4月中旬頃、救急車で運ばれた患者の受け入れが何十件もの病院に断られるという「たらい回し」が続々と報じられた。病院は新型コロナ対応で、受け入れのキャパシティが減少し、新型コロナウイルス感染症を疑う発熱症例だけではなく、他の、救命が必要な急性期疾患も断られるという事象が多発していたのだ。 

 マスクガウンなどの物資不足も、病院の受け入れキャパシティに深刻な影響を与えている(医療物資不足は、3月に筆者が行った忽那賢志医師へのインタビューでも報じた)。 

 現在の医療現場はどうなっているのか、国際医療福祉大学成田病院救急科の志賀隆医師に話を伺った。また、これはあくまで千葉県の状況であり、検査や病院のキャパシティには地域差があることをあらかじめ明記しておきたい(放射線科医、医療ジャーナリスト、松村むつみ)。 

※このインタビュー4月30日(木)にZoomを使い実施しました。

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「救急崩壊」はやや緩和 

──4月中旬頃、救急車の「たらい回し」が報道されましたが、4月下旬頃から全国および千葉県でも新規発生患者数、実効再生産数(注1)は減少に転じています。現在の現場の状態はいかがでしょうか。 

志賀 3週間ほど前に比べると、少し改善してきました。3週間前は、救急車が何十件も断られる、あるいは30km先の病院に2時間かけて搬送するようなことが頻発していました。 

 現在は、千葉県ではやや余裕ができ、人工呼吸器やECMOのキャパシティもぎりぎりではありません。ECMOは、キャパシティの4分の1くらいしか使用していませんし、人工呼吸器やECMOを使用するスタッフの数にもゆとりはあります。新型コロナウイルス感染症以外の疾患の急性期患者さんも、きちんと受け入れることができていると思います。また、千葉県は、人口の多い西側は比較的コロナウイルス感染症の発症が多いですが、東側は発症が少なく落ち着いています。 

注1……1人の感染者が平均で何人に感染させるかを示す指標。1より大きいと感染が拡大し、1より小さいと感染が収束方向にあることを示す。 

──余裕ができた理由はなんでしょうか。 

志賀 ひとつは、自粛の効果が出ているのかもしれません。加えて、千葉県では感染症の病床が増え、新型コロナウイルス感染症を受け入れるキャパシティが増えています。軽症・無症者の滞在用にホテルを使用していることも病床に余裕ができた一因です。 

 保険点数が上がり、医療機関がコロナウイルス感染症の診療を受け入れやすくなったのも影響していると思います。 

 当院は3月に新規開院したのですが、感染症病床は、当院でも、もともと新型コロナウイルス感染症のために作ったのではなかった病床を何十床か新型コロナウイルス感染症用にして、受け入れています。また、4月や5月といった時期は、もともと季候も良いことから急性疾患の患者さんが少なく、病院の病床使用率がもっとも1年で低い時期でもありますので、それも、余裕ができた原因のひとつかもしれません。 

──コロナウイルス感染症用の病床とは、どういった病床ですか? 

志賀 感染のリスクがあるので、他の疾患の患者さんたちは受け入れず、コロナウイルス感染症の患者さんだけが入院するような病床です。担当する看護師も、院内感染を防ぐために、コロナウイルス感染症の患者さんだけを看ています。新規開院した病院ですので、重症ではなく中等症の患者さんを主に受け入れています。 

新型コロナ患者の診察は「通常の3倍手間がかかる」

──新型コロナウイルス感染症の患者さんを診察するのは、通常の患者さんに比べてどんなことが大変なのでしょうか。 

志賀 当科でも、先日新型コロナウイルス感染症を疑う症例の患者さんがいらっしゃいました。レッドゾーングリーンゾーンを分けるのはもちろんのこと、手袋を2枚装着し、診察が終わって脱ぐときも、1枚目の手袋を外して手指消毒、2枚目を外して消毒、ガウンを脱いで消毒など、非常に手間がかかります。 

 陽性患者さんを担当している看護師さんが、体位交換や配膳などをするのは非常に大変なのだろうと思います。呼吸器科の医師とも話したのですが、通常の患者さんと比べて、3倍くらい手間がかかるのではないか、と思います。 

