人口減少、少子高齢化、単身化と国内のマクロ環境は変化し、働き方や消費者の価値観・嗜好も大きく変化しています。その中でコンビニエンスストアの品揃え拡大、ドラッグストアの食品領域への参入とシェア拡大が進み、小規模スーパーにとってはますます厳しい環境となっています。

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 とりわけ地方の小規模スーパーは、輪をかけて厳しい経営環境に直面しています。高齢化は深刻でお客様はもちろんですが、社員も高齢化し体力仕事ゆえ、体がついていかず辞めざるを得ない高齢のスタッフが増えてきました。加えて高齢化している町での人員補充もなかなか集まりません。人員不足は一般のスーパー以上に深刻な課題になっています。

 厳しい逆風が吹くなか、地方の小規模スーパーはどうすれば生き延びていくことができるのでしょうか。今回から3回にわたって、小規模スーパーが生産性を高め、収益を向上させるための取り組みについて具体的な事例を紹介していきます。
(寺川 正浩:日本能率協会コンサルティング ビジネスプロセスデザインセンター チーフ・コンサルタント

地道な改善を1つずつ積み重ねる

 今回紹介させていただく小規模スーパーA社は地方の中でも2010年から30年間での20~39歳の女性人口の予想減少率が高い「消滅可能性都市」といわれるエリアを商圏とし、10店舗の運営をしています。そのような商圏にもGMS(大手総合スーパー)や大手リージョナルスーパー、そして昨年(2019年)は最も勢いのある大手のドラッグストアも進出してきました。大手は過疎化が著しい土地も関係なく出店攻勢の手を緩めません。

 さて、A社はエリアの人口減とともに売上も同じように減少し続け利益も低迷していましたが、6年程前から売場やマネジメントの改革に着手しはじめ、この数年売上は前年を上回るようになりました。全国の2010(平成22)年から2015(平成27)年の5年間の人口増減率が-0.7%に対して、A社の商圏のそれは-4.9~-8.9%と毎年1.5%近く人口が減っている地区であり、前年の売上を維持するだけでも容易ではありません。また、粗利率はこれから食品スーパーが柱としていく生鮮部門(※もともと好調な精肉部門は除く)およびデリカ部門において改革着手時点から3ポイントあがっています。

 他のスーパーが真似できないことをやっているわけではなく、特別スキルの抜きんでた社員がいるわけでもありません。厳しい環境変化から目をそらさずに地道な改善を1つずつ積み重ねてきています。

 店の各売り場の責任者である「主任(チーフ)」がエリアの特性を踏まえた仕入れを行い、日々の売場オペレーションを任されています。それを部門責任者である「課長」が全店企画の立案や部門の売上管理を行う傍ら、空いた時間に各店の売場を巡回し商品のチェックと売場づくりの指導を行っていました。これが小規模スーパーの成功モデルのひとつであったと思います。いわゆるチェーンストア理論とは一線を画した個店経営型のスタイルです。

 しかしA社ではこのモデルが、先に述べた「人員不足」が進むにつれ崩壊していきました。課長は以前のようにゆっくり店舗巡回して指導しているような余裕はありません。山間部の店舗には半年以上足を運ぶことができていません。1日の半分以上は人員不足の店舗のバックヤードや売場に入っての商品づくり・売場づくりの応援業務で終わります。

 そこで環境変化(深刻化していく人員不足)に対応していくためのブレークスルーが必要との危機感から、管理者不足の中での店舗マネジメントの見直しと店舗業務の効率化に着手してきました

管理者不足の中での店舗マネジメント

 まず、これまで経験ベースで店舗指導していた管理を、計数管理を通して店頭活動をチェックすることから始めました。必要に応じて課長が指導し凝縮した時間で従来同等の、あるいはそれ以上のマネジメントを試みます。

 実はこれまでに計数管理が仕組みとして回っていなかったこともあり、丁度良い機会となり、そして様々な気づきがありました。従来は売上や粗利といった結果だけを確認し、あとは精神論で鼓舞するといった感じでしたが、課長を中心に指標を階層化しロジカルに原因を追究していく癖をつけていきました

 店舗ごとの粗利率のばらつきからロス率の違いに着目すると、ロス率の中でも値引き率が高い店舗や廃棄率が高い店舗が浮き彫りになります。青果部門で値引き率が高い店舗のオペレーションを確認すると、1回毎の仕入れ量が多く購入サイクルが長い店舗が目立ちました。これでは鮮度が落ちます。さらに、廃棄率の高い店舗のオペレーションを確認すると、日々の鮮度チェックが充分ではないことに加えて、鮮度が落ち始めた野菜を処分品として売台ではなくバナナ箱に雑然と置いて販売していました。半額以下であれ誰も買わずにそのまま箱の中で廃棄になるのは当然です。

