新型コロナの影響でロックダウン下のニューヨークへ派遣されたアメリカ海軍の病院船「コンフォート」は、どのような活動実績を残せたのでしょうか。日本の病院船保有議論にも大きな一石を投じるかもしれません。

ロックダウン下ニューヨークにおける任務を終えた病院船「コンフォート」

2020年4月30日(木)、ニューヨークで医療支援活動を行なっていたアメリカ海軍の病院船「コンフォート」が、約1か月間に及ぶ任務を終了し、母港のあるバージニアノーフォークへ帰還の途につきました。

コンフォート」は、2018年1月に来日した病院船「マーシー」の同型船で、マーシー級病院船の2番船です。マーシー級病院船は民間の石油タンカーを改装する形で建造されており、「コンフォート」は1987(昭和62)年12月1日に、アメリカ海軍へ就役しています。

マーシー級は完全装備の手術室12室と1000床のベッド、4つのレントゲン室とCTスキャナー、薬局などを備え、また傷病者への医療に必要な酸素生成装置と、10年間保存可能な冷凍血液を保管する血液バンクも搭載しています。2018年に「マーシー」が東京に寄港した際、それを記念して東京都内で開催されたシンポジウムにおいて在日アメリカ海軍司令部は、マーシー級は心臓バイバスと臓器移植以外のすべての手術が可能であると述べています。

アメリカ海軍における病院船の最大の任務は、戦時に発生した傷病兵に対する医療活動ですが、高い医療能力を活用して、大規模災害時の医療支援にも活用されています。

コンフォート」も、2005(平成17)年にアメリカへ甚大な被害をもたらしたハリケーン「カトリーナ」の際と、2010(平成22)年1月に発生したハイチ地震の際に、それら災害で大きな被害を受け機能が低下し傷病者の対処が困難になった現地の医療機関を支援するため派遣され、両事案とも約1か月間に1000名以上の傷病者の治療を行なっています。

大統領自ら見送った「コンフォート」の出港

今回の「コンフォート」の派遣が決定した2020年3月の時点で、ニューヨークでは新型コロナウイルスの感染が急激に拡大し、現地の医療機関の対応能力が限界に達していました。このためアメリカ国防総省はアメリカ連邦緊急事態管理庁と協議を行ない、「コンフォート」をニューヨーク、「マーシー」をロサンゼルスに派遣することを決定しました。

これを受け「コンフォート」は、3月28日ニューヨークへ向けてノーフォークを出航、その際、トランプ大統領とエスパー国防長官が見送りに訪れており、大きな期待がかけられていました。

派遣が決定した時点で「コンフォート」には、新型コロナウイルスの感染拡大にともない、医療機関での対応が困難になったコロナウイルス感染患者“以外”の傷病者を受け入れて、ニューヨーク医療崩壊を緩和するという任務が課せられていました。

しかしニューヨークではロックダウンが実行されていたため、受け入れを想定していた交通事故や建設現場での事故、犯罪による負傷者などは激減していました。また「コンフォート」への乗船にあたっては、新型コロナウイルスに感染していないことはもちろん、軍が定めた49項目の医学的条件をクリアしている必要があり、この条件をクリアできず乗船が認められなかった、新型コロナウイルス感染者以外の患者が少なからず存在していたという報道もあります。

もにこのふたつの理由から、「コンフォート」は3月30日から4月7日のまでの1週間で、44名の患者しか受け入れることができませんでした。

このためアメリカ海軍は方針を転換し、4月6日から「コンフォート」への新型コロナウイルス感染患者の受け入れを開始しましたが、乗員やほかの患者への感染を防ぐため、船内の区画を厳密に区切った結果、病床数は集中治療室を含めて600床にまで減少してしまいました。

こうしたこともあって「コンフォート」の活動終了までの治療者数は、新型コロナウイルス感染患者を含めて182人と、必ずしもかけられていた期待に応えたとはいい難い結果に終わっています。

「コンフォート」の活動実績受け日本の病院船保有議論はどうなる?

日本でも新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、医療崩壊を防ぐための手段として病院船を導入すべしとの議論が活発化しており、4月3日付の朝日新聞5月5日付の日本経済新聞は、政府が病院船の活用調査費を補正予算に計上すると報じています。

前に述べた「コンフォート」の、ハリケーン「カトリーナ」やハイチ地震における活動実績が物語るように、病院船が大規模災害時の医療支援の手段として有効であることは間違いありません。しかし、新型コロナウイルスのような感染症の医療支援では、必ずしも大きな成果をあげられるとは断定できないことも、今回の「コンフォート」の活動実績が物語っていると筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

マーシー級は通常、少人数のアメリカ軍軍属(軍人ではない軍所属者)の乗組員とアメリカ海軍の現役医療要員、船の保守要員によって縮小運用を行っており、必要に応じて5日以内に、任務に最適化した医療スタッフと、船の運用に必要な要員を召集して出動する態勢をとっています。

日本が病院船を導入する場合、通常の保守は海上自衛隊が行ない、医療スタッフ防衛省自衛隊の人員を活用する可能性が高いと考えられますが、現時点でも海上自衛隊の艦艇は乗員を充足できておらず、また医官や看護師資格を持つ隊員も不足しています。この状況下で病院船の運用を海上自衛隊に委託した場合は、ほかの艦艇の運用に支障をきたす恐れもあります。

地震や津波など大規模災害の多い日本において、病院船が有用な存在となり得ることは確かです。しかし、新型コロナウイルスという「いまここにある危機」だけに目を奪われた議論ではなく、自然災害や疫病、有事などあらゆる脅威に対して、少なからぬ費用を投じる価値があるか否かを議論した上で、導入の可否を判断すべきだと筆者は思います。

約1か月間の医療支援任務を終えてニューヨークを後にする「コンフォート」(画像:アメリカ海軍)。