今後の課題は院内感染 

──国内の病院では、院内感染が相次いでいます。「なぜ医療従事者はプロなのに院内感染が防げないの?」と、一般の方から疑問の声があがることがありますが。 

志賀 そうですね。今のところ、当院では院内感染は発生していません。でも、現在は、市中感染で誰が感染しているのかわからない状態ですから、院内感染を完全に防ぐのは非常に難しいです。

 院内感染は、感染が疑わしい患者さんに対する対応がずさんで起こっているケースは決して多くはなく、全く疑われずに入院していた患者さんが発症して広がっているケースがほとんどです。現場からしてみれば、「まさかこの患者さんが感染していたとは」という方から広がる。こういったことは今後続くと思われます。 

──どうしたら院内感染を予防できるのでしょうか。 

志賀 方法は2つしかありません。ひとつは、患者さんになるべくマスクをしてもらう、医療従事者もマスクをすることです。院内感染があっても、濃厚接触者に当てはまる人を可能な限り少なくすることが重要です(濃厚接触の定義は4月20日に変更され、検査で新型コロナウイルス感染症と診断された患者と、診断後や発症の2日前から、マスクをしないで1メートル以内の距離で15分以上話した場合となっている)。 

 マスクは、会話などの時に、片方だけしていても濃厚接触になる場合があります。感染者マスクをせずに、マスクをした相手と話す場合、目に飛沫がとぶと考えられるからです。話しているときに、マスクをとってしまう患者さんもいますので、完全に防ぐことは、簡単そうで難しいです。 

 あと一つは、疑わしい患者さんには可能な限りPCR検査をすることです。今は、感染が市中に蔓延している状態です。1月や2月は、国内にはほとんど感染者がいない状態でしたから、そういった時期に多くPCR検査をしても、リソース無駄遣いでしたが、今は感染が蔓延してきているので、疑わしい人にはできるだけやるべきと思います。ただ、無症状の人にやるのはよくないと思います。 

──職員同士の感染を防ぐ上で苦労していることはありますか。 

志賀 こんなに大規模な感染症の蔓延が起こったのははじめての経験なので、多くの職員にとっては、骨の髄までコロナウイルス感染症の対応をしみこませるのはすぐにできることではありません。たとえば、マスクを触らないように職員には指導していますが、完全に触らないでいるのは、非常に難しいのです。ただ、ユニバーサルマスク(全員がマスクをする)を徹底することは頑張ればできることだと思います。 

ホテル利用、自宅待機はどうなっている?

──自治体ホテル活用、自宅待機などの問題はどうなっていますか。 

志賀 ホテルの活用は、自治体によって運営の仕方が違うようです。大阪では、最初から軽症者はホテルに入る場合もあるようですが、新型コロナウイルス感染症は、発症後1週間くらいで急激に増悪することがあるので、千葉県は最初は全例入院させて、最後のPCR検査をホテルに移って受けていただく、という方針にしています。ただ、現在、最初の入院先に空きがなく、自宅待機も出ているので、訪問診療などのプロジェクトが立ち上がっている地域もあります。個人的には、自宅待機の方にパルスオキシメーター(注2)を貸与するのがいいのではないかと思っています。 

注2……皮膚の表面(指先など)から、血液の酸素飽和度を測定するモニター新型コロナウイルス感染症では、軽症でも肺炎が急に進行することがあり、肺炎が進行し呼吸困難がすすむと酸素飽和度が下がり、重症化する症例を見つけられる可能性がある。 

──マスクゴーグル、ガウンなど、医療機関の物資はどうでしょうか。 

志賀 まだ足りているとはいえない状態です。通常、感染症の患者さんは、1患者1マスクが原則です。第1種感染症指定医療機関(注3)である当院は恵まれている方なので、感染症病棟や疑い患者ではそれができていますが、他の患者さんに関しては、1日1マスクとなっています。感染症患者でも1人1マスクができていない病院もあると思います。

 備蓄がいつなくなるのだろうという懸念は当院でもいつも持っています。県から支給されるほかは、グループ本部の管理部門が購入に尽力しています。 

 今は、サージカルマスクに関しては、なんとかなっていますが、依然として足りないのはN95マスクフェイスシールドです。N95マスクを再利用している病院もあります。N95マスクは、エアロゾルが発生しやすい手順(気管挿管、喀痰吸引など)のときや、患者さんと病室で15分以上接するときに使用します。通常の診察では、患者さんがマスクをしていれば、サージカルマスクで対応します。

