たない人が感染から保護される効果・状態。

集団免疫率
 集団の中で、免疫を獲得している人の割合。

◎基本再生産数R0
 感染症に感染した1人の感染者が、誰も免疫を持たない集団に加わったとき、感染期間中に直接感染させる平均人数。定義から、“周りに感染者が殆どいない状態”においては、R0=1なら定常状態、R01なら拡大、ということになる。R0は、ウイルスの性質だけでなく、当該集団の性質(人種的体質、状態、公衆衛生の状態、各人の健康状態、など)にも依存する。公衆衛生を向上させることにより、あらゆるウイルスに対してR0を低減できると考えられる。

 基本再生産数R0は、次式で表せる。

R0=β×k×D

 β:1回の接触当たりの感染確率
 k:単位時間あたりに1人の人間が集団内で他者(=未感染者)と接触する平均回数
 D:平均感染期間(時間)

 すなわち、以下が有効となる。

 βの低減: 個人の免疫力UP、マスク着用、手洗い励行、
 kの低減:在宅勤務、在宅学習の導入、3密忌避、社会的距離の確保

 βとkが低減された状態の社会様態を作ることにより、R0が低減され、集団免疫獲得に必要な集団免疫率Pcが低減される。ロックダウン状態は、β、kを極端に低減させた状態であるとも言える。

◎実効再生産数Re
 感染症に感染した1人の感染者が、(集団免疫率を有する)集団に加わったとき、感染期間中に直接感染させる平均人数。例えば、集団免疫率20%の集団の場合、(接触する人の20%が免疫を持った人となるため、)上記kは実質的に80%となり、Re=0.8R0となる。

◎集団免疫獲得に必要な集団免疫率
 集団免疫獲得に必要な集団免疫率Pcは、基本再生産数R0を用いて、次式で表せる(用語の定義上、そうなる)。

Pc = 1 - 1/R0

 例: R0=2の場合、集団免疫獲得に必要な集団免疫率(感染割合)Pc=1-1/2=0.5(50%)となる。R0=1.2であれば、Pc=1-1/1.2=0.17(17%)で済む。

◎武漢ウイルス
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こす新型コロナウイルス(SARS CoV 2)。ここでは、分かりやすさの観点から、また、発生場所「中国・武漢市」を明示したいという気持ちから、この用語を用いる。

集団免疫の早期獲得に向けた6つの指針

 筆者が提案する6つの指針は以下のとおりである。

【指針1】集団免疫率UPのための方策

 医療崩壊手前のところまでの感染拡大は許容し、免疫獲得者を速やかに増やしていく(重症化懸念が小さい人々には、積極的に感染&治癒し、免疫を獲得してもらう)。医療崩壊手前を狙い、ロックダウンを慎重に弱めていく。

(1)検査の拡充
 検査を積極的に行わないことは、わざと目隠しをして、自らを暗闇においているのと同じであると認識すべきであろう。

(2)感染拡大の積極的コントロール
医療崩壊手前ギリギリをキープするように、ロックダウンを可能な限り弱める。

(3)感染ボランティア(=ウイルスとの“戦争”に対する“志願兵”)の募集
 免疫力が高いと自信がある人(若者など)を対象に、強制感染・隔離療養を行ってもらう。

【指針2】重症化しやすい未感染者の隔離保護のための方策

(4)未感染者の自宅での隔離避難の支援
 (免疫力の弱い)基礎疾患保有者、高齢者が、自宅で隔離避難できるような支援を行う。

(5)自宅避難が難しい未感染者用の隔離保護施設の用意
 (免疫力が弱いと自覚がある)未感染者が、(自主的に)隔離避難できる施設を大量に確保する。

(6)武漢ウイルス感染以外の入院患者を隔離保護する。
 武漢ウイルス感染者とそれ以外で、病院・病棟を完全分離し、院内感染のリスクを低減することは重要である。

【指針3】 医療キャパシティ拡充のための方策

(7)病床増設、臨時病院建設
 全国に野戦病院(=質には目をつぶり、病床数を重視した病院)の建設を行う。

(8)医師・看護師の報酬アップ & 資格緩和 & 増員
 高額手当の追加支給を行う。非常時には、医学生・獣医・介護士・キャビンアテンダントなども医療行為(の一部)ができるようにする。

(9)軽症者用の隔離治療施設の確保
 家庭での隔離治療を助ける手法の開発・教育、機器・物資の開発・支給も重要である。

【指針4】ウイルス感染に対して強靭な社会様態への変革のための方策

 社会様態の変革により、あらゆるウイルスに対する社会の基本再生産数R0、(感染拡大期における)実効再生産数Reの低減を図り、それにより、少ない免疫獲得者(回復者)数での集団免疫獲得を実現にする。あらゆるウイルスに対して強靭な社会様態に変革する。

(10)検査の大量実施体制の確立
 検査を抑制すべき正当な理由は1つもない。

(11)監視システムの導入
 スマホ位置情報、街路カメラシステム、カード利用履歴などを活用した感染者追跡システムの導入は、感染経路の把握、濃厚接触による感染者発見において、極めて有効だろう。民主主義国家である日本においては、プライバシー保護との両立が最大の課題となる。

(12)感染予防対策の周知徹底
 手洗い、うがい、マスクの励行、社会的距離の確保、規則正しい生活による(個人)免疫力アップ。感染拡大時における対策用として、外出時用の空調付き高性能フルフェイスヘルメットの開発も有効かもしれない(極端に言えば、全員が宇宙服を着て外出すれば、R0=Re=0 が実現できる)。

(13)人と人との接触が低減される社会基盤の構築
 テレワーク・オンライン教育を推進する。電車、バス、タクシー、航空機の客席構造、運航様態を工夫する。オフィスビル、学校、商業施設、飲食店、娯楽施設などの(空気清浄機能を含む)建物構造・運営形態を工夫する。

【指針5】予防法、治療法、検査法の開発体制の拡充のための方策

(14)予防法(ワクチン)・治療薬・検査法の開発

(15)予防法(ワクチン)・治療薬・検査法の開発体制・予算の大増強
 今回の感染対策には間に合わないとしても、来年以降も、突然変異で新種がどんどん出てくる可能性が高いことを考えると、予防法(ワクチン)・治療薬・検査法の開発に加えて、開発のための体制・予算の大増強と、それの継続的維持が重要である。

【指針6】大規模で迅速な動きを可能にする方策

(16)法整備
 上記のような、様々なことを即時実行できるように法整備を行う。

(17)人員確保
 警察官、自衛隊の動員を行う。

(18)予算確保
 機動的に使える大規模予算を確保する。

(19)セーフティネットの整備・実施
 必要十分なセーフティネット(国民への一律給付金、生活保護、など)の整備・実施を行い、ロックダウン状況下での全国民の生存を確実に保証する。

(20)火葬施設(・手順)の拡充
 日本においても、海外のように死者数が急増し、火葬場がパンク状態に陥ることも想定される。最悪を想定して、準備しておく必要がある。

*  *  *

 以上が集団免疫の早期獲得を実現するための6つの指針である。なりふり構わず「国家の総力」を挙げて取り組むべきであろう。

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