 これらに限らず、個店経営型では自らのオペレーションの不具合に各主任が気づいていないことも大きな問題なのです。巡回に十分な時間を確保できなくなった課長も徐々に問題仮説をもって効率よく巡回・指導するようになり店舗マネジメントのスタイルが変わりました。

 特定のカテゴリーの売上構成比が低く、支持率(レジ通過客数のうちそのカテゴリーを購入した割合)も低い売り場も指導の対象となります。ところが「特定のカテゴリーは確かにそうだが全体の業績は良い」、こういう売場が時々存在するのです。例えばA社のケースでは、通常刺身カテゴリーの売上構成比は魚全体の35~40%であるのに対して常に50%を超えており、その分鮮魚・塩干等他のカテゴリーの売上構成比が極端に低いバランスの悪い店舗があります。毎月の重点アイテムのPI値(レジ通過客千人当たりの購買指数)も低い等、課題もある店舗です。しかし売場全体の売上や支持率は全店舗の中でも上位に位置し、粗利率も目安としている3割を常に超えています。管理者としては悩ましいケースですが、今のところこの店舗への指導は行っていません。

「全社統一のマネジメント体制のもと、個店経営型の良いところは大事にしている」と言える程ではないですが、こだわって取り組んでいるところはそれぞれに任せています。やや曖昧さを残す管理スタイルではありますが他店舗からの非難はありません。小規模ゆえ他店の事情を皆が知っているというのは大きいでしょう。

 個店経営型で一つひとつの店舗が充分なパフォーマンスを発揮できれば確実に小規模スーパーも生き残っていくのでしょうが(実際にそのようなスーパーは存在するようですが)、そこまでの道のりはずいぶん遠いからこそ、A社のようにチェーンストア型の一定のマネジメント機能が必要になるのです。

小規模スーパーならではの特性を活かす

 店舗間のバラツキが大きく出るものの1つが仕入れ・買付です。山間部エリアになると市街地で売れる商品が全く売れない等、商圏ごとにお客様の好みも異なることもあり、個店毎の仕入れは「エリアニーズに合った品揃え」という観点からはメリットを感じます。

 地元の小さい市場も地場のスーパーの応援者でもあります。近くの市場と良い関係を築けている各店舗の主任は有利な条件で仕入れていますし、その背景には市場があるいは仲卸が仕入れすぎたときにはできるだけ多く買取るなどいわば互助的な関係もうまく築いているのです。一方で、劣化している商品が届けば返品・交換を主張しなければなりません。

 計数管理を進めていく中で、青果部門では買付についてはこういう関係性をバランスさせているスペシャリストが少ないことも残念ながら明らかになりました。そこで共通の特売品は課長が一括で仕入れて配分し、また品質に関しても窓口は課長に一本化しA社としての品質基準を担保するように運用を変えました。

 いまだベストという状況ではありません。依然相場が安いときにドンと仕入れるタイプの主任は利益率が安定しませんし、定番の品揃えが安定しません。しかしA社では以前よりも良い状態を常に模索しながら改善を続けています。

 本社の管理の中で不具合が出ているものは自覚を促し他店と足並みを揃える、しかしお店単位でこだってやるところは貫いてみる・任せてみる、という流れを自分たちが納得してつくっていくことがうまくいっているようです。しかしその線引きは曖昧であり、大手チェーンがこれをやればたちまち「統制」が効かなくなるのでしょう。これも10店舗程度の社員一人ひとりの顔と個性のわかるスーパーならではだからでもあります。

(第2回に続きます)

◎寺川 正浩(てらかわ・まさひろ)
日本能率協会コンサルティング ビジネスプロセスデザインセンター チーフ・コンサルタント
1997年 JMAC入社。専門はマーケティング・営業領域。戦略策定から、戦略を実現するための業務プロセスの設計、KPIを活用したマネジメントの仕組みづくりを経て、実施・定着化までの一貫したコンサルティングを行う。小売・サービス業、食品メーカー、アパレルメーカー、医薬品メーカーなど幅広い範囲を支援。著書に「トップのための経営講座 国内成熟市場で伸びる営業・マーケティング戦略」(商工中金経済研究所)、『実務入門 「仮説」の作り方・活かし方』『実務入門 営業計画の立て方・つくり方』(いずれも日本能率協会マネジメントセンター/共著)、「サービスプロセス改善事例集2010」(日経BP寄稿)、ほか多数。JMACサイトでもコラムを執筆。

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