 関西だと、ゴミ袋をかぶって診察している病院もありますが、千葉はそういう状態ではありません。 

注3……法律で定められる1類感染症(エボラ出血熱、ペストなど)、2類感染症(SARS鳥インフルエンザなど)の患者を診療する医療機関で、都道府県知事が指定する。 

──PCR検査は拡充されてきていますか。 

志賀 拡充されてきていますが、地域によると思います。東京は足りないようですが、千葉は発症数が少ないので検査数が不足していることはありません。当院は、PCR検査を院内で実施しており、保健所へ依頼したPCR検査の件数よりも、院内で実施した件数が4倍くらい多いですが、それでもまだ空きがある状況です。民間検査は使用していません。 

 院内で、発熱があったり、CTで軽い肺炎があったりする症例にも、現在、ストレスなく検査ができています。千葉では、ドライブスルーやウォークスルーはやっていませんが、全国では地域の医師会でやろうとする動きがあるようですね。 

手術を受ける患者全員にPCR検査を実施したい理由

──手術や分娩などの全症例にPCR検査をしたいと考えている病院もあるようですが。 

志賀 手術は、気管挿管というエアロゾルが発生しやすい手順を踏むことが多いです。分娩も呼吸が非常に荒くなり皆さんマスクをとってしまわれる。つまり、患者さんがもし新型コロナウイルスを持っていた場合、医療従事者の感染のリスクが高いんですよね。 

 当院は、まだ、手術の全例PCR検査までには至っていませんが、その方向に舵を切りたいと考えています。現状、手術症例には全例にCTを検討しており、それに加えてPCR検査もしたいです。CTにもPCR検査にも偽陰性があるので、両方することが望ましいと考えています。 

──全国で、待機手術が延期になったりしていますが、先生の病院ではどうですか。 

志賀 わたしたちの病院でも、手術や内視鏡で急がない症例は、延期にすることがありますが、グループ全体で延期、というような措置はとっていません。今まで不要な手術をやってきたわけではなく、全国で延期されている人の中には癌の方や、痛みなどの症状がある方もあるので、いつまでも延期できるものではありません。

 コロナウイルス感染症はすぐに収束するわけではなく、手術もずっと延期はできないので、徐々に再開していかなくてはならないと思います。現在、院内感染を起こした大病院で、手術が中止されている状況であり、今後、そういった症例が増えていくのではないでしょうか。 

緊急事態宣言は延長に 

──緊急事態宣言の延長については、どうお考えになりますか(注4)。 

志賀 千葉県と東京は状況が違います。東京は相当大変な状態なので、延長してしかるべきではないかと思います。新型コロナウイルス感染症の患者さんは、入院期間が長いので、病床の空きは出にくく、患者さんが増えるとすぐ満床になってしまうんですね。

 千葉県は、東側は落ち着いており、西側はまだまだ大変なので、県内でも、人口が密なところとそうではないところがあり、地域毎に対応を変えるべきではないかと思います。密集している地域かどうかで、スーパーマーケットが「密」になるかどうかも全く異なります。 

注4……14日に一部解除の方針となった。

一般の方に伝えたいこと

──一般の方にお伝えしたいことはありますか。 

志賀 とにかく、全員がマスクをする、特に人と会うときはマスクをしてください、ということです。 

──医療従事者への差別も問題になっていますが、先生は差別などの体験をされましたか。家族に、コロナ感染症患者を診ていることを隠して働いている医療従事者もいるようですが。 

志賀 いまのところ、あからさまに心ない言葉をかけられたという経験はありませんが、見えないものに対する恐怖がある中で、分断した方が楽だから、差別をしてしまう人がいるのだろうと思います。コロナ感染症患者を診ていることは、同居している家族がいるならば話すべきだとは思いますが、心配をかけたくない、子どもいじめにあわないか、といった理由で話さないケースもあると思います。当事者の声を伝えていくことも大事だと思います。 

(松村 むつみ)

志賀隆医師